ナナとワタシ
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前回の「いじけてみた結果」の電話のあった次の日に、ナナからお誘いのメールが。
「長女の中学の合唱コンクールがあるんだけど、一緒に行く?」と。
フツウの友達から誘われれば「なんでこのクソ忙しいのにそんなもん見なきゃならんねん。音痴な中学生どもの歌なんて、キョーミなし!」と即断り、という感じなんですが。
「うん。行く」
と返事。
長女ちゃんがこの合唱コンクールの練習に燃えていたのを知っておりましたし、なにしろナナに会えます。 仕事人間としては、すんごい失格だわワタシ、なんて思いながら、合唱コンクール会場へ。
会場は、その地域の立派なホールをその中学だけで貸し切っておりまして。 贅沢ですね。 ワタシのときは、学校が違うとはいえ、体育館でしたよ。
で、会場に入りましたら。
あたりまえですが、中学生の群れ・群れ・群れ。 ワタシは子供のいない身ですから、こんな数の中学生を目の当たりにすることなんて、もちろんないわけでして。
中学生って、ワタシが思っていたよりずっと幼いんだなー、なんて思ったりして。
あのかたまりは1年生か。すごい子供だなあ。そうだよね、去年は小学生だったんだもんね。 なんて考えてましたら、ふと思い出したのです。
ワタシ、今の彼女たちのときには、もうナナのこと好きだったんだよなあ。と。
今並んで座っているワタシとナナにとっては、中学の時なんてもう遙か昔のことなわけです当然。 でもワタシは、あそこで上級生たちに囲まれておどおどしながらもはしゃいでいる、まるで子供な中学一年生のあのムスメのような頃から、変わらずこの人を好きなんだなあ。なんて思って。
そうしたらもう、1年生たちが愛しくて愛しくてですね。 なんかもう、いろいろとがんばってくれキミたち! まだまだガキだけどな!と叫びだしたいほどに。
じーーーん、と勝手に感動しながら隣にいるナナの顔をちらりと見てみました。
その横顔はもちろん、中学1年生のときのそれとは全然違うわけですが。 パンパンだった頬は、シャープな輪郭に変わっていて。もちろんすっかり大人ですし。お母さんですし。
1年生たちのあどけないざわめきを聞きながらナナの顔を眺めていると、ものすごく不思議な、タイムトリップみたいな気分に。 これは今まで体験したことのない心の波動で。
仕事は困ったことになっちゃったけど、ああ、来てよかったな、と感動。 まだ合唱聴いていないんですが、席について5分ほどですっかり感動モードのじょりぃ。
すっかり気をよくしたワタシは、今度は2年生に目を向けて、「やっぱり1年生より少しだけ大人びているな」「2年の時はナナとこんなことがあったっけ」「あんな思いをしていたとき、ワタシはあんな風だったんだな」と2年生モードで感動。 次は同じように3年生モードで。 いちいちキュンキュンするじょりぃ。 君たち、精一杯今を生きるんだぞ! 20年後にこんなに素敵な思いができるんだから!と、心の中でゲキを飛ばしてみたり。
会場をうろちょろする長女ちゃんを見つけ、ああ、まさにナナがあんな風だった頃にワタシは・・・と、またいちいち感慨にふけるじょりぃ。大忙し。
もう長女ちゃんの姿も愛しくて愛しくてですね。 ナナを投影しているから、というわけではなく、もう単純に愛しい。 ナナの子供が、あの頃のワタシたちの年齢になっているなんて。 感慨。 年を取るって、悪くない。 長女ちゃん、ナナから生まれてくれてありがとう。 この愛しさ、ワタシの胸だけにはしまっておけない。
「長女ちゃん、かわいいねー」思わず心から呟くじょりぃ。 「そーだねー」当然じゃん、という感じのナナ。
とはいえ、ナナの声にもしっとりとした趣が。 もちろんワタシと考えていることはまったく違うでしょうけど、彼女も彼女なりに幸せな気持ちになっているらしく。
