セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2001年07月29日(日) |
その瞬間、熱い痛みが走る。果てしない痛みと快感に飲まれて、私は嗚咽する。 |
内科病棟に移動になって、私は、その少年に初めて会った。白い肌。熱で潤んだ瞳。15歳であるという、その、美しい少年は、看護婦達の間でもしばしばささやかれる人気だった。
私はと言えば、その頃、不倫の関係にあった産婦人科の医師との関係を清算したばかりで、かなり疲れていて、少年の美しさにも気付かずに、ただ、抜け殻のように仕事をしていた。この病院で勤務を始めた直後から7年続いた関係は、私にとってあまりにも長過ぎた。
「僕達の星には、裏切りも、心変わりもないんだ。現世で結ばれなかった恋人達は、契約を交わすと、来世で結ばれるんだよ。」
私は、朝の定期検診で脈をとっている時、そんな風に急に少年から話し掛けられて驚いた。
「なに?」 「ううん・・・。怒ったらごめん。あなたが悲しそうな顔をしているから。」 「からかわないで。」
私は頬に血が上り、彼の元を急いで離れた。
その少年の事が気になり、翌日、彼の個室を覗くと彼は具合が悪いのか、ベッドに横になったまま私のほうを向いて微笑んだ。
「苦しいの?」 「大丈夫。」 「昨日、変な事、言ったでしょう?」 「ああ。ごめんね。あなたがあんまりひどい顔してたから。魂が抜け落ちてどっかいっちゃったみたいな顔。」 「すごいのね。」 「そうかな。」 「あなたの星って?」 「あはは。きっと僕の妄想。でも、こんな場所に閉じ込められていたら、ちょっとぐらいの妄想も許されるよね。」 「何か飲む物を持ってくるわ。」
私は、少年に見つめられるのが怖くて、慌てて部屋を出た。水の入った吸飲みを持って来た時には少年は眠っていた。
--
少年の容態は少しずつ悪化していた。座っていることができず、ベッドにぐったりと横たわっていることが増えた。
彼の体の汗を拭くと、彼は力なく微笑んだ。
「僕達の星では、一年中穏やかな春の暖かさだ。寿命は短いけれど、別れた恋人達は必ずまた、巡り会える。」
彼が、熱を帯びた指で私の指先に触れてくるので、私は悲しくなった。
--
夜、彼が私の部屋を訪ねて来た。
「どうしたの?こんな夜中に。」 「会いたくて。」 彼は微笑む。
彼の体は、昼間の熱っぽさが引いて、むしろ冷たいくらいだった。私は、彼の体の冷たさが悲しくて泣き出した。
「どうして泣くの?」 「あなたは、もう、いなくなってしまうんでしょう?」 「また、巡り会えるんだよ。僕達の星では。」 彼は私の涙に唇を当てて、そっと抱きしめてくれる。私よりずっと華奢な筈の彼の体は思ったよりずっと力強くて、穏やかな心臓の音が波のようで。
「さあ。血の契約を。」
彼の糸切り歯が私の人差し指を掻き切る。血がほとばしる。彼、自分の指もまた、掻き切る。彼の血と私の血が混ざる。その瞬間、熱い痛みが走る。
彼の血が私の体に流れ込む。私の血が彼の体に流れ込む。果てしない痛みと快感に飲まれて、私は嗚咽する。
--
翌朝、病院に出勤して行くと、彼の個室はきれいさっぱり片付けられ、個室のドアの彼の名前のプレートも外されていた。
--
私は、薬を飲む。彼のいる星に行くため。
別れた恋人達は必ずまた、巡り会える。
現世で結ばれなかった恋人達は、契約を交わすと、来世で結ばれる。
彼の噛んだ指が、熱く燃えている。
|