「静かな大地」を遠く離れて
DiaryINDEXpastwill


2001年07月07日(土) 7月7日 コンタクト・隠し球・榎本武揚

小浜島では大変なことが起こりました(笑)
きょうは7月7日。
ひとまず今日の日をコトホギまして、一言。

池澤夏樹さま、誕生日オメデトウございます。
『静かな大地』のことを考えると力が出ます。
よい作品になりますように。

ー*−

題:26話 煙の匂い26
画:小皿(鳥の絵付き)
話:“ドジン”とのファースト・コンタクト

春立(はるたち)とか遠別(とうべつ)といった小地名まで
脳裏に浮かべることの出来る、イヤな読者であります(笑)
しかし「とうべつ」というのは北海道に沢山ある地名だけれど
あそこにあるのは「東別」という字を当てなかったっけな?
いずれアイヌ語の原語地名に音を当てただけだろうから、
漢字にさして意味はなかったのかもしれないが。

とはいえ本日ついに“ファースト・コンタクト”が描かれた
“ドジン”の子供オシアンクルを「後にあんなに親しくなって」
“五郎”と呼んでしまうに至っては、なんでゴロウやねん?
という感は否めない、そのへんがどう描かれるかも楽しみ。
船戸与一『蝦夷地別件』でも“ファースト・コンタクト”が
なかなか説得力をもって描かれていたと思うが。
欧米文学にもこうしたテーマは多く書かれているのだろうか?

ところできょう連呼している“ファースト・コンタクト”だが、
カール・セーガン『コンタクト』(新潮文庫)からの連想。
ジョディー・フォスター主演で数年前に映画にもなったけど、
原作もなかなか面白い。
映画でも巨大トランスポート・マシンの2号機が北海道に建設
されるくだりがあるが、この部分原作で結構厚く描かれている。
たしか主人公が札幌の街を歩いたり、アイヌという少数民族に
関しての一寸した言及があったり、日本の七夕伝説とその習慣
についても触れていたように思う。読んでみて(^^)

さて、今日は普段あんまり「池澤夏樹ファン向け」と思えない
文脈の話ばかりしているのもなんなので、ちょっとファン向け
っぽい話もしようと思います。
みなさんあまりご存じないかもしれない御大の仕事を二つ紹介、
言ってみれば僕の「隠し球」プレゼント企画です(笑)

まず、その一。
熊本子どもの本の研究会から出ている『子どもが見つけた本』。
鶴見俊輔、工藤直子、池澤夏樹、西成彦の各氏による講演や
座談会で構成されている、子供時代の読書体験をめぐる本です。
この中で御大は「世界はどこまで広いか」という題の講演と、
工藤氏、鶴見氏との鼎談、そして西氏との対談で登場してます。
この講演、今まで活字や生でいくつか僕が知っている中でも
非常に「池澤夏樹とは何者か?」という自己省察として
良くできている“掘り出し物”ではないかと思います。
よく知らないけどamazon.comには無さそうな版元ですな♪
(一応、ISBN4-9900585-3-4、本体1,400円+税)

では、その二。
ラムラス&シェイナー『戦艦奪取大作戦』(集英社文庫)です。
昭和58年刊行、御大が訳と解説を担当しています。

 戦艦「ルーデンドルフ」を乗っ取れ!!
 第2次大戦中、バルト海域での制海権を
 掌握すべく、英国海軍が決行した奇襲作
 戦。わずか15人の精鋭戦闘員はUボート
 乗組員をよそおいゴムボートで巨大な海
 の要塞に接近する。ナチスのどぎもを抜
 いた命知らずの作戦を活写する戦争サス
 ペンス。       解説・池澤夏樹

…とは裏表紙の惹句。われながらあまりにもマニアック?(^^;
御大のこの仕事を「意外」に思われる方もいらっしゃるかも。
でもルカレのフリークで解説も書いているのはご承知の通り、
それに昔角川文庫のブックガイドもので選者として冒険小説
の項を担当したりもしていたのです。
「戦艦の魅力というのは蒸気機関車に似ていないだろうか」
とは解説での弁。この男の子ぶりで納得という方もいるかも。
上の「世界はどこまで広いか」では、子供の頃の自転車の
拡張が今は飛行機になっている、なんて話をされていますし。

ここで、ひとつ提案。
冒険小説フリークであり、北海道に人並み外れた関心を持ち、
歴史上の人物では榎本武揚が好きだ、という池澤御大には
7月25日刊行が予告されている『武揚伝』の作者・佐々木譲氏
との対談を、是非どこかの雑誌ででもやって欲しい。
佐々木氏と仕事のジャンルは違うが関心のニアミスは多いはず。
読者がついていけないような車の機構の話とか、外国の作家の
話とか北海道の話が聞けそう。『ネプチューンの迷宮』と
『マシアス・ギリの失脚』を並べて読んだ人もいるのでは?
とにかく『静かな大地』を読みながら日本の近代を見直す過程
で、異なる側面から強力な光を投げかけてくれそうな期待大の
作品が『武揚伝』なのである。
御大も「文春図書館」で取り上げて欲しいものだ。

なお佐々木譲さんは言わずもがなだが北海道出身の作家さん。
『ベルリン飛行指令』や『エトロフ発緊急電』で“あの戦争”
の捉え方の新しいスタンダードを作った人だと思う。
でも『武揚伝』はまたひとつ、それを超えて本源的で骨太で
過激な「歴史観」をクッキリと打ち出した大作になりそうだ。
今年の仕事として、集英社新書『北の大地で考える(仮)』
の刊行も予告されている、注目の作家さんである。
なお佐々木さんご自身の公式ページで『武揚伝』の熱い予告
を読むことが出来る↓。
http://www.d1.dion.ne.jp/~daddy_jo/newpage16.htm


時風 |MAILHomePage