セクサロイドは眠らない

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2001年07月17日(火) 本当は彼を殺したのは私

桔梗の花が咲き乱れる庭で、私は、お腹の子供の父親の事を想う。彼は半年前に自らの命を絶ってしまった。

もうすぐ。もうすぐ、赤ちゃんに会うことができるのだ。私が愛した人が残してくれた赤ちゃんに。

本当は彼を殺したのは私。私は、20年間、彼に復讐するために生きて来たのだから。そして、復讐は実に簡単なことだった。

「ねえ、私、ね。赤ちゃんが出来たの。」
「そうか。」
「びっくりした?」
「ああ。びっくりしたよ。」
その瞬間、男は驚くほど幸福そうだった。
「嬉しい?」
「そりゃ、嬉しいさ。もう、僕もいいおじさんだからね。この歳で初めてパパになるなんて気恥ずかしいけどさ。すぐ式を挙げよう。」
そうやって笑った。

「私、赤ちゃんの名前、もう決めているの。お母さんも、私も、桔梗の花が大好きだから、桔梗って名付けるのはどうかしら?」
そうして、母の作った桔梗の花の栞を、そっと彼の手に握らせた。

察しのいい彼は、それだけで全てを悟った。そうして、その週末、海岸から身を投げてしまった。

--

私の母は平凡な人妻だった。桔梗の花を愛し、押し花にして、栞や葉書を美しく細工するのが好きなやさしい人だった。

ある夏、避暑に訪れた20歳年下の青年と恋に落ちた。夏が終わり、青年が去って行く時、彼女は妊娠していた。青年はそれを知らぬまま旅立ってしまった。

母は出産に耐えられる体ではないのに、私を生んだ。そうして、間もなく息を引き取った。母は幸福だったに違いない。愛する男の子供を産むことができたのだから。

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男は、たまたま同じ花が好きな2人の女を愛してしまっただけなのだ。

「さようなら。おとうさん」
最初で最後の言葉を添えて、私は海岸から桔梗の花束を投げ込む。


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