(仮)耽奇館主人の日記
DiaryINDEXpastwill


2004年12月21日(火) 桂男のこと。

告別式が終わり、市川の実家に、新潟の一族郎党の主な面々が勢ぞろいした。
母の兄弟姉妹と、その子供(私にとっては従兄弟、従姉妹)たち、そして子供たちの子供たち(私にとってははとこたち)で・・・私とサカキの二人を入れて、二十九人という大人数である。
おかげで、続き和室をぶち抜いて、近くの小学校から無理やり借りてきた会議用のテーブルとパイプ椅子を運び込む重労働に追われた。
でも、新潟中越地震で大変な状況なのに、よくぞ新潟の各地から集まってくれた。
これが・・・「家族」なのだ。
血は水より濃いというやつなのだ。
母は兄弟姉妹の中では、三女、五番目の子供に当たる。
従って、その息子である私が三十五歳だから、母の姉や兄たち四名はもういい年齢で、平均七十いくつという高齢ぶりだ。
みんなで寿司をぱくついていると、話題は自然と、死後の世界になっていった。
不思議なことに、一族の誰もが死後の世界を想像すると、必ず、月が頭に浮かぶのだ。
それも、月の裏側である。
その寒々とした暗い荒野の真ん中に・・・一本だけ桂の木が生えているというのだ。
その光景を見てきたかのように話したのは、長男で、母の兄にあたる伯父だった。
彼は数年前に十日町で交通事故を起こして、頭を強打して、臨死体験をしたのである。
「あんのやろこたま、しんきやけるわ・・・」
ベタベタの新潟弁で、ぶつけてきた相手の悪口を一通りぶつと、意識が飛んでる間、ひどく寂しい空間をふわふわと漂っていたことから語っていった。
・・・・・・
「あにゃ、あにゃ」
誰かに新潟弁で「あんちゃん、あんちゃん」と呼ばれたので、ハッと気がつくと、見附のイエアゴー伯父の孫娘のみどりだった。
「みどりか。何だい」と私。
「月に桂の木なんて生えてんの?」とみどり。
「生えてないよ。ただ・・・俺たちの心の中では、生えてることになってるんだ」
「んん?」
「桂男っていう妖怪がいるんだ。月の表面に出てる影の形な、普通はウサギが餅をついてる形に見られるんだけど、桂男という妖怪としても見られていたのさ」
「へえー。どんな妖怪なの?」
「月をじっと見つめていると、影がだんだん膨れ上がって、桂男になってこっちを手招くんだ。ぼやぼやしていると・・・連れて行かれちゃうのさ」
「どこへ?」
「あの世だよ」
「みゆきおばさんも連れて行かれたのかなー」
みゆきというのは、私の母である。
深雪と書く。
私はニヤリと笑って、みどりの頭を撫でた。
「そうだよ。今頃は・・・月で暮らしてるさ」
・・・・・・
私たちの死後の世界が、なにゆえに、一本の桂の木が生えた月の裏側という光景なのかは、誰にも分からない。
昔からそう言われ続けてきたのだ。
私は私なりに・・・
妖怪「桂男」との関わりを持ち出して、自分を納得させている。
一族の誰かが、「桂男」を見たのだと。
今日はここまで。


犬神博士 |MAILHomePage

My追加