セクサロイドは眠らない

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2001年06月20日(水) 寂しい者は、あふれてくる

「そう簡単にはいかないよ。」
と「老人」は言った。

「一番簡単なのは、寂しい者のそばに近寄らないことだな。お前の母親とか、友達とか。寂しい者は、あふれてくる。あふれて、お前の中に流れ込んで来るからなあ。」

この部屋は静かだった。何も、私の中に入りこんでこなかった。「老人」は私の手をとって引き寄せた。外は雨だったが、この部屋も「老人」の体も、太陽の匂いがして、あたたかく乾いて、力強かった。

「あなたは、まだ若いのですね?」
と、私は思わずつぶやいた。

「いいや。老人だよ。だが、しかし、お前と一緒だ。誰かから受け取ることはあっても、自分を放出したりしないので、力に満ちている。」

「老人」の愛撫は、私の空洞を裂いて侵入してくるものではなかった。

--

帰宅して、私は眠った。夢を見るために。体は、太陽の匂いに包まれたままだった。

路地で、黒ウサギを待ってみた。黒ウサギは来なかった。黒ウサギはまだ道を見つけられない。

目を覚ますと、「誰か」が訪ねて来ていた。やはり黒ウサギではなかった。「誰か」の愛撫は、哀しみに満ちていた。私は「誰か」の哀しみを、そ知らぬ顔で素通りして、彼の欲望だけを口に咥えた。欲望を飲み干して、「誰か」を送りだし、黒ウサギの干草の夢を見て、また眠った。

--

そもそも、黒ウサギにこちらから連絡をとったかどうか、不明である。ただ、黒ウサギは、あまりに急いで移動するので、連絡が無事届くかどうかも分からないのだ。だから、連絡をとることは無意味である。黒ウサギ相手では。

黒ウサギからメールが来たことがある。

黒ウサギは、なぜ私のアドレスを知ったのだろう?間違って、私の手元に届いただけかもしれない。

「とても、急いでるね。きみ。まだ、時間はある。だけど、きみが急ぐのはとても正当な理由からだ。僕は同じところを回っているだけだが、きみは確実に行き着くところに向かっている。」

私は、それを読んで、黒ウサギは間違いなく私にメールを送ったのだと思った。

行き着いたら、どうなるんだろう。私は、本当は自分で答えを知っているのかもしれないが、黒ウサギならなんと答えるだろう。


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