『日々の映像』

2008年03月22日(土)  米国のイラク開戦から5年、大義はどこにもなかった

 2003年3月20日米英両国軍がイラクの首都バグダッドに激しい空爆とミサイル攻撃を加えてイラク戦争が始まった。フセイン政権はわずか20日後に崩壊した。米国にとっての泥沼はここから始まった。米国がイラクを支配したと言っても所詮は点(都市)と線(道路)でしかない。それは、イラク政権崩壊後の米軍兵士の死者4000人が証明している。

 ブッシュ大統領は「イラクは大量破壊兵器を保有している」「フセイン政権は国際テロ組織アルカイダと連携している」と言ってイラク戦争に踏み切ったのである。この情報のいずれもが、ほかならぬ米国の公式報告で覆されたのだ。すなわち、イラク攻撃の大義などなかったのだ。そして、米国を泥沼に落とし入れたブッシュ大統領ら指導層に、その自覚がないのだから深刻だ。政権が変わることを期待するしかない。

イラク開戦5年 米国の過ちに何を学ぶ
     2008年3月20日日報社説
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イラク開戦5年 米国の過ちに何を学ぶ
     2008年3月20日日報社説
 
二〇〇三年三月二十日、米英両国軍がイラクの首都バグダッドに激しい空爆とミサイル攻撃を加えてイラク戦争が始まった。フセイン政権はわずか二十日後に崩壊した。

 五月一日、ブッシュ米大統領は「大規模な戦闘は終結した」と述べ、事実上の勝利宣言を行った。しかし、イラクでの泥沼の戦闘はここから本格化したといっていい。

 バグダッドでは今月に入ってからも死者数十人を出す大規模な爆弾テロが相次いでいる。世界保健機関(WHO)が今月発表した資料によれば、開戦からの三年間でテロや宗派抗争、米軍の攻撃などに巻き込まれて亡くなったイラク人は十五万人を超える。

☆大義はどこにもない

 〇七年以降も年間二万人前後が死亡していると推定され、実際どれほどの人が犠牲になったのかは不明である。犠牲者の増加は、米国に対する憎しみとなって跳ね返る。一方で米軍兵士の死者は四千人に迫る。

 イスラム教シーア派とスンニ派の対立抗争は収まらず、北部のクルド人支配地域をめぐってはトルコが軍事介入する事態となっている。これが開戦から五年を迎えたイラクの実相だ。

 「イラクは大量破壊兵器を保有している」「フセイン政権は国際テロ組織アルカイダと連携している」。ブッシュ大統領がイラク戦争に踏み切った理由である。そのいずれもが、ほかならぬ米国の公式報告で覆された。イラク攻撃の大義などなかったのだ。

 ブッシュ大統領やチェイニー副大統領は開戦五年に当たって「フセイン政権を排除したのは正しかった」「イラクでの困難な試みは成功した」とイラク攻撃の正当性と成果を強調する。

 イラク戦争で米国を支持、支援しブッシュ大統領を擁護した世界主要国の指導者は、ほとんどが一線を退いた。各国のイラク派遣軍も縮小の一途だ。明らかに米国は孤立を深めている。

☆複雑化する対立構図

 来年一月にはブッシュ大統領は退陣する。自らが始めたイラク戦争に決着を付けられないまま去ることは確実である。これだけでも十分に不名誉だ。大統領がいまなすべきは、「間違った戦争だった」と認めることだ。

 その上でイラクからの段階的撤退に道筋を付けなければならない。米軍なしでイラクの治安を維持するのは不可能に近い。イラク軍は弱体だし警察力も整備途上である

 宗派対立はより複雑になっており、政府の抑えが利かない。スンニ、シーア両派では内部の権力闘争が始まっている。ここにイランやアラブ諸国の思惑が絡まる。混迷する中東情勢を一層悪化させる要因が潜在しているのだ。

 米国はイラク戦争で高まった中東の反米感情に気付かねばならない。タカ派のチェイニー副大統領らは、核問題を抱えるイランへの武力攻撃の選択肢を捨てていないとされる。あくまでイラク戦争を正当化し、教訓を学ぼうとしない姿勢は理解し難い。

 大義を欠いた戦争を可能にしたのは、9・11米中枢同時テロの衝撃波である。テロ攻撃の直後、ブッシュ大統領は「これは戦争だ」と規定した。先制攻撃論を振りかざし、テロ組織の根絶やし作戦に踏みだした。

 この対テロ戦争論こそが、逆に世界中にテロ分子をばらまいた根源とはいえないか。〇一年にタリバン政権が崩壊したアフガニスタンでは、いまだにテロ組織が暗躍し、多国籍軍を悩ませている。テロとの戦いは戦争で終結することはないという証左だろう。

 世界がイラク戦争から学ぶべき点もまさにそこにある。武力による鎮圧では最終的な解決にはならない。民生を支援し、真に民主的な政府の樹立を手助けすることこそ、テロ組織の活動を封じ込める近道である。

☆力の政策から対話へ

 米国はかつてのイラクやイラン、北朝鮮を「テロ支援国家」と位置付ける。口実さえあれば直接的な攻撃も辞さない構えだ。唯一無二の軍事超大国である米国が、このような方針を掲げていては世界の安定は望めない。

 日本政府はイラク戦争の大義を認め、自衛隊を派遣して復興支援まで行った。福田康夫首相は大量破壊兵器が存在しなかったことやアルカイダとフセイン政権を結び付ける確たる証拠がなかったという米国の報告書をどのように受け止めているのか。

 イラク戦争以来、テロ組織は全世界に拡散してしまった。パンドラの箱を開けた米国の責任は重大だ。アフリカやアジア、中東など、貧困と圧政が存在する地域にテロ組織は寄生する。これらの国や地域をどう再生するか。イラクをそのモデルとしたい。

 イラク戦争は米国の威信を大きく傷つけた。ブッシュ大統領ら指導層にその自覚がないだけに問題は深刻だ。手前勝手な「正義」を他国に押しつける愚に気付くときだ。

 米国民の多くがイラク戦争を「間違いだった」としているのが救いである。ブッシュ大統領はいつまで裸の王様でいるつもりなのか。

イラク戦争は米国の威信を大きく傷つけた。ブッシュ大統領ら指導層にその自覚がないだけに問題は深刻だ。

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石田ふたみ