節分だ。 節分といえば『勝手寿司』である。 『勝手寿司』とはなんぞや?
それを説明する前に、最近、関東でもボチボチ 知名度の上がって来た例の風習を忘れてはならない。
『節分には恵方(その年に縁起がイイとされる方角)を向いて、 太巻寿司をまるかぶりする。 その間、決して声を発するべからず。 さすれば1年、無病息災、恵方から福も呼び込める』
「何?それ?」と思われた方もいるだろうが、 関西ではかなりの家庭が、節分の日のお約束として行っていると思う。 が、そんなもん、私の子供の頃にはしていなかった。 小学校の低学年になって、母親が寿司屋で働きだしたのだが、 そんくらいから我が家でもそういう事をするようになった。
はじめて母が、切ってない太巻寿司を家族の人数分持ち帰り、 そう言い出した時、「なんじゃそら?」と 疑問を感じるには、私はまだまだ子供だった。 夜に働いている母とのコミュニケーションをとる時間は貴重で、 母が家にいて一緒に食事をとれる、 ただそれだけがとてつもなく幸せだった。 母がソコにいて、楽し気に 「太巻き、丸かぶりするでぇ〜。話したらあかんねんでぇ〜」 などと言われたら、 「そういうものなのか」という認識もないまま、 ワクワクしてきて、素直に実行した。
だいたい巻寿司をそのまま丸かぶりするなんて、 お行儀の悪い事を親黙認でできるなんて。 いや、親黙認どころか、親推奨だ。 当時の私にとっては、豪勢でもあり、 「何や知らんけど、阿呆みたいで楽しいわぁ」だ。
もしゃもしゃ。 ………………む……ふんが、……んむ、…ごっくん。 もしゃもしゃ。 ………………む……ふんが、……んむ、…ごっくん。
それはまさにひと昔、サザエさんが番組の最後に食していたコロッケを、 まるままのみ込む時に苦労をしていたようになる。
実際、丸かぶりした事のある人ならわかるだろうが、 太巻きを丸ままかぶるのは、なかなか咽に負担がかかる。 途中で時々、お味噌汁を口に運び、 口の中、咽を潤しながら一本をなんとか食べ終わるのだ。
そうして『太巻き丸かぶり』は、阿呆みたいで楽しいイベントとして、 我が家の風習に取り込まれていった。
何年かたって、阿呆みたいで楽しいイベントを間近に迎え、 ふと幼い頃の節分を思い出し、母にたずねた事があった。
「なぁ、なぁ、たしか子供の頃は節分に、 太巻丸かぶりなんかやってなかったよな。 これって関西の風習なん? お母さん、九州の人やし、知らんかったん?」
そう質問した私に母は、いともあっさりと言ってのけた。
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