来て良かった。
まわりのお母さんを見回してみると、ナナは若いなー、なんて思ってそれも嬉しく。 最近前より若さがなくなったかな?なんて失礼なことを思っていたじょりぃだったんですが、こうしてみるとやっぱり若い。 よしよし。 その調子その調子。 と、勝手に悦に入ってみたり。
そしてもうひとつ、嬉しかったことが。
ああいうホールの座席って、狭いんですよね。 それが幸いしまして。
なんかすごく顔が近いんです。 いつもでは考えられないふたりの距離。 今まででいちばん、親しげにできたかもです。 顔を寄せるようにして、くだらない話をして笑ったり、合唱中はひそひそと耳元でおしゃべりしたり。 物理的には映画館などで似たような体験をしたこともあったのですが、今日の感じはそのときと全然違っていて。
なんだこの思いがけない幸せは。
しかもですよ。
ナナは「肘掛けは、両方あたしのもの」と当然のごとく思っているらしく、肘掛けに肘を乗せてゆったりとくつろいでいたのですが。 ワタシはといえば、ナナがゆったりしている分、隣でちんまりと座っていたのですけど。 狭い座席ですからね。 ワタシの腕に、ナナの腕が触れているんです。 コンクール中、ずっとですよ。
「なんだ。そんなことか」と呆れてるそこのアナタ! そう、アナタですよ。
こんなこと、今まで一度もなかったんですから。 ワタシのテキストをずっと読んでくださっている奇特なかたは、もしかしたら「おお!」と驚いてくださるかもしれませんね。
まあ、お互い嫌い合っているかのごとく「触れる」ということを(結果的に)避けていたわけですから。 ていうか、ワタシが避けていて、向こうにもその気配が伝播していた、というのが正解かもしれませんけど。
今日はずーーーっと触れてまして。 寒い会場だったのですが、ナナ側の腕だけはあたたかくてですね。 幸せ。
はっ。
だからナナはあえて腕をどかさなかったのかしら。 なにしろ超寒がりだし。 カイロ代わりにしていただけかも。ワタシの腕を。 ていうか、何も考えていなかったという線がいちばん濃厚なわけですが。
でもそんなこと、考えない考えない。 ワタシの気持ちと満足感だけ考えておこうっと。
あ、もうひとつ、普通の人が聞けば「・・・それが何か?」と呆れてしまう嬉しいことがあったのでした。 それは行きの車の中でのこと。
「手が冷たいよー」とナナ。 「気の毒に」とワタシ。
「ホントにすごく冷たいんだよ。 ほら」
わっ。
みなさん! ナナがワタシの手に、自分の手を重ねましたよ!
呆れちゃダメ!しらけてもダメ! こんなこと、今まで一度もなかったんですから。
「うわ。 ホントに冷たい」 と言いつつ、じょりぃの心は興奮の炎で真っ赤に燃えております。たかが手で。 「ね。 ていうかあたし、手がガサガサだ。やだな」 あら、もう手を引っ込めてしまいました、ナナ。
全然ガサガサじゃないから。 気にするなーーー。 手を引っ込めるなーーー。
という思いとは裏腹に 「はい」 とハンドクリームを手渡すじょりぃ。
何も考えず、親切心からそうしただけだったのですが、あれではまるで「ホントだね。これでキレイにおし」と言っていたようだと後から思ったじょりぃ。 ワタシのバカバカバカ。
合唱コンクールの方は、なんと長女ちゃんのクラスは1年生の最優秀賞を獲得することができまして。 それはそれはもう、ハリウッド映画並の「メガハッピー」でございます。 ナナの嬉しそうだったこと。 親ですねえ。
そのあとナナ宅へ寄って、次女ちゃん・末子ちゃんにご奉仕させていただき、夕飯をごちそうになって帰って参りました。
そんなわけで、今日は良い日です。 ビバ!中学生。 日本の未来は明るい。<そこまで言うか
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