セクサロイドは眠らない

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2001年07月29日(日) その瞬間、熱い痛みが走る。果てしない痛みと快感に飲まれて、私は嗚咽する。

内科病棟に移動になって、私は、その少年に初めて会った。白い肌。熱で潤んだ瞳。15歳であるという、その、美しい少年は、看護婦達の間でもしばしばささやかれる人気だった。

私はと言えば、その頃、不倫の関係にあった産婦人科の医師との関係を清算したばかりで、かなり疲れていて、少年の美しさにも気付かずに、ただ、抜け殻のように仕事をしていた。この病院で勤務を始めた直後から7年続いた関係は、私にとってあまりにも長過ぎた。

「僕達の星には、裏切りも、心変わりもないんだ。現世で結ばれなかった恋人達は、契約を交わすと、来世で結ばれるんだよ。」

私は、朝の定期検診で脈をとっている時、そんな風に急に少年から話し掛けられて驚いた。

「なに?」
「ううん・・・。怒ったらごめん。あなたが悲しそうな顔をしているから。」
「からかわないで。」

私は頬に血が上り、彼の元を急いで離れた。

その少年の事が気になり、翌日、彼の個室を覗くと彼は具合が悪いのか、ベッドに横になったまま私のほうを向いて微笑んだ。

「苦しいの?」
「大丈夫。」
「昨日、変な事、言ったでしょう?」
「ああ。ごめんね。あなたがあんまりひどい顔してたから。魂が抜け落ちてどっかいっちゃったみたいな顔。」
「すごいのね。」
「そうかな。」
「あなたの星って?」
「あはは。きっと僕の妄想。でも、こんな場所に閉じ込められていたら、ちょっとぐらいの妄想も許されるよね。」
「何か飲む物を持ってくるわ。」

私は、少年に見つめられるのが怖くて、慌てて部屋を出た。水の入った吸飲みを持って来た時には少年は眠っていた。

--

少年の容態は少しずつ悪化していた。座っていることができず、ベッドにぐったりと横たわっていることが増えた。

彼の体の汗を拭くと、彼は力なく微笑んだ。

「僕達の星では、一年中穏やかな春の暖かさだ。寿命は短いけれど、別れた恋人達は必ずまた、巡り会える。」

彼が、熱を帯びた指で私の指先に触れてくるので、私は悲しくなった。

--

夜、彼が私の部屋を訪ねて来た。

「どうしたの?こんな夜中に。」
「会いたくて。」
彼は微笑む。

彼の体は、昼間の熱っぽさが引いて、むしろ冷たいくらいだった。私は、彼の体の冷たさが悲しくて泣き出した。

「どうして泣くの?」
「あなたは、もう、いなくなってしまうんでしょう?」
「また、巡り会えるんだよ。僕達の星では。」
彼は私の涙に唇を当てて、そっと抱きしめてくれる。私よりずっと華奢な筈の彼の体は思ったよりずっと力強くて、穏やかな心臓の音が波のようで。

「さあ。血の契約を。」

彼の糸切り歯が私の人差し指を掻き切る。血がほとばしる。彼、自分の指もまた、掻き切る。彼の血と私の血が混ざる。その瞬間、熱い痛みが走る。

彼の血が私の体に流れ込む。私の血が彼の体に流れ込む。果てしない痛みと快感に飲まれて、私は嗚咽する。

--

翌朝、病院に出勤して行くと、彼の個室はきれいさっぱり片付けられ、個室のドアの彼の名前のプレートも外されていた。

--

私は、薬を飲む。彼のいる星に行くため。

別れた恋人達は必ずまた、巡り会える。

現世で結ばれなかった恋人達は、契約を交わすと、来世で結ばれる。

彼の噛んだ指が、熱く燃えている。


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