『日々の映像』

2010年04月02日(金) 漂流する政権



1、郵政改革:首相、連立を優先 郵貯上限2千万円
                    2010年3月30日毎日
2、社説:郵政改革 首相の統治能力を疑う
                   2010年3月31日 毎日
3、社説:郵政決着―擦り切れる「首相の資質」
                    2010年4月1日 朝日新聞

政府はゆうちょ銀行の預け入れ限度額を現行の倍の2000万円に引き上げることを柱とした改革案で決着した。かんぽ生命保険の加入限度額を1300万円から2500万円に引き上げることも決まった。この決定に対する社説は上記の通りである。

このほか郵政グループ内での取引にかかる消費税を免除することなどが盛り込まれている。暗黙の政府保証が付いたゆうちょ銀行の規模拡大は、中小の民間金融機関の経営を圧迫することは当然である。この他の補足を加える気持ちが出てこなしい。社説の通り「漂流する政権」である。

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1、郵政改革:首相、連立を優先 郵貯上限2千万円
                    2010年3月31日
 政府は30日、郵政改革を巡る閣僚懇談会を開き、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額を現行の倍の2000万円に引き上げることを柱とした亀井静香金融・郵政担当相(国民新党代表)の改革案で決着した。かんぽ生命保険の加入限度額を1300万円から2500万円に引き上げることも決まった。亀井担当相と原口一博総務相が24日に改革案を発表した直後から、仙谷由人国家戦略担当相ら一部閣僚が見直しを強く求め、閣内対立が激化。閣僚懇で鳩山由紀夫首相が閣僚の一任を取り付け、亀井氏らの案を採用した。夏の参院選を控え、首相は問題点の洗い出しより、国民新党との連立を優先した格好だ。
 「私に一任を受けて、即断即決をしなきゃならんという判断のもとで決めたことだ。(全閣僚とも)納得されたと思う」
 首相は30日夜の閣僚懇後、記者団に対し、自らのリーダーシップを強調してみせた。
 ただ、首相の指導力は、専ら早期決着という段取りに向けられていた。郵政改革案を白紙に戻せば、亀井、仙谷両氏らによる対立劇が長引き、求心力低下に拍車がかかりかねない。米軍普天間飛行場移設問題の混乱を抱えているなか、郵政の即日決着を図るなら、既存の亀井・原口案を採用する以外、選択肢はなかった。
 亀井氏率いる国民新党の強硬姿勢も、首相の背中を押した。郵政民営化見直しを旗印にしてきた同党にとって、郵政改革は最優先課題。今夏の参院選では旧郵政省出身の長谷川憲正総務政務官が改選を迎えるだけに、郵政改革案で譲歩の余地はない。約30万票といわれる郵政票をにらみ、民主党内にも仙谷氏に対する批判が募っていた。
 「外に出たら、記者に結果を聞かれる。今日、ここで首相が決めるべきだ」−−30日の閣僚懇の席上、赤松広隆農相がこう切り出すと、一気に決着の流れが固まった。閣内対立に危機感を強めた首相周辺が、赤松氏が口火を切るよう、事前に根回しをしていたもので、小沢鋭仁(さきひと)環境相も「明日(31日)の党首討論で詰められる」と同調。「閣僚委員会を作って議論したい」という仙谷氏の主張は大勢にならなかった。内閣支持率の下落により、首相の求心力が陰るなか、政策面での選択肢も徐々に狭まっている。
 亀井・原口案を基に法案化作業が進むことに対し、仙谷氏は30日夜、「閣内にいるんだもん」と語り、渋々首相に従う姿勢を示したが、「今の(改革案の)限度額なら、地方の中小金融機関、ひいては地方経済にいい影響をもたらさない」と不満をにじませた。仙谷氏に同調する副大臣の1人は「自分の主張を曲げるつもりはない」と反発しており、閣内の火種は確実に残った。
 首相の「裁断」により、政府は4月半ばにも、郵政改革法案を今国会に提出し、会期内の成立を目指す。限度額の引き上げは、法案成立後の6月にも定めるが、その後の状況を踏まえ、法施行時の来年4月にも限度額を見直す可能性がある。【坂口裕彦、望月麻紀】
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鳩山首相:「郵政」閣僚懇での協議を指示
郵政改革:閣内対立激化 鳩・菅・仙VS社・国の構図に
毎日新聞 2010年3月30日 21時22分(最終更新 3月31日 1時18分)
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2、社説:郵政改革 首相の統治能力を疑う
                       2010年3月31日 毎日
 この政権は本当に大丈夫だろうかと不安にかられる。
 政府は30日夜の閣僚懇談会で郵政改革案について、先に亀井静香金融・郵政担当相と原口一博総務相が発表した案を軸に法案化する方針を決めた。大きな焦点だった、ゆうちょ銀行への預け入れ限度額を現行の1000万円から2000万円に倍増する点に関しては今後、ゆうちょ銀行に資金が集中した場合には引き下げも検討するという。結局、元の亀井氏案に戻った内容だ。
