『日々の映像』

2009年10月27日(火) 社説が物足りない:自民党幹部のコメントは貧弱だ


鳩山首相の所信表明の全文

1、社説:所信表明―理念は現実に刻んでこそ          朝日
2、社説:所信表明演説 「理念」だけでは物足りない      読売
3、社説:鳩山首相の所信表明…「友愛政治」実現の道筋を    毎日
4、社説:米国抜きで東アジア共同体は語れない(10/26)      日経
5、主張:所信表明演説 見えない政策の優先順位        産経

 鳩山首相の所信表明に対する全国紙の社説を読んで寒々とした思いになった。
初山首相が政治理念を語っているのである。この理念に関しての論説がほとんどない。日本のマスコミは「日本国家をこのような方向に持っていくべきだ」という志・理念がないと感じ寒々とした思いになった。

 特に愕然としたのはこの演説に関する自民党幹部の反応である。鳩山首相の政治理念に対しては、政治理念での反論をすべきである。ただ、なじる程度のコメントを発するようでは、国民はますます自民党を見放すことになるだろう。

鳩山内閣発足後、初の国政選挙である参院神奈川、静岡両補欠選挙が25日投開票された。いずれも民主党の新人候補が勝利した。補足を加えれば先の衆院選で神奈川では15小選挙区のうち勝ったのは3選挙区だけだった。静岡県内では八つの小選挙区で全敗しておりこの流れが止まっていないのである。

