『日々の映像』

2009年11月23日(月) 政府はデフレにどう対処する。

報 道

1、社説:デフレ再燃―たじろがず新成長戦略を
                  2009年11月21日   朝日新聞
2、社説:デフレ対策 不安心理絶つ姿勢示せ
                  2009年11月21日  毎日
3、社説 閉塞デフレ脱却に政府・日銀は足並みを(11/21)
                  2009年11月21日  日経
4、「日銀はデフレと戦え」 OECD事務総長が会見
                  2009年11月21日  日経

 物価が持続的に下落するデフレへの懸念が強まり、11月の月例経済報告は「緩やかなデフレ状況にある」と明記した。政府によるデフレ宣言といえる。デフレには、さまざまな要因が絡み合っており、解決は容易ではない。税収の予想以上の減少で財源は乏しく、財政、金融政策をどう組み合わせるか、難しい。

 物価が下がることは消費者にとって一見、恩恵になるが、経済全体を眺めると、そう簡単ではない。企業の収益悪化が、賃金引き下げや従業員を減らすリストラにつながるのである。 それが消費抑制、節約志向を強め、物価下落を招き、さらなる景気後退の要因となりかねない。そして経済活動が縮小し、デフレスパイラルに中にいると言わねばならない。
 
夏のボーナスは前年比約10%も下がり、冬のボーナスはこの20年で最大の減少率になるとみられている。これでは個人消費の悪材料ばかり目立つ。一番重視すべきなのは失業者増に歯止めをかけ、雇用を改善することであるが現在の情勢では雇用を増やす企業は皆無に近い。

 名目国内総生産(GDP)は、2009年7〜9月期の年換算額の480兆円で17年前の1992年の水準だ。バブル崩壊後数百兆円の公共投資を実行して横ばいのGDPなのである。日本経済は失われた10年でなく、失われた20年になりかねない。問題は鳩山政権にまとまった経済政策ビジョンがないことだ。世界でデフレのワナから抜け出せないのは日本だけなのである。経済の閉塞感を打破する政府のメッセージが必要だ。


