ナナとワタシ
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「あたし、江戸時代だったら、揚屋の女将になりたかったな」とナナ。
「無理じゃないの」
「なんでー」
「どっちかというと、そこで働かされる方の人でしょ、タイプ的に」
げ。 つい本音を言っちゃったけど、これって失礼なのかな。(失礼だろう) 怒ったらどうしよう。
「花魁とか遊女とか、そういう人ってこと? 体を売る人?」
「う、うん」
「あー。そっちのが合ってるかも。ていうか、合いすぎ、あたし」
「自分でそこまで言いますか」
「家のために犠牲になって、よよよよと涙しながら体を売るんだね」
「・・・・・」 いろいろ想像中。
「で、若くてかっこよくてやさしい呉服問屋の若旦那に水揚げされるのかな」
「すごく自分に都合良く話が進んでいませんか」
「で、呉服問屋の若女将に収まってさ。それでも一生後ろ指さされるのね、『遊女だったんだよ、あの女将は』なんてね。『若旦那もコロッと騙されて・・・』なんて。あたし、うまく騙せるだろうな」
「キミが遊女上がりの若女将になるのなら、ワタシはきっぷのいい辰巳芸者にでもなろうかな」
「いいんじゃないの」
「三味線とか歌とかで、やっぱり女手ひとつで食っていくんだろうか。今と同じじゃんか」
「きゃははははははは。いいかもそれ。あたしも含め、花魁仲間も嗜みとしてじょりぃ姐さんに三味線とか習いに行くの」
「べんべんっ」
「でもなんか、じょりぃ姐さんはやたら厳しそうですね」
「ナナさん、そもそも姿勢がなっとりやせんぜなんてね」
「ムダに説教臭そうだし」
「説教臭いとか言うな」
「ねちねちイヤミとか言ったりさ」
「ワタシのことそう思っていたんですね。その通りですけど」
「いつのまにか、"じょりぃ姐さんのところにお稽古に行かされる"ということは、その揚屋でのお仕置きのような意味合いに変わっていくの」
「わはははははは。『ナナちゃん、お客様にそんな勝手ばかりしてると、じょりぃ姐さんのとこにお稽古に出しちまうよ!』みたいな」
「そうそう。『女将さん、じょりぃ姐さんのところだけは勘弁してください』とか言っちゃってね」
いいですねえ。 立場逆転という感じで。
「で、あたしが呉服問屋の若女将になってからも、ちゃんとじょりぃのとこ通うの。三味線習いに」
「ほう」
「でも、あたしはもう花魁じゃないから、今までのような扱いはされないわけ」
「で?」
「今度は待遇がいいの。じょりぃ姐さんにとっても、いいお得意なわけだから。なんたってあたしは呉服問屋の若女将だし」
「えらい勝手な展開だな。で?」
「それで、ふたりでコソコソ・・・・」
「・・・・・コソコソ?」 な、なにするのかなどきどき。
「あやしい金儲けを始めるの」
「キミ、最後、いつもそれだね」
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