鳩山首相の所信表明に対する谷垣禎一自民党総裁のテレビでのコメントを聞き、これでは政党としての存在感が急速に埋没するのではないかとの印象を持った。自民党は鳩山首相の政治理念に対しての対立軸がなければ、来年夏の参院選も大敗北するのではないか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1、 社説:所信表明―理念は現実に刻んでこそ        朝日
 自分の言葉で、分かりやすく。鳩山由紀夫首相の初の所信表明演説から、そんな思いが伝わってきた。
 具体的な政策のあれこれを説明するよりも、自らの政権が目指す社会の姿を、政治の理念を国民に語りかけたいということだったのだろう。
 従業員の7割が障害者という工場の逸話を紹介した。働く側も受け入れる側も苦労は小さくない。それでも「人間は人に評価され、感謝され、必要とされてこそ幸せを感じる」という。
 だれもが居場所と出番を見つけることのできる社会。弱い立場、少数の人々の視点が尊重される政治。これが持論の友愛政治の原点なのだと訴えた。
 具体性がなく、ふわふわと耳に心地よい言葉が並ぶ選挙演説のようだと感じた人もいたかもしれない。だが、さまざまな格差や痛み、制度のほころびが深刻になる日本社会にあって、正面から「社会の作り直し」を呼びかけた率直さが、新鮮に響いたのは確かだ。
 首相は演説の中で、障害者を「チャレンジド」と呼んだ。試練に挑戦する使命を与えられた人という意味で、欧米で使われている。先住民族のアイヌをはじめ、新しく日本社会に加わったブラジル人にも触れ、多文化が共生する社会づくりを求めた。
 経済の厳しい状況やグローバル化の進展は、人々の心を閉ざす方向に働きかねない。そこにあえて、寛容さと開かれた社会を目指すとした時代認識に共感する。
 そんな首相に国民が次に望むのは、そうした社会をどのように実現するのか、「ハウ」を語ることだ。
 基本的な方向性は示されている。官僚依存から政治主導への転換、税金の無駄遣いの排除、「コンクリートから人へ」の予算配分の見直し、「地域主権」の確立……。
 首相は、12月末に向けて編成作業が進む来年度予算案の中身や、それを審議する年明けの通常国会で具体的な肉付けを語る心づもりのようだ。政権発足からまだ40日。しっかり準備してからという気持ちは分からなくはない。
 静岡、神奈川両県での参院補欠選挙で、ともに民主党候補が当選したことも、政権の滑り出しに対する首相の自信を深めたに違いない。
 ただ、政権を取り巻く現状は甘くはない。沖縄・普天間飛行場の移設問題をどう決着させるか。経営危機に陥った日本航空の救済はどうするか。切迫した政治課題が目白押しだ。かじ取り次第で、国民の視線が批判に転じかねないことを覚悟すべきだろう。
 郵政民営化の見直しにしても、あるいは首相自身の虚偽献金疑惑にしても、政権を率いる首相の明確な説明が待たれている。
 明日から始まる国会論戦は、理念や志だけでは乗り切れない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2、社説:所信表明演説 「理念」だけでは物足りない      読売
 鳩山政治の「理念」満載である。確かに理念は大切だ。しかし、理念だけでは政治が動かないのも、また事実だろう。
 鳩山首相が、就任後初めて所信表明演説を行った。
 「いのちを守り国民生活を第一とした政治」「『居場所と出番』のある社会」――首相は自らの政治理念を滔々(とうとう)と披歴した。
 官僚依存を排して取り組む「戦後行政の大掃除」では、税金の使途を「コンクリートから人へ」と変える。友愛政治の原点は、「弱い立場の人々、少数の人々の視点の尊重」であると力説した。
 エピソードを交えた、平易な言葉による演説に、政権交代を実感した人もいたに違いない。
 経済・外交政策についても、首相は、理念の延長で語った。
 例えば、経済は「経済合理性に偏った評価軸」から「人間のための経済」への転換を提唱した。
 外交では、日本が東洋と西洋、先進国と途上国、多様な文明の間の「架け橋」としての役割を果たすと表明した。温室効果ガス削減の環境外交も、東アジア共同体構想も、こうした「哲学」のもとに進める考えのようである。
 しかし、理念は、法案や政策として具現化されねばならない。今国会で、鳩山内閣は、その用意がどこまであるのか。
 子ども手当やガソリン税の暫定税率廃止、高速道路無料化などの家計支援によって「人間のための経済」への転換を図ると言われても、首をかしげざるをえない。問題は財源をどう確保するかだ。
 郵政事業の抜本的な見直しも、「郵便局ネットワークを地域拠点に」と述べただけだ。見直しの方向を示すことはできただろう。
 首相は、「対等」な日米同盟について、「両国の同盟関係が世界の平和と安全に果たせる役割や具体的な行動指針を、日本の側からも積極的に提言し、協力していけるような関係」と定義した。
 ところが、懸案の米軍普天間飛行場の移設や、海上自衛隊によるインド洋での給油活動について、明確な方針を示さなかった。
 なぜ「ノー」なのかも語らず、対案も提示しない。これでは「対等」な関係などありえまい。
 経済不況・雇用不安の克服と、財政再建、核ミサイル開発を続ける北朝鮮への対応など、依然として日本政治の課題は多い。
 首相は、こうした厳しい現実の下、理念を実現するための骨太の国家戦略と、政策の優先順位を、国会審議の中で具体的に明らかにしてほしい。
