『日々の映像』

2009年09月10日(木) 温室効果ガス:鳩山代表「90年比25%減」明言 


報道

1、温室効果ガス:鳩山代表「90年比25%減」明言
                   2009年9月7日  毎日
2、社説 「25%削減」―実現へ説得力ある道筋を
                    2009年9月8日 朝日
3、社説:25%削減目標 米中動かす戦略も大事
                    2009年9月9日  毎日
4、社説 低炭素社会への積極策で経済成長を(9/9)
                     2009年9月9日 日経

 鳩山由紀夫民主党代表が、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出量について2020年まで1990年比25%削減を目指すことを明言した。9月22日に開かれる国連気候変動サミットで世界に公表する意向を明らかにした。戦後の日本の政治に中で世界に始めて発する強烈なメッセージだ。

 民主党は以前から、CO2排出に課税する温暖化対策(環境)税や排出量取引の導入などで90年比25%削減の中期目標を掲げ、衆院選の政権公約にも盛り込んでいた。衆院選勝利後の表明はごく自然の流れといえる。この目標は、6月に麻生太郎首相が示した05年比15%(90年比8%)削減より、はるかに野心的である。

 麻生首相は日本の中期目標作成に当たり、産業界や専門家の議論を聞いて決定した。対照的に鳩山氏はトップダウンで示した。もともと産業構造の転換を迫るCO2削減目標では、産業界主流の意見を聞いている限り、大幅削減は期待できないことはいうまでもない。この点鳩山由紀夫民主党代表の削減目標は高く評価されると思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1、温室効果ガス:鳩山代表「90年比25%減」明言
                   
2009年9月7日  毎日

 民主党の鳩山由紀夫代表は7日、日本の20年までの温室効果ガス排出削減の中期目標「90年比25%減」を実現する考えを明言した。政府目標の「05年比15%減(90年比8%減)」の事実上の政策転換に向けて大きく動き出した形だ。具体的な政策手法は今後としているが、京都議定書に定めのない13年以降の枠組み構築を目指す国連や環境NGOの関係者からは「交渉の加速材料となる」と歓迎の声が上がった。一方、コスト負担を懸念して大幅削減に反対してきた産業界は厳しく受け止めつつ、鳩山代表が「主要国の参加による合意が前提」とも述べていることから民主党の動きに注目している。
 ◇国連、NGO「歓迎」
 鳩山代表は東京都内で開かれた環境問題のシンポジウムの講演で「炭素に依存しない社会の構築は、日本にとってむしろ大きなチャンス。経済や国民生活はむしろ良くなると信じている」と、積極的に温暖化対策に乗り出す決意を表明。「わが国のみが削減目標を掲げても、気候変動を止めることはできない。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、わが国の国際社会への約束の『前提』になる」と、公平で実効性のある枠組み作りを呼びかけた。
 直後に登壇したデブア国連気候変動枠組み条約事務局長は「民主党の目標は称賛すべきものだ」と高く評価。パチャウリ国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)議長も「これまで世界各国の首脳に会ったが、鳩山氏のメッセージは素晴らしい」と同調した。
 京都議定書後の温暖化対策の国際的枠組みについては、12月にコペンハーゲンで開かれる同条約第15回締約国会議(COP15)での合意を目指し、各国間交渉が行われている。しかし、過去の排出責任から先進国に大幅削減を求める途上国側と、経済成長著しい途上国にも排出抑制を求める先進国側との間で激しい対立が続いている。
 デブア氏は対立を打開するために、「すべての先進国は野心的な削減目標を掲げなければならない」と主張した。そのうえで、「野心的な目標こそ、日本が方向転換して困難に立ち向かうという姿勢を示すものだ」と述べ、COP15の合意に向け、交渉を加速させる材料となるとの見方を示した。
 鳩山代表が明言した「25%減」は国内達成分に加え、日本の技術や資金による海外での削減分などの「排出権」も含むとみられる。
 環境省幹部は「次期枠組みでは国内の削減にも途上国支援にも今よりも膨大な費用負担が予想される。どのようにして財源を確保し、どれくらい支出するかという政治的決断が必要だ」と話す。
 環境NGO「気候ネットワーク」の浅岡美恵代表は「(25%減は)現政権よりも前向きに取り組む意図を示したもので、大いに歓迎したい」としたうえで、環境税導入など大胆な温暖化対策の推進へかじを切るよう求めた。【足立旬子、大場あい】
 ◇国際的公平性確保を/対立構図回避の思惑も
 民主党の鳩山代表が「25%減」を明言したことを受け、経済産業省の望月晴文次官は7日の会見で「日本経済にとっては非常に厳しい道を選ぶことになる。国民全員がこれに耐えていくんだという覚悟が必要だ」と述べた。
 ただし、鳩山代表が削減目標を約束する条件として米国や中国、インドなど「主要排出国の参加」を挙げたことに、望月次官は「ここが大変重要な点だ」と強調。日本だけが他国に比べ重い削減義務を負うことのないようクギを刺した。
 主要排出国の参加を条件にと明言したことには、産業界も「政治的な妥協を図る準備だ」(業界団体幹部)と重視する見方が強い。
 産業界は日本だけが高い削減目標を設定することで国際競争力の低下につながるとの警戒感を消したわけでない。しかし、日本経団連が8月開いた民主党のマニフェスト(政権公約)説明会でも岡田克也幹事長が「主要排出国の参加が前提」と発言しており、米国が参加しなかった京都議定書を踏まえ「民主党は(政治的な)逃げ道はちゃんと考えている」(市野紀生・日本ガス協会長)との見方が出ていた。
 経団連幹部も「鳩山代表のいう『前提』が重要」と指摘。今月中旬にまとめる鳩山政権への提言書の中で、主要排出国の参加や国際的な公平性を十分に検討するよう求めていく考えだ。
 民主党がマニフェストに削減目標を明記して308議席を獲得したこともあり、「正面から反対とは言いづらい」(石油業界)、「いたずらに対立構図を作りたくはない」(電力業界)など、声を潜めざるを得ない面もある。【三沢耕平、赤間清広】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2、社説 「25%削減」―実現へ説得力ある道筋を
                      
