2010年04月21日(水) |
欧州想定を超える空の大混乱 |
1、社説:空の大混乱 想定外リスクを教訓に 毎日新聞 2010年4月20日 2、社説:空の大混乱―国超える対策迫る火山灰 2010年 4月20日 朝日
アイスランドの火山が噴き出した大量の灰は欧州の空港を軒並み閉鎖に追い込む事態となった。再噴火の恐れはまだ残っており、日本でも、ビジネスマンや5月の連休の欧州旅行を断念する人が多いだろう。観光大国である欧州にとっては計り知れない影響がでる。 今日のグローバル化を支えているのが、インターネットに代表される情報通信網と航空機が引っ張る高速の大量輸送手段だ。だが、火山灰はジェット機のエンジントラブルを起こしかねない。このため事故を恐れた各国当局が空港閉鎖に踏み切った。
航空機がジェット化され、プロペラ機と違い噴煙に弱いようだ。自然災害からの影響を軽減するため、さまざまな対策がとられている。しかし、新たなリスクが大きく立ちはだかっている。欧州から世界に広がった空の大混乱に我々は何を学ぶべきなのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――― 1、社説:空の大混乱 想定外リスクを教訓に 毎日新聞 2010年4月20日 アイスランドの火山噴火によって欧州を中心に航空機が運航停止を余儀なくされ、被害が多方面に及んでいる。運航再開は、噴煙の状況をみて判断するしかないものの、今回の噴火については、北半球全体の気候に及ぼす影響も指摘されている。私たちの生活は、想定外のリスクと背中合わせであることを、今回の噴火によって改めて認識させられた。 世界の航空輸送にとってハブ的存在の欧州で、ほとんどの空港が閉鎖に追い込まれ、乗客が足止めを食っている。欧州では、列車やフェリーなどが大混雑している。 しかし、欧州は広く、それをカバーしている航空輸送を代替できるほどの能力が、列車やフェリーにあるわけではない。欧州以外の地域との旅客輸送となると、航空機に代わる手段は考えられないのが実情だ。 貨物への影響も甚大だ。医薬品、生鮮食品、電子部品など、多くの産業が航空輸送に依存している。欧州以外からは調達困難なものも多い。国際会議やスポーツなどのイベントへの影響も広がっている。 日本でも、多くの人たちが空港のロビーで運航再開を待ち続けている。オランダからの花の輸入がストップしてブライダル産業が影響を受けたり、保存がきかない医薬品が入手できなくなり、検査業務に支障が出ている医療機関もあるようだ。 アイスランドでの噴火がいつまで続くのかは不明で、日本ではゴールデンウイークが迫っており、旅行産業への影響も気がかりだ。 最も打撃を受けているのが航空業界で、損害は同時多発テロの9・11以上という。経済危機で航空需要が落ち込み、世界の航空会社は軒並み赤字という状況下での今回の運航停止だ。 欧州の航空会社は試験飛行を行い、航空当局に運航再開を働きかけている。しかし、エンジン停止に陥る可能性もあるだけに、欧州の航空当局が慎重に対応しているのは、やむを得ない。 地質が安定している北部欧州は、地震の心配がまずない。火山国で地震が多い日本からは、地殻の変動から受ける影響が少ない地域に思われていた。 ところが、その北西にあるアイスランドには、マグマが噴き出す大地の裂け目があり、大噴火が起こると偏西風にのって噴煙が欧州に向かう。しかも、航空機がジェット化され、プロペラ機と違い噴煙に弱い。それが重なった。 自然災害からの影響を軽減するため、さまざまな対策がとられてきた。しかし、新たなリスクを抱え込むこともある。欧州から世界に広がった空の大混乱は、そうしたことも、私たちに告げている。 毎日新聞 2010年4月20日 東京朝刊
2、社説:空の大混乱―国超える対策迫る火山灰 2010年 4月20日 朝日 欧州の空を覆った火山灰はグローバル化した社会の弱点を暴き出した。脅威が国境を越えているのに、対応は国ごとになりがちだった。被害の広がりを早く把握し、整合的な対策を立てるのにもたついた感は否めない。人や物の往来が飛躍的に増えている時代の危機管理は欧州だけの課題ではない。 アイスランドの火山が噴き出した大量の灰は欧州の空港を軒並み閉鎖に追い込み、世界中で航空便を大混乱に陥らせた。再噴火の恐れはまだ残っており、日本でも、ビジネスマンや5月の連休に海外旅行を計画している人々の心配は収まりそうにない。 今日のグローバル化を支えているのが、インターネットに代表される情報通信網と航空機が引っ張る高速の大量輸送手段だ。だが、火山灰はジェット機のエンジントラブルを起こしかねない。このため事故を恐れた各国当局が空港閉鎖に踏み切った。 安全を経済的利益より優先するのは当然だ。しかし、グローバル時代は、大量の人の往来や物流を大前提にしている。それが止まれば、影響は深刻だ。資材の供給が滞って企業が苦境に陥ったり、急を要する薬品が届かずに命を脅かされる人も出たりする。 危険が去って運航を再開できるようになったかどうか、そうでないならどんな代替手段が用意できるか、こうした点について速やかな判断も必要だ。 今回、各国の管制当局は用心のあまり空港閉鎖の方針を掲げ続けた。灰の分布に応じたきめ細かい対策は不十分なまま、各地で足止めが長引き、空港で夜を明かす人々から悲鳴があがった。毎日巨額の損失をかぶる航空業界や空港からも、あいまいな判断根拠への不満の声が広がった。 結局、国ごとの判断では対応しきれず、欧州連合(EU)加盟国の交通担当相が緊急会議を行った。国境を越える問題にはこうして意思統一をはかるのが不可欠だということだろう。 日本もアイスランドと並ぶ火山国だ。成長著しいアジアにも多くの火山がある。地震対策や火山の溶岩流対策での国際協力は行われているが、多くの航空機が飛び交うアジアで火山爆発による火山灰が発生した場合を想定した対応策づくりは整っていない。安全優先で交通手段を止めざるをえなくなったとき、欧州と同じような問題を抱えることになるだろう。 閉鎖した空港をどのように再開していくか。鉄道や海運など代替輸送手段をどう確保するか。欧州発の空の混乱を機に、日本もアジア諸国に話し合いを呼びかけてはどうか。 火山灰に限らない。感染症や地球温暖化など、グローバル社会は一国では解決できない問題に常にさらされている。課題は、国境を越えてどれだけ緊密な協力態勢を築けるかだ。
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