「静かな大地」を遠く離れて
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2002年07月07日(日) 7月7日

風の心地よい日曜日。屋上へ出てハーゲンダッツのバニラを食べながら空を見る。
西の空が赤く焼けて、雲に鮮やかに照り映えている。少しずつ、星が見えてくる。
きょう、7月7日。一年以上前から、既に『静かな大地』の連載は始まっていた。
一年前と言ったら、まだ「ちゅらさん」がオンエアー中のころ。ちょうど恵里と
文也君が、小浜島の“ガジュマルの樹の下で”抱き合ったのが7月7日の放送分。
なかなかの長さの歳月である。世界も、自分もいろいろな変化を経た一年だった。

わが愛するチコロトイの物語は日々読むのが切なくなるような展開を迎えている。
連載が始まった時から、その展開そのものはわかっていたはずなのに、酷く痛い。
先日の夕刊に御大がトルコや欧州へ行くという記事が出ていて、「静かな大地」
のクライマックスは向こうで書くとの由。「新世紀へようこそ」の配信もあちら
からするらしい。ギリシアへも行かれるようだし、旅先からの配信が面白そうだ。
村上龍氏のJMMでも、旅先の些事を書いている時が、一番面白かったりするし。

ちなみに僕が楽しみにしているウェブ上の日記は、演劇集団キャラメルボックス
の加藤昌史プロデューサーの「加藤の今日」と、作家の佐々木譲さんの「近況」。
「加藤の今日」http://www.katoh-masafumi.com/diary/index.html
「佐々木譲資料館」http://www.d1.dion.ne.jp/~daddy_jo/

加藤さん、「銀河旋律」シビレました、やっぱりすごいことが出来る劇団ですね。
佐々木譲さん、『武揚伝』の新田次郎賞受賞記念の馬、おめでとうございます!
…以上は、寄り道(^^;

トルコという場所の位相も面白い。単なる『からくりからくさ』ファンとしても
「新世紀へようこそ」の配信者としても、クルドが気になるようだし、以前に
「とんぼの本」でイスタンブールに関するエッセイを寄稿されてもいるし(後に
『明るい旅情』に入っていたはず。)さらにカッパドキア好きの日野啓三さんと
もシンクロする。ギリシアとは指呼の間で“地続き”とも言える場所でもあるし。

きょう僕にしては珍しく熱心に「Nスペ『ドキュメント・ロシア』」を見ていたら
なかなか興味深い内容だった。なまじ日々流れるニュースを聞き流すよりも、普段
天気予報すら見ないくらいにしておいて、時々書籍とか、こういう番組に能動的に
アクセスするほうが“費用対効果”が上がる気がする。どうせ国際情勢には野次馬
的な関心しか持ち得ないのだし、ひとまずは。「後編プーチン苦渋の決断」という
副題の今夜の放送分は、ロシアが昨年の同時多発テロを契機にアメリカに屈服する
過程を辿った内容だった。面白かったのは、タジキスタンなどの中央アジア諸国を
巡るエネルギー戦争の構図。地政学の教科書のようなわかりやすい図式で世界情勢
というやつが今でも動いていることに懐かしさに似た安心感さえ覚えそうになった。

秘密警察畑の出ながら経済にも滅法強い切れ者プーチン、ロシア再生の起死回生の
秘策は中央アジアの旧ソ連邦諸国の地下資源のパイプライン網を制すること、その
ために黒海を横切るパイプラインの大動脈を作って、欧州に供給するというプラン、
ブルー・ストリーム計画というもの。一方アメリカのメジャーもトランス・カスピ
計画というパイプライン網構想で、ロシアをパスして直接に欧州のエネルギーの元
を握ろうとする。まるで19世紀の帝国主義時代の、3C政策対3B政策みたい。
そのベタな地政学上の拮抗点となるのが、まさにトルコというわけだ。興味深い。