(2009年10月27日01時09分 読売新聞)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3、社説:鳩山首相の所信表明…「友愛政治」実現の道筋を      毎日
 ◇公約の優先順位示せ
 政権交代の実はあるのか。それは一体何なのか。与野党が国民の前で堂々と論戦する場にしてほしい。
 鳩山政権発足後初の臨時国会が開かれ、鳩山由紀夫首相の所信表明が行われた。この国会は三つの意味で注目したい。
 第一に、政権交代後、首相の初の国会演説であることだ。国民に支持された民主党の政権公約を今後どう実現していくのか、最高責任者である首相が国会という公式の場で改めて整理してほしい。第二に、野党に転落した自民党がどういう政策論争を挑むのか。第三に、「脱官僚」を軸とした国会改革を、その試行錯誤も含めて見守りたい。
 ◇「平成維新」の気概良し
 首相の初の演説は、なかなか力がこもっていた。まずは、今回の政権交代の意義を明治維新と比べ、「無血の平成維新」「官僚依存から国民への大政奉還」「戦後行政の大掃除」などのキーワードを並べた。特に、持論である「友愛政治」については、「弱者の居場所と出番のある社会」「官だけではなく地域が担う新しい公共」をうたいあげた。
 若干言葉が踊っている感はあるにせよ、その気概や良し、である。ただ、要は、政治の実現力だ。その観点からいくつか注文をつけたい。
 政権公約の中心である資源の再配分については、現在年末に向けての予算編成が始まっている。95兆円に積み上がった概算要求をどう削っていくのか。公約の中で約束した「埋蔵金」などの財源をどう捻出(ねんしゅつ)するのか。わかりやすく情報を開示し、今後の指針を示してほしい。特に首相が重視する友愛政治実現のためには、それなりの財源の裏付けや経済戦略が必要だが、その道筋が示されていないことも指摘しておきたい。
 その過程で重要なのは、子ども手当の創設や高校の実質無償化、農家の戸別所得補償制度、高速道路の無料化など選挙の目玉公約について、その優先順位や実施工程について改めて整理を行い、公約通りいきそうもない問題が生じた時には率直に事情を説明し理解を求めることである。国民の代表で構成する国会ゆえに、政権の方針を国民的に確認する場としての機能を果たすだろう。
 外交・安保についても同様だ。演説では、「世界のかけ橋」「開かれた海洋国家」という言葉で国際社会における日本の位置を定義した。かけ橋としては、温室効果ガスの25%削減、核のない世界への不退転の決意を新たにし、海洋国家としては、アジア太平洋地域を友好と連帯の実りの海にしたい、と述べた。
 いずれも、理念としては同調できるが、その基盤となるべき「緊密かつ対等な日米同盟」の道筋が見えてこない。特に、普天間移設問題で表面化した関係閣僚の発言のずれは沖縄県民や関係者をいたずらに混乱させている。首相が「最後は私が決めます」と大見えを切るのであればこの国会で統一見解を出すべきだ。首相の過去の言動には、「常時駐留なき安保」「在日米軍基地の段階的な縮小」といった日米同盟関係の根本的な見直しを含むものもある。見直し議論の土俵をどこに置くかについても明らかにしてほしい。
 ◇献金問題の説明尽くせ
 いわゆる「故人献金」問題でもさらに突っ込んだ説明が必要だ。特に、虚偽記載が立件される場合は、秘書の不始末の責任を政治家がどう取るかについて、これまで野党時代に「責任の一体性」を追及してきたことも踏まえ、首相本人の説得力のある釈明が求められる。税制上の不備を指摘する声にもていねいに答弁してほしい。国民の信頼感なくしてはせっかくの大がかりの政策変更も絵に描いた餅となる。
 さて、野党に転じた自民党である。各委員会にベテラン議員を配して論戦を挑むが、ぜひとも、半世紀の政権運営のキャリアを持つ前政権政党としての風格を見せてもらいたい。野党としては、首相の献金問題や政権のスキャンダル追及は当然せざるを得ないだろうが、新しい旗を立て政策本位で与党を追い込んでほしい。野党にとっては、国会が数少ない自己実現の場である。その出来不出来が谷垣禎一執行部の今後の再生に影響すると見るべきだ。
 政権交代を受けて、国会の与野党攻防や論戦が、どう変化していくかも焦点となる。民主党からは政府・与党の一元化を徹底する立場から、官僚の国会答弁を禁止する法案の今国会提出や議員立法の自粛といった国会改革論が提起されている。
 しかし、あくまで国会での自由な論戦が担保されることが、大原則だ。官僚答弁も、内閣法制局長官らを含めての禁止が妥当かの議論がある。政治主導の実現とは、つまるところ国権の最高機関で、国の唯一の立法機関である国会の復権である。委員会審議活性化も含め新たなルール作りに与野党で取り組んでほしい。
【関連記事】
所信表明演説:1万2900字、52分…鳩山首相
臨時閣議:昼食にサンドイッチ 首相の気配り?
所信表明演説:菅氏に気遣い?…首相、異例の個人名
所信表明演説:首相「国政の変革」宣言…臨時国会召集
臨時国会:鳩山首相、所信表明 演説の要旨
毎日新聞 2009年10月27日 0時02分
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
社説1 米国抜きで東アジア共同体は語れない(10/26)      日経
                    
