(仮)耽奇館主人の日記
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2005年04月15日(金) |
官能的右翼の熱弁、あるいは歓迎、新人のこと。 |
この日は、予定していなかったのだが、勢いで新入社員の歓迎会をやった。 カレンダーの上では来週になっているのに、早めにやったというわけである。 その理由は。 我が社の新入社員に、中国人がいるからだ。 しかも二名。 編集オペレーターの男性社員、二十二歳、ホウ君。 事務員の女性社員、二十二歳、リン君。 同じ土地(四川省)の生まれで、同じ大学の出身者の男女の組み合わせ。 それなりに日本語は勉強したらしく、流暢に喋るが、やはり来日したての異国は不安いっぱいで、昔からの恋人どうしのように、いつもべったりくっついている。 そこへもってきて、今回の反日デモ騒ぎである。 二人の不安感は一気に沸騰した形で、見るも哀れなくらいにビクビクしてしまっていた。 同僚のひとりが、私のことを「右翼」と紹介したばっかりに、上司である私の目をまともに見られないという有様なので、独断で歓迎会を早めにやったというわけであった。 不安はこの際、きれいさっぱり払拭するに限る。 でないと仕事に支障が出る。 渋谷のちょっとした本格的、高級の中華料理店にて。 「満漢全席というわけにはいかないけど、みんな腹いっぱいやってくれ。当然、酒もドンドン飲んでいいぞ」 私の乾杯の音頭で、歓迎会は一通り、楽しく過ぎた。 私のねらいは二次会からである。 ホウ君とリン君の二人を含めた、新入社員たちを市ヶ谷のバーに連れて行って、私なりの「日中関係」についての考えをぶったのである。 そこのバーは、知る人ぞ知る、自衛隊関係者や愛国主義者の類いが集まる店で、話題の内容次第では、なかなかキケンな空気が漂うところだ。 「昔、オレ、高校時代に千葉県の港湾で船荷の荷下ろしのバイトしてたんだよ。コーヒー豆とか、米とか、冷凍マグロとか。仕事仲間に五人くらいの中国人グループがいてね、そのなかの、陳さんという読書家と仲良しだったんだ」と、ボックス席にて私は自分の経験談を語り始めた。 「すごい愛国家でもあってね、しきりにニッポンは中国から色々学んでここまで大きくなった、もっと頭を下げるべきです、なんて口癖のように言うわけ。で、オレは悔しいから、そうですねぇ、何もかもニッポンに流しちゃったから、やせ細っちゃって、共産国になっちゃうもんね、なんて言い返してたのさ」 「うわっ」と苦笑いするホウ君。 「お互い感情ムキ出しで殴り合いをしたこともあったよ。それが今思うとつまんない理由でね、『西遊記』と『南総里見八犬伝』のどちらが面白いかを言い争ったのが原因だったんだ」 「それでどうなったんです?」とだんだん乗り気になってきたリン君。 「どうもしないよ。今まで以上に仲良くなったね。その理由は・・・」 と、ここで、周囲を見回すと、カウンターの客たちも背中を丸めてはいるが、しきりに耳を立てているのが分かった。 「陳さんも、オレも、自分の国を愛してることが分かって、お互いを尊敬しあうようになったからさ。愛国という、確固としたアイデンティティ。これも豊かな人間性、魅力のひとつだからね」 そこでホウ君も、リン君も、にこりと微笑した。 「ここで、今回の反日デモについて。オレは中世からの、ダンス・マカブルと同じだと思う。つまり、集団発狂さ。個人個人の感情、感覚、感触が一切塗りつぶされて、みんなでヘッドバンキングしてるんだ。実際、みんながどれだけ『反日』という言葉をどれだけ理解しているか、疑わしいね。ただ、その二文字の響きがカッコイイととらえている印象があるな」 「ああ、なるほどねえ・・・」と日本人の新入社員。 「ただ、興奮するのはかまわないんだ。実際、不満の爆発がデモにつながったんだから。暴徒化したってかまわない。しかし、集団でやる以上は、集団以上の巨大な存在に向けられるべきであって、個人にむけられるべきじゃないんだ。サイバーテロで官庁のホームページを攻撃するというのが、実は正しい行為だと思う。たまたまそこにいた学生が日本人だからって、殺意をもって殴りつけるというのは、もう『反日』じゃないのさ。ただの弱いものいじめだ。恥ずべきことだね」 ここで私はわざと周囲に響くような大声で続けた。 「そして、我が国も、どこかのバカ者が銃弾の薬きょうだの、なんだのを封筒に入れて送りつけるというのも、全く恥ずべき行為だね。陰湿極まりない。オレは、確かに右翼の方だけど、バカ者が目の前にいたら言ってやりたいよ。『貴様、それでも皇国の一員か』とね。堂々と抗議すりゃいいじゃないか。テロを起こすにしたって、ちゃんと中国本土まで行って、重要な政府高官に狙いを定めるべきだね、暴徒による破壊行為を暗黙したとかいうやつをさ。要するに、ベクトルが違うんだよな、みんな。弱いものに吠えたって意味ないのに、わざわざいじめられる相手を選んでる。最低だよ」 言いたいことをすべて言ってしまって、私はようやく、二人の中国人の、私に対する「ある種の緊張感」が霧散するのを感じた。 「犬神さん、ただの右翼じゃないんですね・・・」とホウ君。 「いい人で、安心しました。仕事、今まで以上に頑張れます」とリン君。 私もにっこり笑って、バーを後にしたが、客の中の一人が険しい目で私を見つめているのを、横目でとらえた。 私は右翼ではあるが、そこらへんの一般的な右翼には敵意を持たれる。 特攻服を着て、街宣車で飽きもせずに同じことを喚きたて、政治結社のステッカーをマイカーに貼って自己満足しているような連中には、とにかく敵意をこれでもかと持たれる。 恨まれることには慣れているが、今まで彼らと深刻なトラブルを起こしたことはない。 彼らもまた、私が別の意味で過激な右翼だと知っているからだ。 つまり、私は「官能的右翼」なのである。 政治的なものではなく、感覚そのものなのだ。 そして、だからこそ、個人の本性丸出しで、感情ムキ出しで、愛国心を叫ぶ者ほど、人間性をすべて披露することになり、お互いを理解する一歩となるのである。 我が国も、中国も、韓国も、そして北朝鮮も、いつまでものらりくらりと仮面を被った外交をしていないで、台湾の国会みたいに本気で殴り合いをすればいいのだ。 少なくとも、やる方、見ている方は、清々しいくらいにスッキリする。 今日はここまで。
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