「静かな大地」を遠く離れて
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題:124話 鹿の道 人の道4 画:腕時計 話:バードさんは力に満ちた立派な方でした
きちんと脈絡をつけて書くのは骨が折れる。とめどなく連想が働くのだ。 イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社東洋文庫、平凡社ライブラリー) はいつか読まなきゃ、と思って久しい本。北海道の部分を走り読みした程度。 なので今日の“バードさん”は「そう来ましたか」という感じ。 ただ由良さんの“綴り方”の文体も叙述も極めてフツーなので一寸心配になる。 “バードさん”を出すにしても、情報整理に便利使いするようだとよろしくない。 『すば新』の「ジャーナリスト」の章のような姑息さを感じてしまう(<失敬(^^;) 叙述は情報整理ではない。由良さんには須賀敦子さん並みに頑張って欲しい(笑)
…なんて言ってまた作家を恫喝する読者と化していますが、懐かしい『すば新』、 久しぶりに繙いてみると当時の時事ネタが、もう時間の波に埋もれつつあるのを 感じて面白い。僕が予測したとおり、有吉佐和子『複合汚染』じゃないけれど、 リアルタイムもさることながら、暫く経ってからも“読みごろ”かもしれない。
ヴィクトリア時代を生きた英国婦人イザベラ・バードに関しては、名前をまんま 検索エンジンにかけるだけで結構な知識を手に入れることが出来るので、ぜひ。 僕の関心は“バードさん”の力の背後に広がるもの、大英帝国の力です。
ピーター・パン、アリス、ナルニア、ロビンソン、みんなイギリス人だと 言いましたけど、イギリス人っていうのは、たぶんここ数百年の世界中で 一番海外へ出た人達ですね。外へ出て、植民地を作って、悪い言葉で言えば、 いろんな物を収奪して本国へ送って栄えた、一番うまくやった人達でしょ。
…以上は『子どもが見つけた本』(熊本子どもの本の研究会)所収の講演、 「世界はどこまで広いか」からの引用。 さらに『明るい旅情』(新潮文庫)所収の「イギリスを出た人々」からも少々。
鍵はこの「世界」という言葉だ。イギリス人はある時期に地球全体を知的に 把握した。「世界」というものを認識した。これは産業革命にもまさる 大きな業績である。ぼくが今イギリス文化に対して感じている恩義の多くは この分野に属するものだ。
英国という本丸。アメリカ東海岸だ、オランダだ、と「補助線」をいろいろ 引いて遊んできたが、日が沈むことなき世界帝国イギリスこそ最大の「敵」だ。 オランダが世界史上初めて手にした「近代」という流通経済のヘゲモニーを 度重なる戦争で奪取し、その後アメリカに手を噛まれたりしながらも世界帝国 を長い間支配してきた大英帝国、それこそが、“バードさん”の故国だ。
“木靴と風車とチューリップの小国・オランダ”イメージ程ではないにせよ、 今や英国もまたずいぶんと牙を隠している。“19世紀の魔物”の癖に(笑) “紅茶と紳士趣味とピーター・ラビットの国”のイメージ。 でも英国が地球上でやったことは今のアメリカなんて青臭いと思えるくらい エゲツなくて徹底した世界支配だったのではなかったか? いまホットなアフガニスタンにもパレスティナにも「前科」を持っている。 近代の日本などは、極東における大英帝国の「利権」に過ぎなかったりする。 幕末の薩摩や長州の「密航留学生」らがクーデタを起こして政権を担い、 以後大英帝国の没落まで“パックス・ブリタニカの優等生”の途を邁進した。
とにもかくにも“英国という病”を対象化するのは、とても難しい。 なぜなら我々が世界を認識し、生きている基盤自体が“英国製”なのだから。 例によって、高山宏『ふたつの世紀末』(青土社)を熱烈に推しておこう。 “知的すれっからし”になれる(笑) ダイジェスト的には『奇想天外・英文学講義』(講談社選書メチエ)がある。 真面目に勉強するなら、エドワード・サイードからという線もあります。
で、“英国という本丸”を見据えて、オランダやアメリカの前のミレニアム 年越しの観光旅行の行き先がアイルランドだった、というわけです(^^) ジョナサン・スウィフトばりの鍛え方で対峙しないと英国は対象化できない、 そう思いつつ気分はU2とエンヤで、アラン島行って喜んでましたけど(^^; なんにせよ、アメリカさんのグローバリズムどころじゃない胃袋と支配力の 強靱な大英帝国の所業こそ、洗い直さなければならない最大の宿題です。 絵に描いたような英国趣味嫌いじゃないんですけどね、厄介なことに(笑)
…今夜は「新世紀へようこそ」のカミカゼ・アタックの話にも反応したいと 思っているのだけれど、また際限なく広がりそうなので明日以降にします。 以下に気になっていることを、二つだけ。
サルマン・ラシュディ『悪魔の詩』の邦訳者、五十嵐一筑波大学助教授が 何者かによって大学構内で殺害されたのは、湾岸戦争の年のことでした。 イスラム原理主義過激派の犯行が疑われますが、その後も続報を聞いた記憶 がありません。ネットで検索してみても、すっかり過去の事件のようです。 イラン国家がラシュディ氏の“処刑”指令を撤回したのは、つい2年前。 イギリスとイランとの「手打ち」によるものだったやに記憶しています。 日本国内でのテロ行為への不安が蔓延する現在、何だか心に懸かる…。
その湾岸戦争の前からずっと日本の若い世代に「戦争とは?」「命とは?」 という骨太なメッセージを熱く放ち続けた舞台演劇作品がありました。 今井雅之・作・演出・主演『THE WINDS OF GOD』。 日本国内で何度となく上演され、NYやロンドンやハワイ公演も行われた この作品、今年のツアー沖縄公演を以てその歴史に終止符が打たれました。 ご承知の通り、太平洋戦争末期、特攻隊の兵舎を主な舞台とする作品です。 登場人物の若者たちは、物語の後半、それぞれの葛藤を抱えながら次々に 「特攻」して果てて行きます。「悠久の大義」のために…。
海外公演のカーテンコールと同じ言葉で締めたいと言って、今井さんは 最後に叫びました、一音節ずつ、訴えかけるように、 「No more war!」 僕が最後に観た舞台は7月21日、ここでも少し触れました。 そして最終公演の沖縄、最後の「特攻」、最後の「No more war!」が きっと叫ばれたであろう日付は、9月9日。 アメリカ時間で「あの日」の前日のことでした。
こうしたタイミングを「歴史の皮肉」ではなく、真摯に受け止めること。 国際政治は魔物の論理で進む。そこに居るのも人間である。
#またまた新規参入の新書市場、光文社新書のキラー・コンテンツは 他社も惚れ惚れしそうな田中宇『タリバン』。売れそうですねぇ。 まだ冒頭しか読んでないけど、まず大略の地政学的事情から入っていて 非常にわかりやすい。タイトルから思わせる急拵えではなさそうだ。
ふぅー、明日の日本舞踊の鑑賞中に居眠りしないように寝なきゃな。 でもここまで「濃い」話のモードに入ってしまうと眠れないのよね(^^;
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