(仮)耽奇館主人の日記
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喪中につき、新年の挨拶はしません。 去年は色々ありすぎたので、今年はいくらか穏やかな年になりそうです。 でも、大晦日に、お寺で除夜の鐘をつく前に、娘の榊が新潟からお客を二人連れて現れました。 これが、新年早々、私にとっては頭痛の種でした。 佐渡島の透と、その小学校の元担任だったからです。 例の・・・透の種を搾り取って、子供を孕んだという先生です。 こちら、今年小学六年生、あちら、今年三十三歳の元小学校教諭。 水垢離を終えると、私は榊を廊下に引っ張って問い詰めました。 「あの二人は何だ?」と私。 「何かね、お父さんに会いたいんだって。バシッと喝を入れてもらいたいとか・・・」と榊。 そこで、私は早速、透と先生を呼びました。 「これから鐘をつくけど、おまえたちの分も勘定に入れてつくぜ。時に先生、おめえさんの名前は?」 先生はフルネームを言いましたが、ここでは名前だけにしておきます。 「・・・幸子?紅白のトリも小林幸子だなあ。これも何かの縁だあね。それで、ズバリおめえさんの心中は、この雪空とおんなじだろう。身を切るような凍てついた中を、さらさらと降る雪とな。おめえさんの四苦八苦を百八と数えて、しっかり鐘の音を聞きなよ」 私は透の頭を撫でながら、ふんどし、作務衣と丁寧に身も心も整えて、しっかり鐘をつきました。 ・・・・・・ お寺の食堂で、軽く食事を済ませて、檀家のお参りの対応を、私の分まで従弟に任せて、二人を連れて土蔵の中に入りました。 当日記の長い読者さんならご存知、「地下室」のある土蔵です。 「地下室」へは降りませんでしたが、中二階に上がりまして、そこで裸電球の明かりの下で、二人を相手に「安珍と清姫」の話をしました。 有名な話である以上に、日本人なら知ってて当たり前なので、ここではいちいち説明しません。 男女関係の「あるべき形」のひとつとだけ申し上げましょう。 「透、寒いのは我慢して・・・脱いでくれ」と私。 「みんな脱ぐの?」と透。 「うん、真っ裸になるんだ」 裸電球の光で押しやられたとはいえ、圧倒的に濃い闇が四方を取り囲んでいる中で、あらわになった少年の裸体は、妖気を放つくらいの瑞々しい美しさに溢れていました。 「先生、幸子先生、目を伏せちゃならねえ。よっく見るんだ、おめえさんの中の『蛇』が這い回った透の肌を・・・どう感じるか、ありのままを言いな」 幸子先生は正座していましたが、そのまま闇の中へ後ずさりするように目を伏せるどころか、背けていましたので、何だかいびつに見えました。 「透、手をどけろ。隠すんじゃねえ。そいつも先生の前にさらすんだ」 透は両手で自分のペニスを覆っていましたが、私を恨むような流し目でちらと見やり、それから、先生の前でゆっくり両手をどけました。 先生は見るも哀れなほど、呼吸が荒くなり、胸を両手で覆って・・・むせび泣き始めました。 「どうして・・・こんなことを?なぜ、あたしを追い詰めるの?・・・」 間髪を入れず、私は地声をはりあげて、「喝!」と叫びました。 「追い詰めてんのは、俺たちじゃねえ、おめえさん自身なんだ。もっと心を脱いで、今の透みたいに素っ裸になっちまえよ。聞くが、透の裸を見て、今でも抱きたいと思うかね?」 「思います・・・」 「そら見ろ。なら、いちいち自分自身に何かと理由づけて、がんがら締めに縛るんじゃねえ。年の差や世間体なんて関係ねえんだ。おめえさんが透を抱きたいから抱いた、それだけよ。それだけを考え詰めればいいってことよ・・・透」 私は立ち上がって、背後から蜘蛛のように透の両肩を掴み、自分の羽織っていたどてらをかけてやりました。 「おまえも先生を孕ましたからっていちいち気に病むんじゃねえ。男は女ででっかくなるもんだぜ。ちと早く、知ってしまったというだけさ。こうなったら、とことんまで先生に教えてもらいな」 透が振り返って、私に抱きついてきたので、私は優しく抱きしめてやりました。透の耳元にぼそぼそと囁きながら、頭をぽんと叩いて・・・ 「先生、ガキを始末なんてことは微塵も考えちゃならねえぜ。面倒は俺が見てやるから、とにかく産むこった。ガキに罪はねえ以上に・・・先生も、生まれてくるガキも『家族』だからな。おめえさんの透に対する愛が本物なら、その愛でもって堂々と生きていけばいいのさ」 土蔵から出ると、二人ともスッキリした顔になっていました。憑き物が落ちたという感じです。 お寺のお勤めが終わって、娘の榊を迎えに来た紅蜘蛛お嬢様と談笑しながら、私服に着替えていると、幸子先生が意味ありげな笑顔で廊下から手招きしました。 「何です、幸子先生?」と私。 「ひとつだけ分からないことがありまして・・・」と先生。 「うん?」 「何で、『安珍と清姫』の話をしたんですか?」 「ああ。そりゃ先生が透を追いかけ続けるためのハッパでさあ。もちろん、先生は透と結婚して一般的な家庭を築くことは出来ねえでしょう。透の子供を産んでもなお、先生自身が『家族』であるためには、透を追い続けなければならんのです。まさしく、清姫のようにね・・・先生はもっともっと、先生の中の蛇に正直になるこってすよ」 ・・・・・・ 雪が止んで凍てついた空気が張り詰める中、従弟の嫁が運転する車で我が家に向かう途中で、私は嫁と、長男のハルが透のように女教師に食われたらどうするかを論じ合っていました。 「当然、中絶させて、訴えてやるわよー!」と従弟の嫁。 「ケツの穴が小せえな、てめえは。それでもお寺の奥さんかよ。もっとどっしり構えていかんと、みんな心が貧しくなるだけだぜ」 「じゃあ、もし、もしの話よ?サカキちゃんがどっかのオヤジに孕まされたら、どうするの、あんたは?」 「そうなったら、そうなるしかねえやな。何かの『縁』と思うしかねえ。俺はびっくりはするだろうが、てめえみてえに慌てはしねえよ」 我が家に着いて、車を降りると、嫁が運転席から、近所の人が窓を開けてくるくらいの大声で、 「バカ!!この、三国一の大バカ野郎!!・・・今年はあんたにとっていい一年になりますように。いつもいつもありがとうね、お世話になっています」 と最後は柔らかく、上品に挨拶してきました。 私はうんうんと頷きながら、挨拶を返しましたが、嫁の車が発進したところで、雪玉を作って、愛情たっぷりに車のケツにぶつけてやりました。 ・・・・・・ やっぱり、喪中の連絡が間に合わなかったと見えて、何人かから年賀状が来ていました。 私はへろへろになりながら、根性で熱い風呂に入り、初風呂の感触をじっくり味わいました。 ・・・・・・ いまだ、ホムペ制作中ですが、今年もよろしくお願いします。 今日はここまで。
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