セクサロイドは眠らない

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2001年07月30日(月) 頬が上気している。下半身をチラチラと熱い舌が這いずる。

「ねえ、パパ、一緒にお風呂に入ろう?」

少し甘えて見せるアヤカは、もう今度中学生になろうかという年頃なので、僕は戸惑う。

「もう、一人で入りなさい。」
そう言って少し厳しい顔を見せると、アヤカはがっかりした表情になった。

「一緒に入ってあげたら?」
妻がからかうように言うのだが、どうも気が進まない。

「それより、具合どう?」
妻が最近、どうも体調が思わしくないと、床に伏せりがちなのが心配で、僕は訊ねる。
「そうねえ。あまり変わらないわ。ごめんなさいね。忙しい時に。」
「いいよ。それより、早く寝て、少しでも早く元気なってくれよな。」
「せめて、アヤカの中学の入学式に間に合えばいいんだけど・・・。」
「大丈夫だよ。きっと。」
僕は、妻の憂鬱を吹き飛ばそうと、笑い掛ける。

「あ、パパとママだけおしゃべりして、ずるいっ。」
アヤカは風呂上がりの上気した体にタオルを巻きつけた格好で部屋に掛け込んでくる。
「早く服を着なさい。」
僕は、アヤカのほうを見ないようにして、口調を険しくして注意する。最近、アヤカは急に体つきが丸みを帯びて、もう、少女というよりは大人の女性を感じさせる。姿態や言動も妙になまめかしくなって来たので、どうも近頃のアヤカは僕には扱いづらい。

--

妻が亡くなったのは、それから間もなくだった。アヤカの入学式も待たずに。早咲きの桜が、狂ったように花びらを散らし続けていた、まだ2月になったばかりのある日。

アヤカは、さほど母親が亡くなったのを嘆く様子もなく、葬儀の後片付けをテキパキと行った。泊まりこんでいた妻の姉は、アヤカのことを心配しつつも、糖尿病の夫を放っておくわけにもいかない、と、午後の飛行機で戻って行った。

--

ねえ。パパ。ママがいなくて寂しいの。今夜一緒に寝てくれる?

ああ。いいよ。じゃ、布団をもう一組出しておこうかな。

ううん。いいの。私、パパのお布団で寝るわ。

だって、狭いじゃないか。

いいじゃない。私寂しいの。

しょうがないなあ。

--

少し遅い時間に、僕は、先に布団に入っていたアヤカの横に体を滑り込ませた。

「パパ、待ってたの。なんだか、この部屋はすごく寒くて。」

抱きついて来たアヤカが、一糸纏わぬ姿なのにギョっとして、僕はアカヤの絡ませてきた手を振りほどく。

「パパ、ひどい・・・。」
「何を言ってるんだ。早く服を着なさい。」
「いやよっ。やっと二人になれたのに。」

中学生とは思えない不自然に成熟した白い体が僕の体に乗ってくる。

「ねえ。パパ。アヤカのこと、嫌い?」
「嫌いじゃないよ。娘だもの。」
「だったら抱いてよ。ねえ。パパ。ずっと私がパパのこと好きだったの、知ってるでしょう?」
「やめなさい。」
「いやよっ。」

アヤカの頬が上気している。金縛りにあったように動けなくなった僕の下半身をチラチラと熱い舌が這いずる。

「やめろ・・・。」
「いや。いや。いやあよ。パパ、アヤカのこと好きでしょう?パパはアヤカだけのものよ。誰にも渡さないもん。ママがいなくなるの、ずっと待ってたのよ。」
「・・・。」
「また会いに来るって言ったじゃない。」

アヤカの体が狂おしく僕の体をかき抱く。

--

僕は、妻と結婚する前に僕が捨てた女のことを思い出す。
「きっと会いに来る」
と言い残して自殺してしまった、あの女を。

何もかも、考えるのが怖くて頭から振り払った。

アヤカとは、もう、引き返せない場所まで来てしまった。最近では、僕はめっきり食欲も無くなり痩せてしまった。僕は狂っているのだろう。何もかもが狂っているのだ。あの女も。アヤカも。妻を弔った桜の花びらも。


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