セクサロイドは眠らない

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2001年08月08日(水) 僕は、彼女の体をかき抱き、唇から、首筋に、胸元に、愛の刻印を押していくが、彼女の目は僕を見ない。

体が重苦しくて、息がうまくできない。体中が痛くて、熱を帯びている。こんな苦しいことは初めてなので、僕は、「死ぬ時というのはこんな感じだろうか」と考えてみる。

「大丈夫?」

冷たくヒヤリとした手の平が、僕の額にあてられる。乾いたタオルが、僕の体の汗を、そうっと拭きとってくれる。僕は、少しホッとして、また気を失う。

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目が醒めると、体が随分軽くなって、呼吸が楽になっていた。

だが、背中が痛い。焼けるように、痛い。

「まだ、横になっていないと。」
その声は、おっとりと響き、僕はまた、安心して眠りにつく。

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「背中、どう?」
「いたい。」
「痛いでしょう?何でこんなことになったのかしら。皮膚が裂けたみたいになって、すごく腫れていたの。でも、お医者も呼べないし。死んじゃうかと思ったけど、良かった」

そうっと目をあけると、一人の女性が。この人を知っていると思ったが、僕には何も思い出せない。

「どこかで会ったことがあった?」
と聞いてみる。

「私と?いいえ。初めてだと思うわ。」
彼女は微笑む。

この人の言葉は、ゆったりと、天から降って来たように響くのだ。ただ、ここで、彼女の言葉にずっと耳を傾けていられたら、と思った。

「何か買ってくるわね。柔らかくて、体に負担にならないもの。何がいいかしら?」

立ちあがろうとする彼女の手首を掴んで、僕は懇願した。

「行かないで。ここに居て。何かしゃべっていて。」
「困った人ね。」
彼女は、また、微笑む。

--

彼が来るから、今日はこっちの部屋に隠れていて。と彼女は言う。内側から鍵を掛けて、物音を立てないで。と。

僕は言われたとおり、部屋を移った。

しばらくすると、誰かが彼女の部屋を訪れた。彼女は、いつものおっとりとした雰囲気とは違い、パタパタとスリッパの音を響かせて、男のために動き回っていた。

そのうち、彼女のスリッパの音は止み、ベッドのきしむ音がする。僕は、男と彼女が何をしているか分からないままに、耳を塞ぐ。彼女のうめき声が響いてくる。苦しげなすすり泣きが、聞こえる。天使が地に落ちたかのような叫び声がして、彼女の声がとぎれる。

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「ごめんね。全部聞こえたでしょう。」
僕は、彼女に何も言って欲しくない。
「私は、あの男に食べさせてもらってるの。」
何も言わないで。そんな言葉は、あなたの言葉じゃない。天使の言葉を言って。
「あなたも、体が良くなったら、ここから出て行ったほうがいいわ。」
それが、あなたの本当に言いたいこと?

「愛していると言って。僕を愛すると。」
彼女の唇が、僕の傷ついた背中を這う。

「もう、私には、愛が何か分からないのよ。」
彼女の涙が、僕の傷に染みこんで、ヒリヒリと痛い。僕は、彼女の体をかき抱き、唇から、首筋に、胸元に、愛の刻印を押していくが、彼女の目は僕を見ない。

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その言葉を口にしてくれるだけで良かったのに。

その間際思い出す。
僕は、人間のあなたに恋をしたために羽をむしり取られて地上に落ちた天使。背中の傷は、恋の痛み。人間から愛の言葉を聞くための代償は、その、純白の翼だった。

愛の言葉が貰えなかった、地に落ちた天使は、今、神に召される。


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