「静かな大地」を遠く離れて
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2001年09月14日(金) |
誰かがどこかで本当のシナリオ影に隠してる♪ |
題:92話 札幌官園農業現術生徒2 画:糸 話:現術生徒よ小志を抱け
名高いクラーク博士は8ヶ月しか札幌農学校に在任しなかったとか。 でも名コピーのおかげで、今も人々がその名を知る人物となった。 彼よりもずっと深く日本、とりわけ北海道と関わり、日本を愛した アメリカ人がいる。エドウィン・ダンという男。 そろそろ彼の人生の物語と『静かな大地』が交錯しはじめたので、 また副読本のご紹介といきますか(笑) 赤木駿介氏の評伝小説、 『日本競馬を創った男 エドウィン・ダンの生涯』(集英社文庫)。
競馬に興味はなくていい、『静かな大地』と北海道に少しでも関心 を持てる人なら、これは正真正銘、マストの副読本と言えるだろう、 それに安いし読みやすいし。以下は、裏表紙の惹句。
明治初期、原生林の生い茂る北海道を開拓し、牧場を創っ たアメリカ人青年がいた。その名はエドウィン・ダン…。 北海道開拓使のお雇い外国人として来日し、近代日本の牧 畜と競走馬育成に尽力、やがては駐日米国公使にまでのぼ りつめた男。その彼のかたわらにはいつも一人の日本人女 性がいた…。日本と日本人を愛しつづけ、そして忘れられ た異邦人の成功と挫折の生涯を描く力作評伝小説。
『静かな大地』のバックグラウンドは、ほとんどこの小説で網羅する ことができるのではないか、と思えるほどのリンクぶりである。 静内や稲田家も出てくれば、今日の話題の「官園」さえも出てくる。 強力オススメの常として、ネタバレを避けるため詳しくは触れないが 佐々木譲『武揚伝』(中央公論新社)と『静かな大地』という、 語り口もテーマも大きく異なる二つの作品の間をつなぐ「補助線」と して最適だ。近代文明国家・日本の「周縁」であった北海道でこそ 見て取ることの出来た、わかりやすすぎるまでの「近代」や「国家」 の像がクッキリと結ばれるだろう。
ちなみに三郎伯父様が居たという札幌の官園の前身、東京は青山に あったという官園には「開拓使仮学校」という施設も設けられた。 明治5年にその初代校長になったのが旧幕臣荒井郁之助だというの だから、びっくりする。『武揚伝』読者には、おなじみの名前だ。 榎本の同志として箱館の蝦夷共和国政権樹立に参加し、海軍奉行に 選出された人物。『武揚伝』リンクは他にも沢山あるので是非(^^)
エドウィン・ダンが日高で手がけた牧場づくりが、馬の住む緑の国 北海道を育んでゆく、そうした流れの中に、これから『静かな大地』 の登場人物たちは入ってゆく。ダンが夢みたもの、榎本がかつて 描いたヴィジョン…、そうしたものと裏腹に「官有物払い下げ」の 一大疑獄の奈落へと落ちてゆく「利権」の王国・北海道という図式。 しっかりと見ていけば、現在の日本の“すべて”が、あからさまな 形で見えてくる位相空間、それが明治の北海道である。
どうも出口がないな、とも感じる。 歴史のある時点で可能性を閉ざされてしまった、ありえたはずの もうひとつの選択肢…、という話題も、気をしっかり持たないと 後ろ向きな話に落ち着きかねない。もうひとつ元気が出ない。 われらが榎本武揚公は、時空連続帯に無数の歴史が並んでいると しても、百千百敗なのではないか、と思うとシニカルな無気力感 に襲われる。きっとそんなことはない。もっと分はあるはず…。
「気分」の問題に、根拠はいらない。 “なんとなく”という「空気」が体勢に力を持つことがある。 根拠のない楽観論は、容易に根拠のない悲観論に転化するもの、 そう、今の日本の多くの人々を直撃している気分のように、だ。 「今の世界の」と書かなかった。情緒で反応することと、理知 で把捉しうることとの間に、ねばりづよく、エレガントな解を 探しつづけることができる気力、それこそが生命線なのだから。
それにしても北海道とニューヨークを結んで、痛快な気分になる 手近な方法をひとつ教えよう。 大和和紀『NY小町』(講談社漫画文庫)を「耽読」すること♪ この作品、エドウィン・ダンとその妻を、ハイパー少女漫画装置 にかけて転生させたようなキャラが明治初年の北海道とアメリカ を股にかけて荒唐無稽に大活躍するという痛快篇で、とにかく なにをおいても楽しいのがいい。な〜んにも考えずに今の現実を 離脱して、まだ「新鮮」な「周縁」に遊びたい人にもってこい。 個人的には、出てくる馬とかが『動物のお医者さん』風に、よく 喋る、というか“吹き出し”の外にコトバが書いてあるというか その様が可愛らしくて最高に好きだったり。もちろんヒロインの 破天荒ぶりも笑える。最近一際ブルーな方にオススメします(^^)
〜憂鬱な気分にかきたてられても上手にシェイク・ダウン♪ (by佐野元春 inNY)
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