 タイ中部の保養地、フアヒンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)などとの一連の会議で「東アジア共同体」構想が主要議題となった。鳩山由紀夫首相が同構想への米国の関与の必要性を訴えたのは当然だ。日本が構想を推進していくためにも米国との連携は欠かせない。

 「日米同盟を外交の基軸に、開かれた共同体(実現)に向けて協力を進める」。鳩山首相は25日、第4回東アジア首脳会議(サミット)で、こう切り出した。自らが掲げる東アジア共同体構想への米国の関与を求めた発言といえる。

 同構想を「長期的な目標」とすることで合意した10日の北京での日中韓首脳会談の際、首相は「日本は今まで、ややもすると米国に依存し過ぎていた」などと述べ、米側から疑念を招いた。東アジアの安全保障の要である日米同盟が揺らいでは、日本のアジア外交も進展しない。

 首相は今回の会議で軌道修正した形で、共同体の参加国について「米国を排除するつもりはない」とも言明した。だが、岡田克也外相は米国は正式な加盟国と想定していない旨の発言をしている。

 共同体の枠組みを巡っては中国が10カ国が加盟するASEANと日中韓の13カ国に固執。日本はインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国を主張してきた。

 今回の東アジアサミットではラッド豪首相が「アジア太平洋共同体」構想を提案したが、枠組みの議論は持ち越された。当面は広域の自由貿易協定(FTA)として13カ国案と16カ国案を並行して研究、検討していくことで合意するにとどまった。

 共同体は長期的課題だ。サミット議長声明に盛り込まれたように北朝鮮核問題、通商、金融、環境など幅広い分野で地域協力を進める必要があり、日本の主導力が問われる。

 アジアの盟主をうかがう中国は日本より先にASEANとのFTAを結んだ。共産党政権の中国の主導で共同体づくりが進むとすれば、民主主義、自由、人権、市場などを重んじた仕組みができるのか。

 米国のオバマ政権は東南アジア重視の姿勢に転じている。7月にASEANの基本条約である東南アジア友好協力条約(TAC)に署名、11月にはシンガポールでオバマ大統領も出席する初の米国とASEANの首脳会議が開かれる予定だ。

 共同体の理念は東アジアの民主化や政策の透明性を加速するものであるべきだ。共同体構想も米国抜きでは語れない。多くのアジア諸国もそれを望んでいるのではないか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
主張】所信表明演説 見えない政策の優先順位    産経
2009.10.27 03:00
このニュースのトピックス:主張
 鳩山由紀夫首相の初の所信表明演説は「いのちを守る」や「社会の絆(きずな)を再生」などのキャッチフレーズを多用した異色の内容だ。
 遊説中に聞いた、息子を自殺で失ったおばあさんの訴えなどを長めに取り入れ、具体的事例で訴える手法をとった。役所言葉を排し、国民への分かりやすさを強調したかったのだろう。首相としては最初の国会演説を脱官僚依存にふさわしい内容となるよう、工夫を凝らしたといえる。
 「戦後行政の大掃除」や人と人が支えあう「新しい公共」の概念なども盛り込まれ、その方向性は妥当だろう。しかし、内政・外交とも政策を具体的にどう実現していくかが明確に示されておらず、説得力に欠ける。
 これでは首相が指摘した「本当に変革なんてできるのか」という国民の不安は消えない。国会論戦を通じ、政権を託した国民に明確な政策判断を示す責務がある。
 外交面では「緊密かつ対等な日米同盟」を改めて掲げ、同盟が世界の平和と安全に果たす役割を「日本の側からも積極的に提言」すると述べた。
 だが、日本がより大きな責任を担うことを前提に米側に提言する用意があるのだろうか。海外に派遣する自衛隊がより能力を発揮するには、憲法改正や集団的自衛権の行使容認に踏み込むことが求められる。そうした言及がないのは現実性に乏しい。
 米軍普天間飛行場の移設問題は現状を説明したにすぎない。世界の「架け橋」として国際社会から信頼される国を目指すと唱えているが、基軸となる日米同盟の揺らぎを回避するのが先決だ。
 内政課題もマニフェストの取り組み状況をなぞった程度といえる。郵政民営化の見直しという政権交代に伴う重大な政策転換について、もっと説明すべきだ。
 鳩山政権に求められているのは、羽田の24時間国際拠点空港化などの国家的プロジェクトをいかに現実化するかだ。政策の優先順位をどう付けていくか。首相が問われているのはその指導力だ。
 政治資金をめぐる虚偽記載問題を自ら取り上げて陳謝し、「捜査に全面的に協力する」と語った。だが、新たな説明責任を果たす考えを示さなかったのは残念だ。政治資金規正法違反にどう向き合うか、政治への信頼回復を決定づけることを忘れてはなるまい。




 < 過去  INDEX  未来 >


石田ふたみ