1、社説:デフレ再燃―たじろがず新成長戦略を
                  2009年11月21日   朝日新聞
 政府が「デフレ宣言」を出した。月例経済報告の基調判断に「物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある」という文言を盛り込んだ。政府が物価下落をデフレーションと認定したのは3年5カ月ぶりだ。
 デフレは総需要の不足が原因で、物価が全般的に下がり続ける現象である。販売や生産、消費の不振を招く巨大な圧力となる。
 日本はバブル崩壊後から消費者物価が下がり、先進国としては戦後初のデフレに陥った。政府は01年3月にデフレ宣言を出し、06年6月までデフレ状態と認めていた。長期にわたり物価下落が経済を圧迫してきたのだ。
 その後、景気回復につれてデフレはおさまったが、政府は「逆戻りする可能性が残る」との判断から「デフレ脱却宣言」を見送り続けてきた。
 そして今回、再びデフレ状態に舞い戻ったと表明。世界同時不況が引き起こした経済収縮で、デフレが悪化していることを認めざるをえなくなったといえよう。
 消費者物価の連続下落が7カ月。国内総生産(GDP)統計の国内部門の物価指数も年初から3四半期連続で下がっている。経済協力開発機構(OECD)の経済見通しで、日本経済がデフレに陥っているとしているだけでなく、デフレが11年まで続くと予測していることをみても、政府の「宣言」は妥当だ。
 宣言がきっかけで、「物価はこれからも下がる」という「デフレ期待」が国民の間に広がることを警戒する声も金融界などにある。人々の財布のヒモが固くなって、消費不振がさらにひどくなるのでは、という心配だ。
 だが、いま必要なのは「宣言」の副作用を心配することではない。不況を長期化させかねないデフレをきちんと認識したうえで、その克服策を打ち立てることだ。
 菅直人副総理兼経済財政相は、きのうの記者会見で日銀にデフレ克服策を求めたが、政府も日銀と力を合わせて、政策を総動員する必要がある。
 バブル崩壊後のデフレを緩和するのに威力を発揮したのは、米国と中国の経済成長に引っ張られた輸出の増加だった。それに刺激されて設備投資が拡大し、企業業績は回復した。
 いまは、鳩山政権が掲げる「コンクリートから人へ」の大方針に沿った福祉経済化や雇用対策、地球温暖化対策としての「グリーンな経済」づくりを基礎に、民間の投資や消費を引き出すような成長戦略を組み立て、実行に移すことが期待される。
 来日したOECDのグリア事務総長は今週、日本の課題について、女性の社会進出や環境技術の発展で「新たな成長をめざす必要がある」と指摘した。このエールにこたえたい。
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2、社説:デフレ対策 不安心理絶つ姿勢示せ
                  2009年11月21日  毎日
 政府は11月の月例経済報告で、日本経済について「緩やかなデフレ状況にある」とモノが余って物価下落が続くデフレにあると認定した。月例報告に「デフレ」の表現を盛り込むのは2006年6月以来だ。一方、景気の現状については「持ち直してきているが、自律性に乏しい」と判断を据え置いた。
 デフレ認定といっても、あわてたり、身構えたりする必要はない。今は、景気の緩やかな回復傾向とデフレが共存しており、景気後退とデフレが連鎖する恐慌へ、すぐに突き進む恐れはない。
 デフレを招いている要因は複合的だ。経済のグローバル化によって、中国など新興国による低価格の圧力が国境を超えて時間差を置かずにかかり続けている。また、昨秋のリーマン・ショック以降、実物経済の動きは世界的に低調で、モノが余って価格下落を生む状態にある。ここまでは世界共通の現象である。
 日本ではさらに別の要素も見逃せない。ムダな公共事業の削減や流通の簡素化、さまざまな規制改革、地価の適正化、そして技術革新などが「高コスト構造」と言われてきた日本経済を変えつつある。現政権によるダム計画中止や事業仕分けによる予算見直しなどは、結果的にデフレ圧力を伴う。こうした社会の仕組みの望ましい変化がデフレをもたらしている面もあるのだ。
 とはいえ、価格引き下げ競争によって企業の収益が悪化すると、賃金が落ち込み、5%台にとどまっている失業率が悪化する心配がある。その結果、さらに消費が落ち込んで物価が下がれば、景気後退との連鎖に陥っていく。こんな状況は避けなければならない。
 デフレは持てる人と持たざる人との格差も広げる。十分な現金を持っている人や安定した職がある人は、物が安くなった恩恵を存分に受けるかもしれないが、借金を抱える人は返済額が実質的に膨らむし、雇用が安定しない人は賃下げや失業の恐れに直面する。
 政府がデフレを認定したのは、今後の2次補正予算や来年度予算の編成で、さまざまな対策を盛り込む用意をしているからだろう。だが、目先の対応に追われ、望ましい変化の手を緩めてはならない。公共事業で需要刺激などナンセンスだ。持たざる人への手厚い対応で、社会不安を増大させないことも注文しておきたい。
 伝統的な金融政策が手詰まりの状態にある日銀も含め、国民生活を脅かしかねない事態に真剣に対処しているという姿勢を打ち出すことが大事だ。そうしたメッセージが不安心理の増幅を絶ち、デフレの深刻化を食い止めるだろう。
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3、社説 閉塞デフレ脱却に政府・日銀は足並みを(11/21)
                  2009年11月21日  日経
 菅直人副総理兼経済財政担当相は20日、日本経済について継続的に物価が下がるデフレとの認識を示した。政府がデフレの判断を示すのは2006年以来であり、景気悪化と物価下落の悪循環に陥らぬよう警戒が必要だ。政府と日銀は足並みをそろえ、経済危機に臨むべきである。

 最近の消費者物価指数は、振れの大きな食料を除き前年比2%以上のマイナスになっている。日銀が先月末に示した経済と物価の展望でも、消費者物価は11年度まで3年連続で下落する見通しだ。

「失われた20年」の恐れ

 こんな状況を踏まえれば、政府がデフレの認識を示したのは当然だ。

 給与や賞与が減り、職が失われるかもしれない。そんな不安から、家計の財布のヒモは固くなっている。物価下落下では企業の売り上げは伸びず、生産や投資が萎縮する。

 物価変動をそのまま映す名目国内総生産(GDP)は、09年7〜9月期まで6四半期連続で減少した。年換算額の480兆円は1992年以来の低水準だ。日本経済はこのままでは失われた20年になりかねない。

 問題は政府の危機認識である。鳩山由紀夫政権は、まとまった経済政策が不在である。デフレの問題に正面から取り組んでいない。

 日銀も金融は十分に緩和的だとして、追加的な対応には消極的である。行動できないことを理路整然と説明するだけでは、デフレの解消はおぼつかない。新興国はいわずもがな、米欧に比べてさえ元気のない日本の株式は、先行きの展望が見えない閉塞(へいそく)感を物語る。