  2009年9月8日 朝日
 
「日本の政権交代が気候変動対策に変化をもたらし、人類社会の未来に貢献したといわれるようにしたい」
 民主党の鳩山代表が、朝日新聞社主催の地球環境フォーラムで地球温暖化防止への新政権の強い決意を述べた。
 今回の政権交代は、京都議定書に続く新しい国際的な枠組みづくりの時期と重なった。国際交渉は、12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)に向け大詰めを迎えつつある。
 最大の難問は、先進国と新興国・途上国との間に横たわる溝である。先進国は「率先して大胆な行動を」とさまざまな要求を突きつけられている。
 これに応えて、鳩山氏が温室効果ガス削減について「2020年に90年比25%減」を目指すという日本の目標を明言した意義は大きい。3カ月前、麻生首相が表明した「05年比15%減」から大きく踏み出すものだ。
 取り組みが遅れている途上国への資金や技術の支援でも、政権発足後に「鳩山イニシアチブ」を打ち出す姿勢を表明した。温暖化の被害を軽減するための支援も盛り込む方針だという。新興国・途上国に、国際的な合意づくりのために歩み寄るよう求める重要な手がかりになるはずだ。
 温暖化対策で、日本は変わる。そんな確かな予感を世界に抱かせる次期首相のメッセージである。
 こうした方針は欧州諸国と足並みをそろえるものであり、先進国が結束して高い目標に取り組むことも促すだろう。慎重論が根強い議会を説得しているオバマ米大統領にとっても、追い風になるのではないか。
 先進国が積極的になれば、中国も動かざるを得なくなる。中国と米国は世界の温室効果ガスの約4割を排出する。この2カ国を巻き込んで初めて、次の枠組みは実効性あるものになる。
 しかし重ねて強調したいのは、日本にとって「90年比25%減」という目標はそう簡単に実現できるものではないことだ。産業界からの反発は必至だ。様々な負担増が予想されるなか、国民からの異論もあろう。だからこそ鳩山氏は「政治の意思としてあらゆる政策を総動員する」と力説したのだろう。
 どのようにこの目標を達成していくのか、新政権は国内排出量取引市場や地球温暖化対策税などの具体策を早急に詰める必要がある。そのうえでロードマップをつくり、ひとつずつ着実に実行していくべきだ。
 同時に、ガソリン税などの暫定税率廃止や高速道路の無料化など、排出削減に逆行しかねない政策の賢い見直しも忘れないでもらいたい。
 今月下旬には国連で気候変動をめぐる首脳会合が予定されている。鳩山氏は野心的な提案をもっていく意向のようだが、肝心なのは国内世論を説得し、合意をつくり出す指導力である。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3、社説:25%削減目標 米中動かす戦略も大事
                      2009年9月9日  毎日
 
