(仮)耽奇館主人の日記
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2005年04月25日(月) |
近況報告其の四、ヴェータラのこと。 |
十八日の月曜に、うちのお寺の副住職となるインド人青年、マティラム・ミスラ君が来日した。 その夜は、私もお寺に泊まり、住職の従弟一家、父方の親戚とともにミスラ君を歓待した。 従弟の嫁は、無理して英語を使うなと言ったにもかかわらず、私のことをハウスメイド(お手伝いさん)と紹介して、私たちをずっこけさせた。 ハウスホールド・ヘッド(家長)と言うべきなのだが、とりあえずノリツッコミをして、ミスラ君を笑わせることに成功した。
二十日の水曜に、正式に副住職に就任ということで、周囲へ挨拶回りをした。住職の従弟はまだ坐骨神経痛で寝たきりだから、私が住職代理として、ミスラ君を連れて浅草中を歩き回った。 その際、仲見世の喫茶店で二人してカレーライスを食べたのだが、ミスラ君にはあまり美味しいものではなかったようだ。 後で聞いたら、やたら甘ったるいカレーだったという。さもありなん、私も日比谷のマハラジャで初めて食べた、本格インドカレーは、殺人的に辛かった覚えがあるので、いわゆるカルチャーショックというやつだろう。 私と色々話しているうちに、ミスラ君は私のある一面に、ものすごく拒否反応を示した。 その一面とは。即ち、怪奇嗜好である。 オックスフォード時代のミスラ君のあだ名は、「Sadducee」、即ち、「サドカイ教徒」で、霊魂の存在を信じない懐疑主義者であると同時に、ものすごい怖がりであることをからかう呼び方だ。 幽霊とか悪魔の存在を本気で信じているんですか、と聞かれたので、ノーと答えた。 だが、それらが怖く感じられることは確かなのだから、そういう「怖さ」を愛し、愉しんでいるんだよと説明した。 ミスラ君は、分かったような、分からないような顔をするだけだったが、私に無理やり、「絶対に」、お化けのふりをして驚かすことだけはしないことを約束させた。特に、死人の真似はしつこいほどタブーですと繰り返された。 約束する代わり、なぜそれほどまでに、サドカイ教徒なのかを聞いた。 じっくり時間をかけて、こんこんと説明されて、私は思わず二ヤッと笑った。 ミスラ君は、幼少時、ヴェータラに出くわすという恐怖体験をしているので、そのトラウマを覆い隠すために、幽霊や悪魔を信じないことにしたのだそうである。 ヴェータラ。 インドの魔物で、死人を操り、くしゃみをさせたり、笑い声をあげさせたりするというやつだ。 恐怖体験については、なかなか面白かったので、後日詳しく書いてみるつもりである。 お寺に帰った後、私が「絶対に」ミスラ君を怖がらせないことを約束したというのを聞いて、従弟と嫁は異口同音に、「無理に決まってる」と言った。
二十四日の日曜に、ミスラ君の歓迎会をお寺でやった。こちらは、以前、ここで募集した女性たちのうち、私が厳選した大和撫子十名を招いて、近所のお寺仲間たちとともに気楽に盛り上がった。 坊さんのくせに、カラオケでモー娘とか歌う、果てしないギャップに、ミスラ君は苦笑しっぱなしだった。 女性たちの中に、上智大一年生がいて、その子がミスラ君に一生懸命英語で会話を仕掛けていたが、あまりスムーズな意思疎通にならなかったようだ。 むしろ、日本国どころか、東京を一歩も出たことのない、東京原住民であるプー娘の、インド大好きっ子二十五歳の方が、割かし意思疎通をはかれたようだ。 そう、アナタのことです。ニヤッ。 ミスラ君は、あの後で、アナタのボディコミュニケーションぶりに、すごく感心していましたよ。 他にも、なかなか感じのいい子はいたのだが、私から見て、即戦力になりそうな子は今日だけでは分からないなという印象だった。 最年少の、高校三年生の子は、私のことをしげしげと眺めて、「もっと暗そうな人かと思ってました」などと感想を述べていた。 「どんな感じだと思ってたの?」と聞くと、神経質そうな、ガリガリの、メイクを落としたヴィジュアル系バンドの人と答えたので、一緒に聞いていた、禅宗の満太郎坊とともに大口をあけて笑った。 けっこう夜遅くまで飲み食いしていて、プライド観戦もみんなで盛り上がって、お気に入りの選手に声援を送った。 吉田選手とシウバ選手の死闘にエキサイトして、私と満太郎坊は、お互い膠着状態からはこうやって脱出するんだと、実際に組み合って、畳の上で絡み合った二匹の蛇のようにジタバタしていた。 バカみたいだが、ミスラ君はほんとうに楽しい人ばかりで嬉しいと言ってくれた。
もうすぐGWである。 この大型連休は、私には全然関係なく、仕事なのだが、連休を利用して参拝しにいらっしゃる檀家さんたちがいるので、檀家さんたちがミスラ君に慣れるまで、出来る限りお寺にいなくてはならない。 何だか、前よりもっと大変になったようだけど、それもしばらくの我慢だ。
最後に。 この度の脱線事故で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。 南無阿弥陀仏。合掌。
今日はここまで。
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