「静かな大地」を遠く離れて
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2002年01月12日(土) 「神話」の射程距離

題:208話 戸長の婚礼28
画:数珠
話:静内はみなも知るごとく、かつてシャクシャインが拠点としたところだ

シャクシャイン像が立っている真歌の丘の下には静内川が流れていて、今ごろは
たくさんの白鳥が越冬していることだろう。晴れていれば遠く日高山脈の白い峰
が見えるはず。ほんの百数十年、三郎たちの時代からなにも変わらない風景。
歴史上に残るアイヌ最大の蜂起を指揮したシャクシャインは、“和人のお家芸”
である騙し討ちによって倒れた。神話の英雄ヤマトタケルからして、騙し討ちを
公然とやっているのだから、そう言ってしまっても構わないだろう。
昨日触れた松浦武四郎の報告を読んでみても、和人とアイヌとの間にはまさしく
「圧倒的な非対称」が在った。まずそのことを認識する必要があるだろう。

以前ここで触れた↓「圧倒的な非対称 テロと狂牛病」の中沢新一氏の新刊が出た。
http://www.enpitu.ne.jp/usr2/bin/day?id=25026&pg=20011115
まだ今日購入したばかりで未読なのだけれど、さっそく紹介しておきたい。
「圧倒的な非対称」がエレガントなまでに簡潔であるがゆえに、舌足らずになって
いると思われるところを、とっくりと腑に落とし込むことが出来そうな内容である。

■中沢新一『人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ1』(講談社選書メチエ)
(表紙からの引用)
 宇宙、自然、人間存在の本質を問う、はじまりの哲学=神話。
 神話を司る「感覚の論理」とは?
 人類的分布をするシンデレラ物語に隠された秘密とは?
 宗教と神話の違いとは?
 現実(リアル)の力を再発見する知の冒険。
(帯からの引用)
 この一連の講義では、旧石器時代の思考から一神教の成り立ちまで、
 「超越的なもの」について、およそ人類の考え得たことの全領域を
 踏破してみることをめざして、神話からはじまってグローバリズムの
 神学的構造にいたるまで、いたって野放図な足取りで思考が展開され
 た。そこでこのシリーズは「野放図な思考の散策」という意味をこ
 めて、こう名づけられている。
 「はじめに カイエ・ソバージュ(Cahier Sauvage)について」より
(引用、終わり)

このシリーズ、全部で5冊の予定だそうで、なんとも楽しみな活きのいい企画だ。
もともとこの人の書いた文章は概ね難しくて、たまに平易に書いたものとか、
依頼されたインタビューや対談を読むと面白い。宮澤賢治をめぐる考察を展開
 した『哲学の東北』なんかはとても読みやすくて、かつ深い内容のある良い本。
「圧倒的な非対称」の射程距離と切れ味に瞠目させられた身としては、この企画
に期待するところ、とても大きいものがある。

「神話」というやつの正体、両刃の刃的な危険度、そのあたりを知り抜くこと。
それなしに安易に「神話」に触ることは許されるべきではない、と強く思う。
それは「物語」というキーワードに立ち向かう局面においてもまた同じだろう。
とにかく「神話」「物語」そして「宗教」の“すれっからし”にならなければ、
この先の世界はどうにも視えない。“この先”だけでなく、過去の世界もそうだ。
この地球上で人が経験してきたことが一体なんだったのか、それを知りたい。
「深層」によって、あっさりと「表層」のわかりやすい説明がなされてしまうこと
への警戒も含めての“すれっからし”願望、かなえてくれそうなシリーズだ。

「静かな大地」に事寄せて、いろんな本を並べてきたが、真打ち登場という感じ。


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