セクサロイドは眠らない

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2001年07月25日(水) こうやって、私達は、おたがいの体を何時間もかけて

私は、生まれつき目が見えなかった。

父も母も私にやさしくしてくれたので、私はとても幸せに育った。誰もが私の顔を美しいと言ったが、私には自分の顔は見えない。私は一人でいることが多かったが、実際のところ、誰かがおしゃべりの相手をしてくれるのがとても嬉しかった。

自然に私は無口になった。黙って周囲の言葉に耳を傾けることが多いため、人々は、私を幼稚な人間、知能が年齢に伴っていない人間だと思いこむようだった。

私の元を訪れる数少ない友人の一人に、隣の家のヨウスケがいた。私はヨウスケが好きだった。たくさんの話を聞かせてくれ、私を子供扱いしない。私が物言わぬ人形ではないことを知っていて、私の考えにじっと耳を傾けてくれる。

「ねえ。ヨウちゃん。」
「なに?」
「ヨウちゃんの体も、先生が保健の時間に言っていたみたいに、いろんな風に変わって来てる?」
「え・・・?あ。まあ・・・。ちょっとは。」
ヨウスケはうろたえて、曖昧な返事をした。

「私の体もね。ちょっとずつ変わってるみたい。ほら。おっぱい触ってみて。」
「ダメだよ。」
「どうして?」
「そういう事はしちゃダメなんだよ。」
「いじわるね。」

そういうやりとりをしているうちに、ヨウスケの息が荒くなって、私の体にそっと手を触れてきた。

「ね?私の胸、少し大きくなったでしょう?」
「ああ。」
「ねえ、ヨウちゃんの体も触らせて。」

こうやって、私達は、おたがいの体を何時間もかけて、さすったり、撫で回したりするようになった。

ある日、母が私の部屋を訪れて叫んだ。
「あなた達、何をしているの?」

それきり、ヨウスケは来なくなった。

--

それから一年ののち、私は、目の手術を受けた。私の目は、手術で視力を得た。

私の顔。思っていたとおり美しい顔。

目が見えるようになると、私はだんだん快活になり、たくさんの恋人を持った。自分を抑えこんでいた十数年から解放され、私は自分の好奇心を満たそうと、ありとあらゆる場所に出かけ、多くの男と交わりを持った。

男と寝ることで、私は何かを探しているのだ。だが、それは、いくらたくさんの男達と寝ようが手に入らない。

--

ヨウスケの父親の葬儀で、ヨウスケに会った。初めて見るヨウスケは、痩せた顔色の悪い男だった。私の顔を認めると、恥ずかしそうに目をそらした。

「ねえ。今夜、私の部屋に来ない?」
私はヨウスケに言った。
「ああ。いいけど。」
「小さい時、よくヨウスケが遊びに来た、あの部屋へ。」
「ああ・・・。」
ヨウスケはおどおどとうなずいた。

--

あの時、私達はほんの子供だったよね。部屋で目をキョトキョトさせているヨウスケに向かって、私は言った。

ねえ。目隠しをして。あの時みたいにして。

私には、暗闇とあなたの声だけが友達だったのよ。

私は、ずっとあの暗闇を探し続けていたの。


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