(仮)耽奇館主人の日記
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2006年01月12日(木) |
犬神博士、クラシック・バレエと格闘するのこと。 |
今、会社に帰ってきたところだが、はっきり言って死んだ。 新宿のスタジオで、仕事の関係でクラシック・バレエの練習を見学していたのだが、無謀にも興味と好奇心のままに、私も練習につきあったのである。 そこのクラシック・バレエはロシア仕込みで、ワガノワ・メソードというそうだが、見てるだけで武道にも通じる、ピリピリした緊張感が漂っていた。そんな空気に感化されたのかもしれない。 まず。 アンデオールといって、両足を百八十度、外に開くという基本中の基本から。 つまり、第一ポジション、アームスアンバー。 両かかとをぴったりくっつけて、左右のつま先をぴったり両端に向ける。 私は当然、こんな足つきをするのは、生まれて初めてである。 ちっちゃい女の子まで、軽々とこなしているのに比べて、私はガクガクとO脚になりながら悪戦苦闘していた。 そこへ、最近来日した、ジョディ・フォスターそっくりのロシア人女性の先生が、ツカツカと歩み寄って、私のお尻を思いっきり引っぱたいた。それから、水色の瞳を大きく見開いて、私の鼻にキス出来るくらいに、顔を近づけて、「やるからには、きちっとやりなさい!」ときれいな発音で叱責した。 私は「ダー!」とロシア語で返事した。「はい!」という意味である。 先生は片眉を吊り上げて、ニヤッと笑うと、こっくり頷いて、前の方へ帰っていった。 お次は、トゥーシューズでの第四ポジション。 ご存知の、つま先立ちのあれである。 私はトゥーシューズははいてないし、持ってもいないが、靴下だけで一応おっかなびっくり、真似をしてみた。 つま先の、足の親指がグリッと変な音を立てて、そこから激痛が脳を直撃したので、ぐわっと声をあげてうずくまってしまった。 「主任、大丈夫ですか?」と同行した部下のひとり。 部下たちは、みんなでパイプ椅子に座って、ニヤニヤしながら私の苦闘ぶりを眺めていたのだが、後で覚えてろよ、このー。 それから、色々なポジションを繰り返しつつ、アラベスクも様々な型を見よう見まねでやってみた。 第一アラベスクは何とか出来たのだが、アラベスクパンシェは無理だった。 右足で立ちつつ、上体を前に傾けながら、左足をキレイに後方へ差し伸ばすのである。 昔、護身術で学んだ、伏せ蹴り、足刀の型に似ていたので、出来るかなと思ったのだが、身体は昔のように軽々と動いてはくれなかった。 そして、ギブアップというか、タップしてしまったのが、第五ポジションのアームスアンオー。 さっきのアームスアンバーの型から、両足を交差するだけのものなのだが、これは中学校の頃、友達に四の字固めを本気で極められてしまった時より、足がどうにかなってしまいそうなほどの激痛を覚えた。 さらに、最悪なことに、両足ともつってしまった。 部下たち四人で、両腕と両足をそれぞれ抱え上げてもらって、退場したのだが、全く見られたもんじゃなかった。
・・・・・・
見学終了後、バレエの先生がにこにこしながら、私にこう言った。 「初めての割には、頑張った方ですよ。みんな、たいてい、最初のアームスアンバーでまいりますから」 「いやあ、あれもキツかったですよ・・・」と私。 「でも、身体はガチガチだったけど、昔は柔らかかったみたいだから、今から鍛えなおしません?そうすれば・・・」 先生はニヤッと笑った。 「キャラクテール・ダンサーにはなれますよ」 部下たちは、意味が分からなかったので、?という顔をしたが、私は分かったので、はははと苦笑いをしてみせた。 バレエの主役をプリマというのは、みんな知ってることだが、キャラクテールというのは、バレエのアクセントみたいな感じで、個性的な踊り手のことである。 とにかく。 鍛えなおすのは検討しますと言って、帰ってきたのだが、クラシック・バレエはキツイ。やっている方からすれば、当たり前のことなのだが、一朝一夕ではとても真似すら出来ない。 それなのに、私がなにゆえに、挑戦したのかというと。 武道に通じる、精神的な「張り」を感じて、それを体感したかったからだ。 それに、何事も修行、勉強である。 しばらくの間、うちでもアラベスクを練習してみよう。 今日はここまで。
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