 一体、これまでの迷走は何だったのだろう。鳩山由紀夫首相の政権統治能力に疑問符がつくことだけは間違いない。
 今回の案は、このほか郵政グループ内での取引にかかる消費税を免除することなどが盛り込まれている。暗黙の政府保証が付いたゆうちょ銀行の規模拡大は、中小の民間金融機関の経営を圧迫し、ひいては経営難に陥った民間金融機関を税金で支える事態になりかねない。亀井氏が24日に発表した直後、菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相らが異論を唱えたのは当然だった。
 お粗末なのはこれまでの経過だ。亀井氏が発表前に「首相の了解を得た」と主張すると首相は「了解はしていない」と否定した。その後、民放番組の生放送で、菅氏が「私は聞いていない」と発言したのに対し、亀井氏は「あなたの耳が悪い」などと反論。「内閣の体をなしていない」と野党側が批判したように、子どものけんかのような醜態だった。
 そして結果は当初の亀井氏案を軸にするというのだ。「首相に一任した」と語って了承した菅氏や仙谷氏の姿勢も理解に苦しむ。
 そもそも、鳩山首相にどれほどの問題意識があったかも疑わしい。首相は30日の閣僚懇後、「迅速な結論を出す必要がある」と強調したが、そもそも郵政事業の見直しは亀井氏が率いる国民新党が最優先している政策だ。亀井氏の意向は当初から分かっていたのに政権発足後、きちんと議論を詰めてこなかったのは、今までも面倒な話を先送りしてきたということではないか。
 迷走を続ける米軍普天間飛行場の移設問題も同様だ。3月中に何らかの形で政府案を決めると言っていた首相は、ここにきて「今月中と法的に決まっているわけではない」と発言している。これでは国民の信頼は薄れる一方に違いない。
 新年度予算が成立した途端にたがが緩んでいるように見える。今後、夏の参院選が近づくにつれ国民新党や社民党は一段と独自性をアピールするだろう。いつになったら首相は指導力を発揮するのか。これでは政権は漂流するばかりだ。
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毎日新聞 2010年3月31日 東京朝刊
3、社説:郵政決着―擦り切れる「首相の資質」
                    2010年4月1日  朝日新聞
 見当違いのリーダーシップだと言わざるを得ない。鳩山由紀夫首相が主導した郵政改革案の決着のことである。
 閣内や与党内にも異論があったが、亀井静香郵政改革相らの案に沿って進めることを決めた。ゆうちょ銀行への預け入れ限度額を2千万円に倍増、かんぽ生命保険の保障限度額を2500万円にほぼ倍増するという内容だ。
 手っ取り早く規模を拡大して収益を増やそうという安直な路線である。
 弊害ははっきりしている。郵貯は資金の大半を国債で運用している。資金が民間金融機関から郵貯に移れば、企業の設備投資などに回る資金が減り、経済の活力がそがれる。「中小企業をいじめるような法案」(山口那津男公明党代表)と言われても仕方がない。
 民主党はもともとは郵貯の規模縮小や簡保の廃止を掲げていた。首相はなぜ逆方向の改革案をのんだのか。
 亀井氏らを抑え込もうとすると、連立政権の危機につながりかねない。かといって、「学級崩壊」の様相すら呈する閣内の対立を放置すれば、イメージダウンは深刻になる。その一方、特定郵便局や労組などの郵政ファミリーを引きつければ参院選には有利だ。そんな事情があったのだろう。
 政策判断より政局判断を優先した、後ろ向きの「裁定」というほかない。
 鳩山氏のリーダーシップの迷走は、谷垣禎一自民党総裁が言う通り、もはや「首相としての資質」が疑われるところまで来ているのではないか。
 きのうの党首討論で谷垣氏は、いろいろな問題を引き起こし、混乱を生んでいる真の原因は、「首相の言葉」そのものにあるのではないかと述べた。的を射た指摘である。
 好例が米軍普天間飛行場の移設問題だ。首相は3月中に政府案をまとめることを「お約束する」と述べてきた。だが、3月末が近づくと「法的に決まっているわけじゃありません」などと言い訳し、「1日、2日ずれることが大きな話ではない」と言い放つに至った。「綸言(りんげん)汗の如(ごと)し」という言葉をご存じないのだろうか。
 これでは、5月末までに「命がけで」決着させると聞かされても、有権者は鼻白むしかない。
 この問題では、首相は「腹案」なるものがすでにあることを明かし、「考え方は一つだ」と語った。しかし、岡田克也外相は現時点で一案に絞るのは「ありえない」と述べたばかりだ。二人は口をきかない間柄なのか。
 改めて指摘するのは残念だが、首相はともかく言葉をもっと大事にするべきである。自分の発言がどういう政治的意味を持つか、無頓着すぎる。
 最高指導者として政策の方向性を定め、責任ある言葉で政権内を調整し、引っぱっていく。そんな首相の資質への期待が擦り切れかかっている。


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石田ふたみ