「2020年までに90年比25%削減をめざす」。民主党の鳩山由紀夫代表が環境問題のシンポジウムで日本の温室効果ガス削減の中期目標について明言した。
 この数値は、民主党がマニフェストに掲げた政権公約である。今年6月に麻生太郎首相が表明した政府目標より野心的で、政権交代を象徴する政策転換のひとつだ。
 年末には京都議定書以降(ポスト京都)の枠組みを決める国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を控えている。22日にはニューヨークで国連気候変動ハイレベル会合が開かれ、鳩山代表や米国のオバマ大統領も出席する。日本が温暖化問題に積極的に取り組む意思を示し、国際交渉にはずみをつけることは大切だ。
 一方で、日本だけが高い目標を設定しても地球規模の温暖化防止が実現できないことも確かだ。講演で鳩山代表は、日本の国際社会への約束の前提として、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を挙げた。
 世界最大の排出国である米国と中国はもちろん、インド、ブラジルなどの新興国も削減しない限り、気候の安定化は望めない。日本の積極的姿勢を全員参加の呼び水にできるよう、民主党は策を練ってほしい。
 鳩山代表が「25%減」を明言したことに対し、産業界の一部は生産拠点を海外に移さざるをえないといった懸念を表明している。失業率が増えるなど国民の負担が非常に大きくなると指摘する声もある。
 実際には、政府が掲げてきた「2005年比15%減(90年比8%減)」と「90年比25%減」とは単純比較できない。政府の目標は国内での削減分(いわゆる「真水」)を示したものだが、民主党の数値には海外での削減分や排出権のやりとりなどが含まれているとみられるからだ。
 それでも、「25%減」は容易に達成できる目標ではなく、国民の覚悟が必要だ。民主党は、達成手段として、省エネ、再生可能エネルギーの推進、炭素回収・貯留技術の開発などに加え、これまで政府が避けてきた国内排出量取引や環境税の導入も挙げている。
 こうした政策をどう進めていくかはこれからだが、具体策や国民の負担についてよく説明し、国民が納得して協力できるようにしてほしい。
 これまでの政府の対応には、日本の未来社会をどういうものにするのかのビジョンが欠けていた。民主党は低炭素社会のビジョンを示すことが肝心だ。それを国民が共有することによって、「25%減」のコストを、未来への投資と受け止めることができるのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

4、社説 低炭素社会への積極策で経済成長を(9/9)
                         2009年9月9日 日経
 民主党の鳩山由紀夫代表は、新政権の掲げる温暖化対策として、二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出を、2020年までに1990年比25%削減する中期目標の設定に、強い意欲を表明した。

 マニフェスト(政権公約)に明記されている方針を再確認したものだが、内外の反響は予想以上に大きい。90年比8%減という麻生政権の掲げた中期目標に比べて、かなり踏み込んだ数字だけに、先進国に野心的な削減目標を求めている国際社会の反応は、ほぼ歓迎一色である。

