ナナとワタシ
ナナとワタシ
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2004年03月02日(火) K先生の告別式にて

掲示板にもちょろっと書きましたが、中学時代、ワタシの所属するソフト部の顧問だった恩師・K先生が亡くなったので、告別式に行ってまいりました。
「サボってばかりいて問題児だったあたしが行っても、先生、『なんでナナが来たんだ』と思うかもしれないけど、じょりぃが行くならあたしも行く」と言って、ナナも一緒に。

とにかくワタシにとっては、ものすごく影響力のあった先生だったので、それなりに喪失感も深くてですね。
繊細でナイーブで照れ屋で、でもそういうところを人に見せることすら恥ずかしそうな人で、でもちゃんと伝わっちゃってるんだよ先生、みたいな、人で。
先生の美学のようなものは、ワタシの魂にもしっかりと刷り込まれて、今のワタシがあったりするわけなんですが。
でも、ナナにそういうことを話すのは、照れくさいような格好悪いような気がして、一緒にいるあいだは感情のシャッターを降ろして告別式に臨んでおりました。
うっかり泣いてしまったりしたら、弱みを見られるようでイヤだ、という、大切な人の葬式にまでつまらない見栄を持ち込む、実にワタシらしい話でございます。

ナナは、自然に悲しみ、自然に涙しておりましたが。

中学の時の体育の先生(女性)も来ておりまして。
K先生とずっとおつきあいがあったようで、この先生はもうぐしゅぐしゅに泣いていたのですが。
そもそも、K先生の退職祝いを企画して、みんなに声をかけてくれたのもこの先生でした。
ナナはこの先生に、担任してもらったことがあり、ワタシも担任はもってもらわなかったものの、ずいぶんと目をかけてかわいがっていただいたものですから、先生の涙にはぐっとくるものがありました。

お焼香が終わって。
ナナが「どうする?お見送りまでしていく?じょりぃ、忙しいんだよね?」と。
「お見送りって何?」 モノを知らないじょりぃ。
「んーと、献花するんだよ」
「献花・・・てことは、顔、見えちゃうの?」
「うん。  見たくないか(笑)」
「うん、見たくない」

K先生、ガンでなくなったのですが、入院してからはお見舞いもすべて断っていたそうで。
弱っている姿を見せたくないということと、相手に気を遣わせたくない、という気持ちだったそうなんですけど。
そんなK先生は、死に顔を見られたくないんじゃないかな、とワタシは思ったのです。
あくまでも「ワタシは」ですけど。

「じゃ、帰る?」
「ん・・・」
「・・・・・あたしは、なんか、献花したくなっちゃったんだけど」
「しなよ」
「待てる?」
「うん」

沈黙。

「あのさ」とワタシ。
「なに?」
「ワタシが死んだら、見ないでね」
「何を?」
「顔」
「ああ(笑)。 いいよ、わかった」

ああ。
ホッとした。
これは前から言っておきたかったのですよ。

「あのさ」と、今度はナナ。
「ん?」
「あたしのときは、ちゃんと見てね」
「(笑) わかった」
「心配しなくても大丈夫。 あたし、きっと、すっごいきれいな顔で死んでるから(笑)」
「(笑)すごい自信だね」

キミが見られてもイヤでないなら、たとえどんなにぐちゃぐちゃになってても、ワタシはちゃんと見ます。
ホントはそのほうが、大切な相手に対して責任がある態度という気がするし。
でもワタシは、絶対に見られたくないの。ゴメンねナナ。


そのあと、体育の先生(M先生)のところへご挨拶に。
「来てくれたんだ」と、先生、またぽろぽろと。
ワタシは泣かない代わりに、めっきり口数が少なくなってしまいまして。
もっぱらナナとM先生でお話していたんですが。

M先生が途中でワタシに話を振ってくれまして。
「じょりぃは? 仕事は順調なの? 相変わらずがんばってるの?」
「まあ、なんとか(笑)。かつかつで」
「がんばってますよー。この人、忙しくて全然寝てないんですよ」とナナ。

ナナの世話焼き風の代弁が、なんとなく嬉しいじょりぃ。

「寝てないの?」とM先生。
「心配なんですよねー。寝ないし、眠れないし」と、ワタシが答える前にナナ。
「寝てるよ」とワタシ。
「じょりぃ、体だけは気をつけないと。過信しちゃダメだよ」
「はい」

不思議なもので、先生に言われるとスナオに聞けます。
肝心の中学時代は、何言われてもカチンときたものでしたが。

「じょりぃの動きは特別だったよね。あたしは当時はまだ現役のつもりでいたけど、『この子にはかなわないな』と思ったもの」とM先生。
「ジャージがよく似合ってね(笑)」と。

