『日々の映像』

2008年05月01日(木)  「食料争奪戦」とり残される1日100円以下の貧困層

「食料争奪戦」とり残される1日100円以下の貧困層

 治安が悪くなる最大の原因は食糧不足である。小麦やトウモロコシといった穀物の値段が世界的に急騰し、買えない大衆が出てくるから深刻である。世界各地で10億人が1日1ドル(約105円)以下で生活しているという。食品価格の急騰はこうした貧困層を直撃している。

穀物価格の急騰を受け、パンやコメなど主食を買えなくなった市民らの抗議デモや暴動が世界各地に広がっている。食糧はあるのに買えない人々の増加について国連は「新たな飢餓の顔」(潘基文事務総長)が出現しつつあると指摘。事態を放置すれば、世界の安全保障にも影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らす。

 中南米カリブ海地域の最貧国ハイチでは4月初旬、食料品の高騰に腹を立てた市民らによる暴動が南部で発生。首都ポルトープランスにも飛び火し、暴動は10日間以上も続いた。国連ハイチ安定化派遣団の警察官を含む7人が死亡し、上院は12日、事態を収拾できなかったとして首相を解任する事態になっている。

 問題の本質を理解する参考として大前研一さんのリポートの一部を引用します。
「例えば中級程度のタイ米の価格は今年の初めに1トンあたり400USドルだった数値が、795 USドルまで上昇してきています。つまり、4%の不足分に対して、価格は約90%程度跳ね上がっているわけです。この事態を引き起こしているのは、食料が不足するのではないかという「心理的な不安」です。原油価格が上昇し、食物がバイオエタノールとして利用され、食糧が不足すると連想され、食物価格が上昇しています。」

 
食糧高騰の混乱、世界に拡大=1日100円以下の貧困層直撃
                      2008/04/26産経新聞
始まった「食糧争奪戦」 穀物価格急騰 途上国ではデモ頻発
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200804260036a.nwc
コメ不足のフィリピン、損失1000億円強
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200804260033a.nwc
食料高騰からパニックに
              大前研一


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食糧高騰の混乱、世界に拡大=1日100円以下の貧困層直撃
               2008/04/26産経新聞
小麦やトウモロコシといった穀物の値段が世界的に急騰し、それに伴いパンや乳製品、食用油といった食品の値上がりが激しくなっている。世界各地で10億人が1日1ドル(約100円)以下で生活しており、食品価格の急騰はまず各地でこうした貧困層を直撃している。
 
アフリカでは昨年11月、モーリタニア全土で暴動が発生。今年に入ってからもモザンビークやカメルーン、コートジボワール、セネガルなど各国で同様の暴動が起きており、瞬く間に大陸の東西南北に拡散した。
 やはり大規模な暴動が起きた中米ハイチでは今月、国連平和維持活動(PKO)のナイジェリア人警官が食糧を狙った暴徒に襲われ、車から引きずり出されて虐殺された。アレクシス首相が解任に追い込まれる事態に発展した。いずれ追い詰められた人々がボートピープルとなって大挙襲来すると、米国は警戒を強めている。
 混乱の拡大を受け、7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)でも食糧価格急騰問題が緊急に話し合われることになった。国連はこれに先立つ6月に各国首脳を集めた「食糧サミット」を開催できないか動きだした。潘基文事務総長は25日、ウィーンで記者会見し、「まさに地球規模の危機であり、早急な行動が必要だ」と各国に迅速な対応と協力を求めた。

始まった「食糧争奪戦」 穀物価格急騰 途上国ではデモ頻発
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200804260036a.nwc

コメ不足のフィリピン、損失1000億円強
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200804260033a.nwc

 ブルームバーグは25日、コメの緊急輸入を続けているフィリピンの食糧庁が431億ペソ(1000億円強)の損失を計上し、同国が今年度目標としていた単年度での財政収支均衡達成が厳しくなったと報じた。

 報道によると、フィリピンは今年、天候不順で主食のコメが不足し、農務省によると消費量の42%に当たる270万トンを輸入でまかなう計画だ。しかし、輸入価格が急激に上昇している一方、国内向けには輸入価格を大幅に下回る価格で供給しているため逆ざやが拡大。食糧庁の損失は前年度の26億ペソの16倍に達した。

 同国は財政健全化に向け今年度の歳出と歳入を均衡させる目標を立てているが、食糧庁の債務が財政負担となれば目標の達成は難しくなるとみられている。

食料高騰からパニックに
                     大前研一

カリブ海の島国ハイチ共和国の首都ポルトープランスで、
食糧価格の急騰が引き金で商店略奪などの騒ぎが
 1週間以上続き、国会は12日、事態を収拾できなかった

 としてジャック=エドゥアール・アレクシ首相を解任しました。
小麦やコメの国際価格の上昇が、南北アメリカの最貧国
と言われる同国を直撃した形になりました。
 ハイチという国は、元来、世界で最も貧しい国の1つです。
最近は、米国への亡命者が母国へ戻り、経済も上昇へと
向かってきたと思っていましたが、

