セクサロイドは眠らない

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2001年08月10日(金) 赤い舌がぬめぬめと絡みついて来て、白い指がやさしく規則的にこすり上げて来て

「おかえりなさい。」
彼女は、表情も変えずに言う。

「ただいま。変わったことはなかったかい?」
「ええ。」

彼女の腕に目をやると、真っ赤にただれている。

「どうしたの?」
「申し訳ありません。沸騰したお湯をポットに注ごうとして手がすべってしまったのです。」
「痛かったろう?」
「いいえ。」
「何言ってるんだ?こんなになってるんだぞ。痛かったんだろう?」
「いいえ。」

彼女は、眉一つ動かさない。僕は、慌てて救急箱を取りに行き、治療する。

「お湯がかかった時、腕に感じた苦痛。それが痛みだ。そういう時は泣いてもいいんだよ。怖がってもいいんだよ。」

--

手当てが終わり、食卓に付く。

「お前もおいで。」
「はい。」

彼女は、僕が食事をとるそばで、液体燃料と称するスープを飲む。

--

彼女は、チラリと僕を見て、その表情を読み取ると、僕の前にひざまずいて、僕のズボンのベルトを外す。赤い舌がぬめぬめと絡みついて来て、表情のない目が僕を見上げる。白い指が、やさしく規則的にこすり上げて来て、僕は、「もういいんだよ。そんなことはしなくていいんだよ。」と言おうとするが、打ち寄せる快楽の波に飲まれて、そこから動けなくなる。

長い時間。静かな時間。突然、彼女の口の中に、ドロリと僕の悲しみを吐き出すと、僕は泣き出してしまう。彼女は無表情で立ちあがる。

--

僕は、治療者として失格だ。

生まれて間もない彼女を残し亡くなった母親の代わりに、彼女の父親が彼女を育てた。彼女を家から一歩も出さず、人間の子供ではなく、ドールとして育てた。全ての感情を持たず、アノ目的を満たすように創り上げた。

父親が亡くなって、彼女はその呪われた家から救い出された。いや、救い出されてはいない。彼女の心の檻から彼女を救い出す役割を与えられた僕は、医師として失格だ。彼女に恋をして、彼女を連れて病院を抜け出した。

--

ごめんよ。ドール。僕はキミをいつか人間にすることができるだろうか?

いや。キミは知っているんだろう?

僕が、なぜ病院を逃げ出したか。

キミが人間になるのが怖かった。ずっとドールのままでいて欲しかった。

キミの体を抱き締める僕を、だが、彼女は抱き返さない。その術がない。愛情を教えられていないドール。可哀想なドール。可哀想な僕。


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