■25%削減に世界が注目
 92年に国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が採択されて以来続いている温暖化の国際交渉で、日本の政治家の言動に、これだけ注目が集まったのは初めてだろう。

 海外からの賛辞の一方で、国内では産業界の一部がこの数字に強い懸念を表明している。省エネが進んだ日本では、排出削減の過大な目標は、産業の活力をそぎ、暮らしを圧迫するという主張である。

 この内外のギャップを埋めなければ、新政権の環境政策・環境外交は成功しない。90年比25%減というのは、科学が先進国に要請する削減幅の下限である。

 科学者らで構成する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今世紀末に産業革命以来の地球の平均気温の上昇を2度以内に抑えるには、先進国全体で20年までに90年比で25〜40%の削減が必要と報告している。京都議定書の約束期間の先、13年以降の削減枠組みは、これを下敷きに交渉すると、07年の締約国会議で決まった。

 交渉では中国もインドも、経済成長の恩恵を享受してきた先進国は最大幅の40%減を掲げるべきだと主張、自らは拘束力のある義務は負わないという姿勢を取っている。

 世界最大の排出国である中国と同4位のインドが、削減枠組みに加わらなければ、温暖化防止の実効は上がらない。ただし、南北の利害対立が明らかなこの条約、UNFCCCが190以上の国と地域の加盟で成立したのは、「共通だが差異ある責任」という原則の導入によるところが大きいことも事実だ。

 産業革命以来、化石燃料を大量消費して、温暖化ガスを出し続けてきた先進国と、途上国では責任に差異がある。しかし、将来の地球の危機には共通の責任を負っている。京都議定書はまず差異ある責任を先進国が果たすもの。ポスト京都の枠組みでは当然、共通の責任も厳しく問われる。中印もそれは感じているが、先進国の消極姿勢を盾に、成長を阻害する削減努力を拒む姿勢を崩していない。

 日本政府が25%減を目標として掲げるならば、そうした中印の姿勢に強く変更を迫る有力な根拠となる。鳩山代表が何度も条件を付けたように、米中印を含めて主要排出国がすべて参加する枠組みが、25%削減の大前提である。数字の独り歩きは厳に戒めなければならない。

 国内の産業界の強い反発には、低炭素社会に向けた大胆な政策提示が欠かせない。産業によっては排出削減が大きな負荷となるのは事実である。経営や技術体系の大胆な転換を含めた構造改革が自律的に進む、目配りの利いた政策が必要だろう。

 たとえば、日本のCO2排出の4割を電力と鉄鋼で占める。基本的にCO2排出の少ない原発の安全・安定的な運転と、廃棄物の処分も含めた持続可能な運用を、政治の意志として推進する政策が必要だろう。炭素を還元剤に使わない水素による直接還元製鉄など、画期的な技術革新へのてこ入れも欠かせない。

■排出量取引を急げ
 排出削減をひたすら企業への負荷、家計への負担とする途上国型の発想とは、そろそろ決別すべきではないか。世界の排出削減枠組みが踏み込んだものであるほど、日本の省エネ製品や省エネ技術が、世界市場に出て行く好機だと見ている経済人は少なくない。

 世界が太陽電池の利用拡大に動いていた05年、住宅の太陽光発電に対する補助を打ち切るという方向違いの政策を進め、太陽光発電世界一の座を自ら明け渡した苦い経験が日本にはある。

 技術革新と同じように、社会システムの革新もないと、負荷の少ない低炭素社会は実現しない。たとえば、キャップ・アンド・トレード型の排出量取引を、日本はまだ導入していない。欧州の制度をそっくりまねる必要はないが、このまま国際的な炭素市場のルール作りに参加できないと、国益にかかわる。

 12年前に京都議定書ができてすぐ、英国政府と英国産業界は、気候変動税や排出量取引を巡って、密な協議を始め、現在の制度の原型をつくり上げた。日本の低炭素社会も、政治と行政と産業の真摯(しんし)な本音の対話にかかっている。

 < 過去  INDEX  未来 >


石田ふたみ