 どうやら状況はそれほど良くないようです。
今回、私が気にしているのは、ハイチにおける食料高騰への
暴動だけでなく、この2〜3週間のうちに、ハイチ以外の
 世界の国々でも、似たような騒ぎが発生していることです。

  具体的には、特にアジアの国に集中しています。
 例えば、タイ、ベトナム、インド、フィリピン、パキスタン、
 中国といった国です。

 タイではコメの価格が50%近く上昇し、輸出を制限する
 可能性を示唆しています。ベトナム、インドなどでも
 同様の動きが見られ、
 中国に至っては、香港経由での食料の密輸を防ぐため、
 香港への中継ぎ輸出の禁止を発表しています。

 また、タイでは一部農村においてコメ泥棒が発生し、
 フィリピンではコメの輸送車が襲われるという事件も発生しています。
「食料価格高騰による各国の混乱状況」チャートを見る
→ 
http://vil.forcast.jp/c/aizEaa6MvRjJ3uab

 こういった事態の原因の一つに、原油高が挙げられます。
 原油価格高騰が石油からバイオエタノールへという発想を促し、
 食料としての農作物の供給が減るという連想が生まれます。

 結果として、農作物の価格も勝手に高騰していくという図式です。

 ただ、冷静に判断すれば、食料の価格が上がるからといって、
 食料の供給が不足するということには直接的にはつながりません。

 それなのに、アジア各地ではパニック状態に陥ってしまい、
 コメ泥棒、コメ騒動が発生しているというのは、
 恐ろしい事態だと思います。

●価格高騰から食糧不足へと連想するのは、錯覚に過ぎない

 コメ以外の食料品の価格も高騰しています。
 日本でも10%〜20%程度の値上げが予想されている卵は、
 アメリカでは24%の高騰率になっています。

 その他の食品を見てみると、ひき肉8%(チリ)、
 コメ40%(シエラレオネ共和国)、パスタ14%(イタリア)、
 乳製品12%(フィリピン)、パン10%(オーストラリア)など、
 世界的に食料品価格の高騰は顕著です。

 こうしてみると、他の食料品に比べて、コメの高騰率が高い
 のがわかります。しかし、ここで見逃してはならないのは、
 実際のコメの不足量と価格上昇の釣り合いが取れていない
 ということです。

 現在、コメは全世界で約4億トン収穫されています。
 そのうち、91%がアジアでの収穫になっています。

 現在のところ、取り立てて今年の作柄が悪いわけでもなく、
 世界のコメの貿易量は恐らく4%程度の減少と予想されています。

 それに対して、例えば中級程度のタイ米の価格は今年の初めに
 1トンあたり400USドルだった数値が、795 USドルまで上昇して
 きています。

 つまり、4%の不足分に対して、価格は約90%程度
 跳ね上がっているわけです。

 この事態を引き起こしているのは、食料が不足するのでは
 ないかという「心理的な不安」です。原油価格が上昇し、
 食物がバイオエタノールとして利用され、食糧が不足すると
 連想され、食物価格が上昇しています。

 しかし、先ほども述べたように、値段が上がる
 からといって直接的にすぐに「不足する」と考えるのは
 錯覚です。

 このような錯覚が生まれてしまうと、心理的な不安が
 強まっているパニック状態ですから、非常に危険だと
 私は思います。

 コメの買占めなどにより誰かがトリガーをひくと、
 いつどこでコメ騒動が起こってもおかしくないという状況が、
 アジアの各地で起こっています。

 実際、香港のスーパーマーケットでは、食料品の棚からコメが
 なくなっているそうです。コメの価格上昇を受けて、これから
 コメを入手できなくなるのではないかという不安から、
 備蓄のためにコメを買い占める人が出てきているというのです。

 ハイチのような貧しい国の場合には、コメの値段が上がれば、
 コメを買うことができなくなり、暴動に発展するというのは
 理解できます。

 しかし、多少コメの値段が上がっても何とか切り盛りできる人
 たちまで、不安心理に煽られて、コメの買占めを始めてしまう
 というのは、私には理解できません。


 盲目的に不安感情に任せて判断すると、このような事態を
 招いてしまいます。マスコミから流れてくる情報や他人が
 言うことを鵜飲みにせず、

 事実を自分自身でしっかりと見極めて判断するということが
 できるようになってもらいたいと強く感じます。

 同時に、パニック状態に陥っているアジアの各国で、
 おかしな暴動などが起こらないように、一刻も早く冷静さを
 取り戻してもらいたいと願っています。
                   

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石田ふたみ