セクサロイドは眠らない

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2001年07月12日(木) パーフェクトチャイルド

初めての子供を流産して、医師から「子供を持つのは無理かもしれません」と言い渡されてからというもの、妻はしばしば「養子をもらいたい」と口にするようになった。最初は、流産のショックから気まぐれで言っているのだろうと思って聞き流していたのだが、養子縁組について調べて回る妻を見ているうちに少々哀れみを覚えた私は、妻に向かって、養子を貰う事をOKしたのだった。

妻は、飛びあがって喜んだ。そして、あるセンターへと私を連れて行った。

ブーン、と換気扇がなる、白く、チリ一つない部屋で、私達夫婦はそのセンターの担当者と話をした。

「当方では、養子に貰われて行ったお子さんの事後のケアに大変力を入れておりまして、病院・保育施設なども完備しております。親御さん同士の交流を目的とするグループもありますし、メンタル・ケアの各種プログラムも用意してあります。」

妻は身を乗り出して聞き、私はどことなく不安な面持ちで側に座っていた。

それから、何ヶ月もかかって、センターの担当者達と、夫婦で事前のカウンセリングを受け、家庭環境に関する幾つもの質問に答え、養子にと希望する子供の条件を細かく話し合った。

恐ろしく長い時間の末、一人の愛らしい子供が我が家にやって来た。健康で、人懐っこく、そして誰もが好きになるような愛らしい笑顔の2歳児。私達はトオルと名付けて、彼を可愛がった。実際、子供を受け入れるまではこれほど愛情が注げるとは私自身思っていなかった。

3歳を目前にして、トオルは、よく熱を出しヒキツケを起すようになった。妻も私も、心配してかわるがわる看病した。ある日、トオルの様子を心配した妻は、センターで検査を受けて来る、と言って出かけた。検査は数日間に渡り、戻って来たトオルは、すっかり元気になっていた。

まったく、元気に。

パチンと指を鳴らしたら、何もかもがクリーンになった。

そんな感じで。

トオルは、元気になったと同時にどことなく変わった。いや、そんな気がするだけかもしれない。前と同じように、「パーパ」と抱きついてくる様子も、口のそばにできる小さなエクボも同じだ。

そうして、3歳を向かえたトオルは、半年ほどして、検診で運動機能の発達に関して問題があると言われた。

妻は、取り乱し、また、センターに行って検査を受ける、と言い出した。

「もう少し様子を見てからでいいんじゃないか?」
と言う私に、妻は声を荒げて言うのだった。
「だめなのよ。私達の子供はパーフェクトでないと。」

パーフェクト?
「ええ。そうよ。」

ある日、仕事から帰ると、隣室で妻が話をしていた。トオルのことでセンターに電話をしているようだ。

「ええ。・・・。そうです。ですから、また交換してもらえないかと・・・。今度こそ健康面でも身体面でも問題のない子が欲しいんです。」

交換?

私は、子供部屋で静かに遊ぶトオルを見た。そしてセンターに向かった。

--

そうして、私は、今、センター内にいる。私は、もうここから出ることはできない。全てを知ったから。

PCP。パーフェクト・チャイルド・プロジェクト。カプセルの中で待っているたくさんの子供達。いや。培養された人間。

「廃棄」「臓器」などとプレートがかかった、幾つもの保管室。選りすぐりの子供は、養子に。あとは、小児愛好家や医療関係に闇で売られる。

パーフェクトチャイルド。理想の子供。作られた笑顔。記憶を差し替えれば、子供はいつでも交換可能。


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