 今の日本経済はふらつくクルマのようなものだ。政府・日銀がぬかるみへの転落回避の努力を怠っているうちに実際に落っこちてしまえば、クルマを引っ張り出すのに要する労力は落ちる前の比ではない。

 物価が下落するなか景気が二番底に陥ると、企業や家計の中長期的な期待成長率や期待インフレ率を押し下げかねない。企業や家計にとって必要な策を直ちに実施すべきだ。

 まず、財政。経済効果の高い需要創出策を急ぐ必要がある。

 鳩山政権は麻生太郎政権が打ち出した09年度の補正予算を2兆9000億円執行停止する。ムダを省くのは良いとして、補正の執行停止で09年度の実質GDPが0.2%押し下げられると、菅副総理も認める。

 10年の前半には再びマイナス成長に陥るリスクがあることは、政府・日銀とも承知している。10年度予算と並行して09年度の第2次補正予算を組み、景気を下支えするという。ただすでに財政は悪化している。

 政府の債務の残高は今や名目GDPの1.8倍。財政規律が失われたとみれば長期金利が上昇するリスクがあるだけに、本予算の恒常的な経費を抑える配慮は要る。一方で、景気対策としての2次補正は即効性と柔軟性が欠かせない。公共投資についても下水道の整備など、いずれ必要となる生活基盤を充実させるなら排除すべきではあるまい。

 次に、金融政策。日銀は20日、景気判断を上方修正したが、経済の足取りが確かでないことは否定できないだろう。政策金利は低いとはいえ、景気悪化が深刻になるようなら一段の緩和も考慮すべきだろう。

 新しく導入される国際的な自己資本比率規制では邦銀の資本不足が指摘されている。銀行が増資に走り、企業は今後の貸し渋りへの懸念を募らせている。3月決算期末を控え、必要性が出てくれば企業金融支援を再検討する余地はある。

成長のメッセージこそ

 デフレは物価変動を考慮した実質金利を高止まりさせ、円相場を経済の実力以上に高くする傾向にある。財政面での景気てこ入れは、長期金利の上昇を通じた意図せぬ円高という副作用を招く恐れもある。

 政府・日銀が経済政策の運営で認識を共有できるなら、国債の買い入れ増額なども検討の余地があるだろう。経済財政諮問会議を廃止して以降、政府と日銀のトップが定例の話し合いの場を持っていない。そんな現状を一刻も早く改めるべきだ。

 こうした当面の策もさることながら、経済構造の根っこにある問題も見逃せない。基調としては10年ほど前から、物価が下落ないしほぼ横ばいの局面が続いている。背景には、中国など新興国の台頭で日本の賃金や価格がこれらの諸国にさや寄せしたり、多くの産業が需要の飽和に直面していることが挙げられる。

 それだけに、潜在的な需要の大きい医療、教育、保育などの分野の規制を一段と緩和することが大切だ。企業経営を後押しするためには、法人税負担の軽減も重要。貿易自由化交渉に弾みをつけることで、海外の需要を取り込むことも欠かせない。

 世界でデフレのワナから抜け出せないのは日本だけ。経済の閉塞感を打破する政府のメッセージが何より大切だ。

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4、「日銀はデフレと戦え」 OECD事務総長が会見
                 2009年11月21日  日経
 経済協力開発機構(OECD)のグリア事務総長は19日、東京都内で記者会見した。「日銀はデフレと戦うべきだ」と述べ、日本は物価の上昇が確実になるまで超低金利政策を維持すべきだとの認識を示した。一方、追加的な財政出動には否定的な見解を表明。鳩山由紀夫政権に対して「財政再建の中期目標を早急に打ち出すべきだ」と注文した。
 日本経済の現状については「金融危機で最も大きな打撃を受けたが、現在は持ち直している」と語った。ただ「デフレは設備投資の抑制につながり、経済成長の妨げになる」と述べ、物価の継続的な下落が日本経済の深刻なリスクになるとの見方を示した。日銀に対しては「今のタイミングで(金融緩和の)出口政策をとるべきではない」と語った。
 OECDは世界経済見通しの公表に合わせて、日本の経済政策に関する包括的な提言も発表した。子ども手当については再考を促し、むしろ保育所や就学前教育への支出を増やすべきだと訴えた。(00:26)

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石田ふたみ