中学時代のいちばんの印象が、運動神経とジャージ姿って、なんだか間抜けな気もしますが、覚えていてくださったのは嬉しいことです。

「『ジャージでばかりいないで、ちゃんと制服を着ろ!』とよくM先生に怒られたものでしたが(笑)」とワタシ。
「先生だからね。言わなくちゃならないんだよー」照れくさそうなM先生。
「ナナは、いつも笑っててかわいくてねー。怒られるようなことばっかりしてたけど、怒ってもニコニコしてるから、なんだか怒れないんだよね」と、今度はナナ評。

そう。 そういうヤツでした。
で、一緒にいると、いつもワタシだけ怒られるの。
それもM先生に。
よく二人乗りを怒られていたのですが、ある日ワタシだけ職員室に呼び出されて怒られたあと、
「ナナに引きづられちゃダメだよ。仲良くするのはいいけど、ナナとじょりぃは違うんだから」
と注意されたこともありました。

先生にしてみればどちらもかわいい生徒だったと思うのですが、確かにナナとワタシではつきあう友達も全然違っていたし、先生もいろいろと思うところがあったのでしょう。
傍目から見てもハッキリとわかるほど、たぶんワタシはナナに振り回されていたのだと思います。
気付いていなかったのはナナばかり。


それにしても。

ワタシはK先生と話しておきたいことが、実はあったのです。
つまらないことばかりですが、今のワタシの生きる姿勢などを示してくれたのがK先生だったこととか、ワタシがどんなにK先生を尊敬していたかとか。
わざわざ話すようなことではないけれど、それでも一度はきちんと伝えたいと思っていたのに、できなくなってしまいまして。

ワタシ、今頃気がついたんです。
今まで、「自分がもし死んでしまったら」ということはよく考えたのです。
早死にしたかったので、常にそういう前提が自分の中にあったのですね。
で、今回K先生が急に亡くなってしまって、「相手が先に死んじゃう事もあるんだ」という、あたりまえの事実に、今日ガツンと気がつきました。
「自分が死ぬ前に、ナナに好きだと伝えたい」と、今まで思ってましたが、ナナが死んでしまったらやっぱり伝えることはできないわけで。
しかも、ワタシはナナがいなくなってからも生きなければならないのですから、後悔の強さというのは、こちらのほうが激しそうです。
K先生が亡くなって、言いたいことを伝えられなかっただけで(だけで、という言い方も不謹慎ですが)こんなにショックなのですから、これがナナだったらどうなることやら。
ナナだけじゃない、両親にも、友達にも、その他いろいろな人に対して「いつかいつか」と思って「大事なこと」を先延ばしにしていることに、がっつりと気付いてしまいました。

やっぱり、ナナにちゃんと伝えよう。
結果はどうでもいいや。

なんて思ったりして。
今度の温泉の時にでも話してみようかな。

それでふたりが恋仲になる、ということは、まずないと思うんですよね、ワタシたちの場合。
それでも、やっぱり伝えた方がいいのかな、全部わかった上でナナにもワタシと向き合ってもらったほうが、それがワタシにとっての真の人生というものかもしれない・・・などと考えたりもしました。
ナナにとっても。

まだ揺れてますけど。



が、しかし。

夜、ナナと電話で話しておりましたら、しばーーーらく他の話をした後に、「パパのお母さんが、具合が悪くなっちゃって。来週検査なんだー」とナナ。
「ふうん。心配だね」

しばらくお母様の話をしまして。

「でね、あたしが今何が気になっているかというとね」
「うん」
「検査の結果次第で、ええと、パパが『こんなときに温泉行く気かよ?』って言うんじゃないかと・・・」
「ああ」

まあ、そりゃ仕方ないでしょうね。

「お義母さんにはすっかりお世話になってるからできる限りのことはするつもりでいるんだけど、でもあたし、今回は自分からは温泉どうしようかなとかは言わないつもりなの。たとえどんな結果が出ても」
「そうなの?」
「うん。そりゃ、もうヤバイ、とかなら話は全然別だけど、パパがいるわけだしさ、土日だし」
「うん」
「あたしがいなければ、どうにもならないってわけじゃないし」
「うん」
「だから、あたしは行くつもりでいるけど、もしダメになってしまったら、ゴメンナサイ」
「しかたないよ」
「・・・スネスネにならない?」

また!

「拗ねないよー」
「ホントに?」
「うん」

いや。
拗ねるかな。
でもしょーがないですからねえ。


というわけで、「温泉の時に伝えようかな」なんて思っていた矢先に、温泉行きそのものが怪しくなってまいりました。
あらあら。


こんなもんですよね。



そして今日の「最低なワタシ」。

胃が痛くなるほどK先生の死がショックだったくせに、告別式に向かう車の中でヨコシマなことを考えておりました。
ナナの葬儀用のワンピース、膝丈だったんですが。
助手席に座ると、膝上まで足が見えるんですよね。

ストッキング履いた足って、エロくないですか。
しかも足が太いのを気にしているナナは、滅多に膝上までのチラリってないんですよね。
というわけで運転しながらチラチラと目がいってしまいました。
「K先生・・・」とか思いながら。


帰りの車の中では、足にコートをかけてしまったナナさん。


気付いてましたかもしかして。
あらあら。


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