チコロトイが潰される経緯。それとトルコの地政学上の位相。案外とわかりやすく
繋がっている。その中で『からくりからくさ』に出てくる、クルドの織物のような
手ざわりのある“実在”を、どう見つけられるか。やすやすと“わかりやすさ”に
与することなく、感覚と思考を働かせつづける拠点を持つことができるかが大事な
ような気がする。ひとつひとつ感覚を確かめながら、言葉を使って思考しつづける
のは一面で難儀なことだし、贅沢なことでもある。違う時間の使い方もあるだろう。
今どき新聞連載小説を一年も読みつづけながら、あれやこれやとものを考えるのも、
かなりの道楽だろう。でもそういう時間の過ごし方をこそ、反撃の“拠点”として
持ちつづけていたい。たとえば夕方の屋上に出て、愛しい人と星を見るとかして♪

「夏は時間が溶けていて、いつかの夏とつながっている…」という恒例のフレーズ
を引きつつ遠くユーラシアの彼方へ想いを込めて。誕生日、おめでとうございます。
日本はもう日付が変わりますがトルコはまだこれから星の夜を迎えることでしょう。
チコロトイから吹く風、しかと受け止めて今日7月7日という日を記憶に留めます。



題:357話 馬を放つ27
画:ヒナタイノコエウチ
話:会社というのはどういうものですか

題:358話 馬を放つ28
画:ヒゴユリノハナ
話:何か意地の悪い神が兄さんによくない夢を見させている

題:359話 馬を放つ29
画:ヒゴユリノネ
話:今度は男の子かもしれない、とエカリアンは夫の耳元でささやいた

題:360話 馬を放つ30
画:スノーフレーク
話:次の子には違う生き方を教えねばならぬ

題:361話 あの夕日1
画:ガラス
話:自分の前半生はこの伯父の始末に費やされる

題:362話 あの夕日2
画:サクラノミ
話:兄ほどの逸物ではなかったとは言え、弟には弟の意地がある

題:363話 あの夕日3
画:新聞紙
話:家内が脇で、男というのはいくつになっても子供だと笑っております

題:364話 あの夕日4
画:オニグルミ
話:行く先が内地と聞けば、探索を諦めるのではないか

題:365話 あの夕日5
画:眼帯
話:やがてはチコロトイを担う子ですからね

題:366話 あの夕日6
画:指サック
話:市井の人として世の隅で寿命を全うすればよかった

題:367話 あの夕日7
画:ザクロの花
話:どの夏にもチコロトイはきれいだった

題:368話 あの夕日8
画:コブシの若い実
話:だからもっとシニランケで働けばよいと前々から俺は言ってきた

題:369話 あの夕日9
画:陶片
話:熊に連れ去られない気をつけてください

題:370話 あの夕日10
画:サルノコシカケ
話:中から脅えた馬のいななきが聞こえた

題:371話 あの夕日11
画:落ち葉
話:頭を打たれた私は昏倒し、気が遠くなりかけた

題:372話 あの夕日12
画:鷲
話:シトナはもうこの世にいないのか

題:373話 あの夕日13
画:炭
話:人と人が争うと煙が立つ

題:374話 あの夕日14
画:柿の花
話:火の中に入れなかった、と兄は言った

題:375話 あの夕日15
画:ヤママユの抜け殻
話:まるで別の人を葬っているようだと思いながら、私はその名を書いた

 ≪あらすじ≫由良は父親から聞いた伯父宗形三郎の物語を書き続ける。
 兄弟は、アイヌの人々と協力して牧場を開拓、優秀な馬を産出した。
 それぞれ結婚、子供たちも生まれた。繁栄に狙いをつけた東京の実力者
 からのいやがらせにも、何とか対応する。その矢先、馬房が火事になり
 シトナが死んだ。

題:376話 あの夕日16
画:ヘタ
話:人を殺すつもりはなかったと私は思いたかった

題:377話 あの夕日17
画:石
話:松田の本拠である麹町の明朋会に乗り込んで火を点けてくる

題:378話 あの夕日18
画:樹皮
話:だが金のために私らは馬を飼っているわけではない

題:379話 あの夕日19
画:流木
話:和人はアイヌをいないものとしたのだ

題:380話 あの夕日20
画:封筒
話:ここの経営に見も知らぬ和人を加えることなど最初からできない相談だったのだ

題:381話 あの夕日21
画:ガラス瓶の欠片
話:エカリアンを娶ったのはその仕上げでしかなかったのだ


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