(仮)耽奇館主人の日記
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告別式が終わり、市川の実家に、新潟の一族郎党の主な面々が勢ぞろいした。 母の兄弟姉妹と、その子供(私にとっては従兄弟、従姉妹)たち、そして子供たちの子供たち(私にとってははとこたち)で・・・私とサカキの二人を入れて、二十九人という大人数である。 おかげで、続き和室をぶち抜いて、近くの小学校から無理やり借りてきた会議用のテーブルとパイプ椅子を運び込む重労働に追われた。 でも、新潟中越地震で大変な状況なのに、よくぞ新潟の各地から集まってくれた。 これが・・・「家族」なのだ。 血は水より濃いというやつなのだ。 母は兄弟姉妹の中では、三女、五番目の子供に当たる。 従って、その息子である私が三十五歳だから、母の姉や兄たち四名はもういい年齢で、平均七十いくつという高齢ぶりだ。 みんなで寿司をぱくついていると、話題は自然と、死後の世界になっていった。 不思議なことに、一族の誰もが死後の世界を想像すると、必ず、月が頭に浮かぶのだ。 それも、月の裏側である。 その寒々とした暗い荒野の真ん中に・・・一本だけ桂の木が生えているというのだ。 その光景を見てきたかのように話したのは、長男で、母の兄にあたる伯父だった。 彼は数年前に十日町で交通事故を起こして、頭を強打して、臨死体験をしたのである。 「あんのやろこたま、しんきやけるわ・・・」 ベタベタの新潟弁で、ぶつけてきた相手の悪口を一通りぶつと、意識が飛んでる間、ひどく寂しい空間をふわふわと漂っていたことから語っていった。 ・・・・・・ 「あにゃ、あにゃ」 誰かに新潟弁で「あんちゃん、あんちゃん」と呼ばれたので、ハッと気がつくと、見附のイエアゴー伯父の孫娘のみどりだった。 「みどりか。何だい」と私。 「月に桂の木なんて生えてんの?」とみどり。 「生えてないよ。ただ・・・俺たちの心の中では、生えてることになってるんだ」 「んん?」 「桂男っていう妖怪がいるんだ。月の表面に出てる影の形な、普通はウサギが餅をついてる形に見られるんだけど、桂男という妖怪としても見られていたのさ」 「へえー。どんな妖怪なの?」 「月をじっと見つめていると、影がだんだん膨れ上がって、桂男になってこっちを手招くんだ。ぼやぼやしていると・・・連れて行かれちゃうのさ」 「どこへ?」 「あの世だよ」 「みゆきおばさんも連れて行かれたのかなー」 みゆきというのは、私の母である。 深雪と書く。 私はニヤリと笑って、みどりの頭を撫でた。 「そうだよ。今頃は・・・月で暮らしてるさ」 ・・・・・・ 私たちの死後の世界が、なにゆえに、一本の桂の木が生えた月の裏側という光景なのかは、誰にも分からない。 昔からそう言われ続けてきたのだ。 私は私なりに・・・ 妖怪「桂男」との関わりを持ち出して、自分を納得させている。 一族の誰かが、「桂男」を見たのだと。 今日はここまで。
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