「静かな大地」を遠く離れて
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昨日の流れで『アジアの感情』をパラパラ見ていたら、下記の記述に行き当たった。
■新井敏記『池澤夏樹 アジアの感情』(スイッチ・バブリッシング)より 『楽しい終末』の帯の文句を引けば「もしも明日世界が滅びるとしたら、今日君は リンゴの木を植えるだろうか?」というマルチン・ルターの言葉の通りに、世界が終わる ことの方はとりあえずカッコに入れておいてその上で日々の生活をきちっとやる。 各論を積み上げる姿勢の延長上で多分『未来圏からの風』という仕事をした。
あのフレーズってルターの言葉だったのか、と思ってネット検索すると、異説もあるようだが とりあえずWikiquoteには出ていた。
■http://ja.wikiquote.org/wiki/マルティン・ルターより もしも明日世界が終わるなら、私は今日リンゴの木を植えるだろう。 "Wenn morgen die Welt unterginge, würde ich heute ein Apfelbäumchen pflanzen."
なんでルターに引っかかったかというと、佐藤優氏が講演会で神学の話をされた時に 「ドイツがおかしくなるときはルターが出てくる」みたいなことをおっしゃっていたのが 強く記憶に残っていたからだ。池澤夏樹氏の佐藤優ファンぶりは、以下の通り。
■池澤夏樹『虹の彼方に』(講談社)「羊飼いと羊」より 佐藤優が今の日本で最も魅力ある論客であることは誰もが認めるだろう。なにしろ朝日と 産経がこぞって話を聞きに行くのだ。 まず明晰。そして該博。外交を入口にこれだけ筋の通った国家論を展開できる者は他にいない。 快刀乱麻とはこのことだ。
さて、その佐藤優氏の講演会で質疑応答の時間に訊いておけばよかった、と後悔した質問がある。 「ドイツのナショナリズムがヘンになるときはルターが引っぱり出されてくる、というお話が ありましたが、日本がおかしくなる時は? ナニが出てきたら要注意なのでしょう?」という質問。 きっと一筋縄ではいかない回答が得られたはずだと思う。なにしろ『神皇正統記』を持ち出して 国体を安んじようと企図する「現代の南朝イデオローグ」としての側面も持つ人なのだから。 そのへんに絞って全面展開した単行本はまだないが、これからおいおい出てくることだろう。
昨日のモーリーさんの『よくひとりぼっちだった』と同時期、僕が愛読していた小室直樹氏に 『日本の「一九八四年」G・オーウェルの予言した世界がいま日本に出現した』という本がある。 ジョージ・オーウェル『1984年』や山本七平『空気の研究』を援用しながら、超管理社会と 化した日本を諷刺した読み物だ。池澤夏樹氏と佐藤優氏とモーリー・ロバートソン氏の間に 小室直樹氏を置くと、妙に奥行きが出る。それぞれの生真面目さで日本社会との違和感に こだわりつづけているという意味では共通点があるのだが一同に並べると妙におかしみがある。
この『日本の「一九八四年」』、まだソ連が存在した時代に書かれた本なのだが、いま繙いてみると 『国家の罠』に描かれた今の日本の狂気を予言しているように読めて面白い。シャレにならないか。 ルターと同時代のカルヴァンのことがいっぱい出てくる。如何に欧州が「異端」を焼き殺して来たのかも。 国家も世界も重苦しいが「とりあえずカッコに入れておいてその上で日々の生活をきちっと」やるべし。 それがなかなかに難しいのだが。佐藤優『獄中記』でも再読して気合いを入れ直すのもいいかもしれない。
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