セクサロイドは眠らない

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2001年08月05日(日) その指は、恋人のそれより遥かに繊細に、私の欲望の輪郭をなぞるので、私の体は重さを失い

音楽室からピアノの音が響いて来る、土曜の午後。

もう、気分は良くなった?養護教諭の私は、その少女に声を掛ける。

「せんせい?ああ、ずっといてくれたんだ。良かった。」
少女は微笑む。

「放っておくわけにいかないでしょう?それより、歩けるならそろそろ帰ったほうがいいわ。無理みたいならおうちに電話するし。」
「家には、誰もいないんです。それより、もう少しここにいていいですか?」
「いいけど・・・。」

襟元のボタンを外しているせいで、白い胸元が見える。私は目をそらす。美し過ぎる彼女と保健室にいると、どことなく落ち着かない。

「ちょっと用があるから、一人で寝ててね」
私はそう言い渡すと、保健室を出る。恋人との約束には間に合いそうにないので電話をしなくては。最近、彼の機嫌が悪い。私が早く仕事を辞めないから。彼が結婚の話をしようとするのを、私が遮るから。

--

時折、少女は保健室にやってくる。いつも、私一人の時を狙っているように。私は、ドギマギしてしまう。美しい人は苦手だ。

「ねえ。先生。この前は、本当はデートだったんでしょう?私のせいでデートに間に合わなくて、彼を怒らせたんでしょう?」
「何でそんなことまで知ってるの?」
私は少し怒った顔をしてみせる。

「先生のことは何でも分かるんだもん。」

少女は微笑んで、言う。
「先生、可愛いわ。」

まるで、私よりはるかに長く生きた女のような目をして、少女は私の唇に指を触れると、保健室を出て行ってしまった。

--

「今日は、どうしたんだ?」
恋人が不思議そうに訊ねる。

私は、体に火が点いたように、彼を求める。子宮の奥が熱くて、じっとしていられない。彼の物を飲み込んでも、まだ、静まらないものが、グルグルと渦巻いて「もっと、もっと」と悲鳴を上げている。

--

私は、保健室で彼女の来るのを待ち焦がれて、早々に他の生徒を帰らせてしまった。

「先生、待っていてくれたの?」
少女が嬉しそうに、保健室に入ってくる。

「嬉しいわ。」

少女は、ベッドの上で制服を脱ぎ、真っ白い体を横たえて、私に「来て」と懇願する。私は、フラフラとベッドに吸い寄せられる。

「ねえ、先生も服を脱いで。」
「だめよ。」
「どうして?」
「あなたみたいに美しくないもの。」
「先生も、私みたいになりたい?」
「ええ。あなたになりたい。あなたそのものに。」
「じゃあ、私と来る?」
「どこへ?」
「素敵なところ。」

彼女の口づけは、熱く、燃え盛っている。彼女の細い指が、私の敏感なところをまさぐる。その指は、恋人のそれより遥かに繊細に、私の欲望の輪郭をなぞるので、私の体は重さを失い、もはや、自分をどこかにとどめておくことができない。

ねえ。一緒に来て。

彼女の瞳の奥に、欲望を食らおうと待っている、不老不死の蛇が見える。

--

ハイミスの養護教諭が一人いなくなったところで、たいして大きな事件にはならない。

そもそも、世のものとは思えぬ美少女が学校にいたことも、誰も覚えていない。

音楽室からは相変わらずピアノの音が響き、保健室には少女達がたむろする。


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