セクサロイドは眠らない

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2001年08月04日(土) 彼女の柔らかい部分は、ドロドロに溶けて男を誘いこもうとしている

彼は、私を自分のモノにして、そうして捨てた。よくある話である。それにしても、彼はやり過ぎた。つまりは、女性の体ではなく、心を完全に屈服させることが彼の目的なのだから。そうやって次から次へと。彼に完全に心を捧げた瞬間、その女性は彼にとってはもうその姿形さえ思い出せないくらいどうだっていい存在に成り下がるだけなのだ。彼に捨てられて自殺してした女性が新聞の片隅に載ったところで、彼は「はて、誰だっただろう」と思う程度である。

「そのうち刺されるぞ。」
彼の友人達は、彼をからかう。

「そうだろうか。」
彼は、笑いながら答える。人生は、指の間からポロポロとこぼれていく砂のように楽しい。

--

それにしても、この女は、一体何者なんだろう。と、今、男は考えている。さっきまで、バーで飲みながら、女はよくしゃべった。ひどく元気に。そうして、今、男は耐えかねて彼女の唇を奪った。彼女がしゃべっている言葉が何であっても良かった。官能的な旋律だけが女の口から飛び出し、男の欲望にまとわり着いてくるのが我慢ならなかったのだ。

女は目を見張って、吐息のように言葉を絞り出した。
「びっくりしたわ。」

男は歯止めが効かない。女の唇を何度でも奪う。女は喘ぐ。

「どこか行くか?」
女は、潤んだ目でうなずく。

部屋での女は、とてもたよりなげにベッドに座っている。

男は、女の服を脱がすと、もう、荒れ狂う心のままに女の体の中に自分を埋め込みたくなってくる。彼女の柔らかい部分は、ドロドロに溶けて男を誘いこもうとしている。

「待って。」
と、女が泣くようにささやいても、
「ダメだ。待たないよ。」
と、男は女の泣き声が聞きたくて、ずぶずぶと自らを埋めていく。

女は悲鳴をあげて達する。

--

それで終わりだと思ったのだ。

いつものように。

だが、終わらないのだった。

男が、今度は女の心をモノにしようと女の元に行くと、彼女は、いつも夕べのことを忘れたように小首を傾げ、涼しげに笑う。女は男との情事の記憶を、体にも心にもまったくとどめていない。常に新しく生まれて来たかのように、まっさらな記憶で男に接する。

だから、終わらない。

この女を、セミを昆虫採集のピンで留めるように、恋の廃墟に留めてしまわない限り、俺は次には進めない。

--

私は、彼の友人達が、最近彼を見かけなくなったと噂しているのが気になって、とうとう彼の部屋を訪ねて行ってしまった。

部屋の中から漂う悪臭。

彼は、私の訪問にすら気付かない。

排泄物が散乱した部屋で痩せ細った彼は、ガラクタのように転がっている一体の人形に向かって何やらつぶやいている。

私は、慌ててドアを閉めて、部屋を後にした。


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