日常些細事
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引越し先を捜して不動産屋の『大日本賃貸(仮名)』に行く。 「倉敷駅の近くで静かな環境で間取りは2DK以上でひと部屋はフローリング、家賃駐車場込み5万円以下の物件ですか」 私の希望を聞いた受付けのお姉さんは、 「そんな好条件で5万円以下なんかあるわけねえだろ」 という顔をして分厚い書類をめくっていたが、やがて、 「倉敷駅じゃないんですが、中庄駅まで徒歩3分、2DKで駐車場付き49000円、というコーポならあります」と教えてくれた。 「駅から3分ですか」 「はい。まあ。駅まで3分ですね」 「3分・・・」 私は考えた。 3分あれば、 1、駅でカップラーメンにお湯を入れる 2、容器を持ったまま歩いて帰宅 3、すぐにラーメンが食べられる ということである。 便利だ。 そこを紹介してもらうことにした。 倉敷市中庄は岡山市と倉敷市中心部のほぼ真ん中に位置する町で、近年、岡山県南部のベッドタウンとして盛んに開発されている地域である。 中庄駅はレンガ造りのコジャレた外観をしていた。駅の周辺も整備され、なかなか綺麗である。 住むには良さそうなところだ。 「さて」 改札を出ると私は不動産屋でもらった地図を取り出し、あたりを見回した。 駅の向いにコンビニがあり、その横の道を真っ直ぐ行けば目的の物件 『コーポ達磨ヶ丘(仮名)』 に着くはずである。 「近いですよお。もう、駅から見えてるんですから」 受付けのおねえさんもそう言っていた。 ところが。 「え。道ってこれか?」 コンビニの横にあったのは、舗装されてはいるものの幅1メートル足らずの極細道。 そいつがくねくね曲がりながら裏山の頂上まで続いている。 頂上には『大日本賃貸』と書かれたでっかい看板付きの白い集合住宅が建っていて、どうやらこれが『コーポ達磨ヶ丘』らしい。 達磨ヶ丘というのは一帯の地名なのだろうが、駅からの標高差は100メートル以上、見た目は小さな山である。 「駅から見えてるんですから」 って、そりゃ山の頂上にあればよく見えるわ。 不動産屋の物言いにいささか呆れながら、 「しかしまあ、せっかく来たんだし」 とりあえず現地まで行ってみることにした。 道は思ったより勾配がきつく、ほとんど登山道といった感じである。自動車なんかどう頑張ったって通れない。バイクや自転車で登るのもまず不可能で、ここに住むとすれば毎日歩いて行き来するしかないだろう。 大変である。 頂上まで、息を切らしながら10分近くかかった。 駅でラーメンにお湯を入れたら、すっかり麺が延びてしまう時間である。 話が違うではないか。 そもそも我が院に来るお客さんの大半は、膝や腰を痛めている人たちなのだ。 症状が良くならないかと藁をも掴む気持ちで施術を受けに来るのに、こんな坂道登らしたら余計に悪くなってしまう。 『コーポ達磨が丘』そのものはまともな物件だったが、立地が悪すぎる。ここは諦めよう。 しかし腹が立つのは不動産屋である。 「駅から3分」なんて嘘ばっかり。文句を言ってやらねばならん。 憤然として坂を下りて行くと、 「あれ?」 駅までは意外に早い。 時計を見ると約3分で着いてしまっている。 山頂から駅まではひたすら下り坂なので、時間は上りの3分の1ほどに短縮されるらしい。 駅から10分。駅まで3分。 そういえば受付けのおねえさんも 「駅まで3分です」 「まで」を強調していた気がする。 ということは不動産屋の説明も嘘ではないということなのか。 文句は言えんということなのか。 なんか納得いかんぞ。 うーむ。
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