細かい説明は抜きにして、企業の現在価値を算出するために使われている 手法にDCFがあります。これをどう解釈するかについて。
アナリストの川崎潮氏もメルマガ「松井証券マーケットプレゼンス」の中で 述べておりますが、
”最近の紙面ではDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー、割引現在価値) モデルと呼ばれる金融用語が登場する事が多い。銀行の不良債権価値の評価 にこれまでの方法に替えてDCFを採用するよう、金融庁が動いているとの事。 また、DCFという言葉が使われる文の前置きには「米国で一般的な」とか、 「米国流の」とかいう形容詞が付いており、さも「これ適当」という感じで 紹介されている。
少し前ではバブル崩壊後の不動産を評価する際に「収益還元法」などとして 紹介されていたし、株式市場ではDD(ディスカウント・ディビデント、配当割 引価値)モデルとして類似の考え方がある。数式は省くが、教科書的にこの DCFの解説を一言で言えば「将来の一定期間予想される毎年の収益を現在の価 値に割り戻して現在価値を求める算出方法」となる。一般的には、このDCFを 用いて現在価値が算出された時点からその数字が「もっともらしく」歩き出す ことが多い。
この数式には「将来の毎年の収益」と「割引率」と言う2つの不確定変数が 必要とされる(詳しく言えばもっと他の仮定も必要である)。実際にはこれら の変数はどちらも「こんなもんだろ?!」で決められるのが実情である(優良 企業の来期の収益予想さえままならないのに、危ない企業の収益を何年先まで 予測するという前提でこのモデルが採用されるのである)。
つまり、交渉における立場の強い方が、この不確定変数を決められるという 実に「いい加減」な理屈である。従って、新聞でこのDCFという言葉が登場し た場合の解釈として、「官僚の裁量で適当に引当を厳しくするための方法」と 捉えておけば十分なのである。”
収益の予想それ自体が不確定な変数であって、それもどこまでマジメに はじいいているか不明であるにもかかわらず、それを強引に現在の価値に 置き換えたところで、それはあくまで現在価値を数字として見たいからに 過ぎない、つまり何らかの理由付けのために使用しているだけであって、 簡易的に数字で表しているだけ。「えいやー」の世界です。
企業自身がはじいているのであれば企業の中で使用すればいいし、投資家が はじいたのであれば投資家自身が使用すればいいのであって、それを世の中の 当然の指標として使用するのには問題があると思います。だから川崎氏の言う 言葉になるんです。「官僚の裁量で適当に引当を厳しくするための方法」 適切でなくてあくまで適当。
企業の評価は難しいです。どこまで実態が公表されているか分からないから。 それを敢えて評価するためには例えば過去3期のBSやPLを並べてその変化 を眺めてみたりすることもありますが、これはあくまで過去の事実を数字で 眺めただけ。金融機関は独自のフォーマットで指標を作っているようですが、 これもある程度主観が入っています。その指標とする項目にね。
過去の推移から将来の収益を予想できるのならば機械的に項目だけ拾って さえいれば計算できるのだから、人の手を介する必要もない。でもそれだけで 説明が出来ないことが多いから、(取引相手の)事業形態とかトップの方針 とか社員の目つきとか、もちろん経済状態とかも含めて勘案するんです。
人的な要素を鑑みないで、ただ数字だけで評価してしまうと見落としてしまう ところが大きいんです。技術はあるのに経営に問題があるにもかかわらず 数字が悪いだけで全てを破壊してしまったり(太田区あたりの中小企業は こんな例が多いらしい)、業績の低迷という過去からの反省をして必死に 悪さ加減を取り戻そうとしているのに、そこへ企業再生という銀行が行う 本来の使命感も無く、ただ上から命令されたことを忠実に守るなんてことを 事務的に行うことがこの数年の間には行われてきた(これが貸し渋りとか 貸し剥がしとかいう現象に表われた)のはご承知のとおり。
自分の上司はシックスシグマの洗礼者。理論・理屈で説明できなければ、 すべてを却下してしまう人。自分のように感情とか人情とかを少しでも説明に 取り入れるなんてことを最も嫌う人。考え方がものすごくクールです。でも それで組織が運営できるのならばそれでついていけるのですが、いわゆる 熟練者(つまり昔気質の技術者であるオジさんたち)の人たちが存在する 限り、それできれいに割り切れないんです。割り切った時にはその人たちの 首を切る結果になってしまうから。ま、会社に勤めているんだから会社の 方針に従えということにもつながるんですけどね。
企業の評価の中には、このような「ヒト」の要素が無いんです。 企業を成立させているのはもちろん株主資本が大きい。これは否定できない。 でも運営するのはそこに帰属する社員。ここが腐っているのかまともなのか。 収益を生み出すのもその人たちにかかっているんです。やる気も無いダメ人間 の集団であるのかどうか。
厳しい時代であればあるほどこのあたりの評価指標の取り扱いが議論になり ますが、どれをとっても必ず批判が付きまといます。DCFは割と新しい 評価手法です。概念すら理解できない人も多いし。でもこれを使うメリットは どれだけ収益をあげる会社であるか、その収益が投資家へどれだけリターンと して返してくれるかを教えてくれる手っ取り早い指標ではあります。これを 元にどれだけ投資するかを考えることができる。
だからこれは投資家への情報ではあっても、政府がこの指標を使うのは危険で あると思います。曖昧な予想が入った数字であることは事実であるので、あく まで参考資料にとどめて欲しいもんです。(銀行がレポートの中に企業評価と してこれを指標に使うかどうか、注目したい。)
はい。今日は曇り。(東京地方)
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