セクサロイドは眠らない

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2001年08月07日(火) 熱っぽい唇が僕の唇にそっと触れ、唇を割って入りこんで来た舌が僕の舌をまさぐってくる

「うちに来ても、勉強はしっかりするんだぞ。」
おじは、にらみつけるようにそう言い、おじの息子で高校生のタカオは
「僕が教えてやるからさあ。」
と、人懐こく笑った。

父と母の離婚が決まった時、僕は、しばらくおじの家に預けられることになった。中学も、転校して、人里離れた農村に来た僕は、どうせ農作業の手としてあてにされているだけだと分かっていたが、心底ホッとしたのだ。父と母のサンドバッグになって、僕は傷つくだけ傷ついていた。

おじも、おばも、突然転がり込んで来た僕にとまどい、「金を貰ってしまったからしょうがない」と、そればかり口にした。

--

庭の池には、ナマズが住んでいて、僕は、毎日川まで出かけて行っては、ナマズの餌になるエビを捕ってくる。川辺は、木陰がたくさんあって、涼しく、僕は、そこでボンヤリと時間を潰すのが好きだった。

「いつもここにいたのか?」
頭上を見上げると、タカオが笑っていた。

「うん。ここ、気持ちいいから。」

タカオは、よく日に焼けて、勉強も出来、サッカー部でも活躍していた。僕はそれはうらやましかった。僕は、彼のようにスラスラとしゃべることはできない。彼のように、迷わずに手や足を動かすことはできない。いつだってギクシャクして、すぐにもつれてしまう下手な操り人形のようだった。

「寝転んだようが気持ちいいよ。」
タカオは、僕の隣に腰を下ろすと、ゴロリと寝転んだ。
僕も、そっとタカオの隣で、仰向けになった。

「僕も、小学生くらいまでは、こうやって雲が流れるのを見ているのが好きだった。」
「今は?」
「今?オヤジもお袋もうるさいから、ね。じっとしている暇はないんだ。」

風は、気持ちよく流れ、僕は少しウトウトしてしまった。

誰かが、髪を触り、指で、頬や鼻筋をなぞっている。熱っぽい唇が僕の唇にそっと触れ、唇を割って入りこんで来た舌が僕の舌をまさぐってくる。僕は、目を開けるのが怖くて、眠ったふりをしながら、それでも、下半身がどうしようもなく緊張して、呻き声が漏れそうになる。

「誰も聞いてないから。声を出しても大丈夫だよ。」
タカオの声が耳元でささやく。

怖かったけど、それでも涙が出そうになる。タカオの体が僕の上に乗って来て、心臓の鼓動を感じた時、僕は、感謝の溜息をつく。物心ついてから、誰からもこんな風に肌を触れてもらったことがなかった。誰かの心臓の音が、こんなに暖かいとは思わなかった。

「可愛いなあ。」
タカオは、僕の学生服を脱がすと、僕をじっと見ながら微笑んだ。僕は恥ずかしさで真っ赤になりながら、タカオの指を唇を、全身で待っていた。

--

タカオと、おじやおばの口争いが、毎晩のように繰り返され、タカオが次第に家に帰って来なくなった、ある晩、おじの納屋から火が出た。

あの晩、僕は、タカオと会っていた。そうして、タカオが「やることがあるから」と僕を先に帰らせた。その後の出来事だった。

結局、よそ者の僕が疑われて、村を追い出されることになった。

村での最後の日、川辺に行くと、タカオが先に来て、座っていた。彼も、僕も、一言も言葉を交わさなかった。

僕は、利用されたとしても、タカオが好きだった。誰にも愛されたことがなかった僕が、誰かに一瞬でも必要とされたことが、僕には本当に誇らしかったから。この記憶があれば、この先、もう少し生きていけそうな気がしているから。


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