「静かな大地」を遠く離れて
DiaryINDEX|past|will
2001年07月06日(金) |
オラシオンと北方四島と雪景色 |
題:25話 煙の匂い25 画:グラス 話:河口からシベチャリ川を上って、いざ上陸
アイヌ語地名に無理矢理な漢字を当てはめて作ったのが、 ほとんどの北海道の地名だったりする。 中にはカタカナのまんまの地名も少なくない。 「ヤリキレナイ川」という『VOW』系の川も知っている(^^; なにも北海道だけとは限らない。 四国高知のキャッチフレーズ“最後の清流”でおなじみ ニホンカワウソのふるさと(<長いっ!)四万十川もそうだ。 「シマント」である。「ト」って“水”だったような…、 僕のアイヌ語力はドイツ語力以下。つまり全然ダメってこと。 一応ウィーンでレストランに入ってから出るまでドイツ語しか 口にしなかったことがあるけど、それは黙ってただけだし(笑)
で、シベチャリ川。宮本輝『優駿』をお読みになった方や、 映画をご覧になった方なら聞き覚えがあるかもしれない。 緒方直人クンがオラシオンと一緒に遊んでいた設定の川だ。 実際の撮影地がそうかどうかは知らないけど。 ちなみに実際オラシオンを演じた馬なら触ったことがある(^^) それにシベチャリ川の白鳥にエサをやったり、河岸で犬の散歩 につきあったり、寒い7月に花火をやったりしたこともある。 サラブレッドと桜の街、静内にはなかなか詳しいのだ。
きょうの版画はグラス。これまでの穀物や乾物系とは違う系。 船に積んで来られた物品の中に、こういうものもあったのだろう。 NHKスペシャルで北方四島の自然を紹介する番組をやっていた ことがあったが、その中で妙に印象に残ったのが、戦前の日本人 の住人が残したのであろう、食器だか瓶だかが土中から出てきて 一帯が村落だったが今は鬱蒼とした茂みになっていたという場面。 自然そのものはテレビ番組だから「ここでしか見れない!」貴重 な自然、みたいな強調の仕方をしていたが、実際は北海道と さして変わりはしない。ナニワズやヒメイチゲなど、春咲く花も 同じだ。だからこそ、土中から出てくる食器が切ない。
別に「北方領土を取り戻せ!」というアジテーションをしようと いうのでは全くない。そうではなく人の暮らしの痕跡というのが 茂みの中に埋もれてゆくさま、ある人為的な国境線の押し引きで 「自然」の状態も左右されること、その妙な不可思議さ。 日野啓三氏の小説ではないが、意識と自然のあわいのザワメキを 感じるのだ。裏を返せば北海道だって五十歩百歩で似たような 環境だと実感すること。街があること、人が大勢いることを 「自然な状態」だと思わない、思えない感覚。 ススキノのビル街の飲み屋でカラオケを歌っていたとしても どこかで今、自分は茫漠たる自然の海の上の浮島のような街に 乗っかっているだけなのだ、という不安とも快感ともつかない 奇妙な感覚に襲われることがあるのが北海道の特色だ、 …なんてことは誰とも話したことがないから、誰もが持つ感覚 かどうかはわからないが。
札幌の藻岩山という標高500mばかりの山にロープウェイで 上って街を見下ろすと、緑の海に浸されながらコンピュータの 基盤のように集積されたちょっとメタリックな札幌の市街が 浮かんでいるのがわかる。 そこでは比較的容易にほんの150年さかのぼれば、人の痕跡 のなかった世界を想像し、実感することが出来る。 それを助長するもう一つの、そして最大の要素、冬季の降雪を 付け加えれば、そこに住む人の意識が謀らずとも「自然」に 浸されたものになるのは、むしろ当然とも思える。
やがてそんな冬も描かれることだろう。 しかし雪となると池澤御大は、取材しないと書けないだろう。 いかな降雪現象を描いて読者を圧倒した『スティルライフ』を 書いたお人だとしても…。そして「取材」のリポートと叙述は 異なるものだ。父が語る雪体験ではなく、由良が身体で感じる 雪の描写が出来るかどうか。水=H2Oというのは、まことに 面妖な物質でヒトの意識に色んなカタチで作用してくる。 だから海も川も、運河だって立派に魅力ある景観を作り出す。 そこには視覚以上のものが働いているのだ。
天の動きと人の意識、マクロとミクロの照応という話で言えば 北海道の米農家で真冬の“寒”の季節に、その年の気象の予測を する習慣を継承している方にお会いしたことがある。 寒冷地における米作への情熱、それと真冬の雪に関してはまた 『静かな大地』に関連する叙述が出てきたところで敷衍したい。
あ、なんか今日は難しいモード(^^; 北海道に暮らす感覚についてなんとなく3作品を紹介。 みんな「100冊」に入ってます。 原田康子『満月』、これも映画になってたね。 札幌の生物教師の女性とタイムスリップしてきた武士のロマンス。 北海道をよく知らない人にも入りやすい魅力的なお話。 もうひとつは佐々木倫子『動物のお医者さん』、いわずと知れた H大獣医学部を舞台にした傑作漫画です。 なんだろう、これもすごく札幌ライフを感じられる本なんです。 あと本田優子『二つの風の谷 アイヌコタンでの日々』。 アイヌ関係の本を一冊だけ読むなら、まずこれを読んで欲しい、 と思わせる本です。どんな色であれ幻想の色眼鏡で他民族を見る ことの愚かしさ、抜きがたさをポップかつ真摯かつ痛みを伴う 叙述法で書いてくれています。この人に新書で新作書いて欲しい。
「100冊」ですけど、そのうち「+50冊」とかリスト作る かもしれません(笑)
|