『日々の映像』

2008年03月21日(金)  日銀総裁空席:政治の深刻な機能不全


 5大新聞の社説が総て同じ問題を取り上げるのは珍しい。それだけ日銀総裁空席の問題は大きな問題なのだ。少なくとも日本銀行総裁のいすが空席になったことは、前代未聞の異常事態なのである。

何よりも、日銀総裁という重要な人事が決められないという事実が、「必要な政策決定ができない福田首相」と言う烙印を押された感じである。この問題で民主党を批判する論調もある。しかし、福田首相自身が日銀総裁の人事問題の早期決着を図らなくてはならない。総裁人事案を、改めて練りあげ、野党の理解を得る努力が必要なのではないか。

多くの視点は社説の通りであるが、日銀総裁も決められない政治の機能不全は深刻である。加えて今月末で期限が切れるガソリン税の暫定税率の成立のメドが立たず、4月以降、ガソリン価格や予算執行面で大混乱が予想される。いったい、この国の政治はどうなっていくのだろう。


混迷政治―福田さん、事態は深刻だ
                  2008年3月20日 朝日新聞社説
日銀総裁人事 一日も早く空席を埋めよ
            2008年3月20日・読売新聞社説
日銀総裁空席 政治の罪はきわめて重い
                2008年3月20日毎日新聞社説
総裁空席が示す政治の深刻な機能不全
       2008年3月20日経済新聞 社説
日銀総裁空席 日本がつぶれてしまう 
            2008年3月20日 産経新聞社説

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混迷政治―福田さん、事態は深刻だ
                  2008年3月20日 朝日新聞社説
 日本銀行総裁のいすが空席になった。世界経済が揺れるなか、前代未聞の異常事態である。
 直接の引き金をひいたのは民主党など野党の反対だ。参院の採決で、元大蔵事務次官の田波耕治氏の起用に同意しなかった。だが、そもそもの原因は福田首相の手際の悪さにある。
 民主党の対応には首をかしげるところがあったにせよ、同意を得られる人事案を出せなかった結果責任は首相が負わねばならない。2度も失敗した見通しの甘さが自らの首を絞めてしまった。
 振り返れば、福田氏が首相になってからのこの半年、政治の停滞ぶりは目を覆わんばかりだ。
 前半の3カ月余は、インド洋での給油活動の継続・再開の問題に費やされた。後半の3カ月は、ガソリン税の暫定税率と道路特定財源をいかに死守するかにきゅうきゅうとしている。政治はほとんど前に進んでいないのではないか。
 年度内に決着させるはずの道路財源の問題は、あと10日ほどしかないのに野党との修正協議はまだ始まってもいない。「国民生活は混乱させない」と言っていたのに、結局、時間切れで4月からガソリンの値段が下がる公算が大きい。衆院での与党の多数を使って、再び増税するつもりなのだろうか。
 「日銀総裁の空白は許されない」と言いながらしくじったのと、まったく同じていたらくになりそうだ。
 悪いのは参院で足を引っ張る野党の方だ、と首相は言いたいのだろう。だが、それは政権を引き継いだ時から覚悟すべき現実ではなかったか。
 参院で多数を失った以上、かつてのようにことが進まないのは当然だ。ある戦線では大胆に兵を引き、別の戦線では徹底的に持ちこたえる。そんなメリハリの利いた戦略判断が大事なのに、この政権にはそれがほとんど感じられない。
 迷走ぶりでは民主党も負けていない。
 小沢代表が大連立に色気を見せたかと思えば、今度はあらゆる課題で政府与党との「対決」を叫び出す。日銀人事をここまでこじれさせた一因には、武藤敏郎副総裁の昇格に同意するかで揺れた党内事情もあったのではないか。
 日本の政治はなぜ、こんなことになってしまったのか。この異様な行き詰まりを打開するには衆院の解散・総選挙しかないのではないか。そんな思いを抱く国民は多いに違いない。
 福田内閣が発足した日、私たちは「1月解散のすすめ」と題した社説を掲げた。首相はできるだけ早く国民に信を問い、政権の正統性を確立しなければ、自信をもって政治の運営には当たれまい。そんな趣旨だった。
 さもないと政治の身動きがつかなくなる恐れがある、と感じたからである。
 その危惧(きぐ)が現実のものとなってきた。日本への世界の失望も深まるだろう。事態の深刻さを首相は直視すべきだ。
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日銀総裁人事 一日も早く空席を埋めよ
(3月20日付・読売社説)
 
日本銀行の総裁の座が戦後初めて、空席になった。この深刻な事態を招いた政治の機能低下は、目に余るものがある。
 世界の金融市場は、危機的な状況にある。一日も早く、新しい日銀総裁を決定しなければならない。
 19日で任期切れを迎えた福井俊彦日銀総裁の後任に、田波耕治・国際協力銀行総裁を充てる政府の人事案が、参院で民主党などの反対多数で否決された。
 この結果、空席となった総裁の職務は、衆参両院の同意を得て副総裁に就く白川方明・京大教授が代行する。
 「代行でも、日本の金融政策遂行に問題はない」「総裁人事問題が長期化することは、やむをえない」といった見方がある。だが、これは、無責任というものだ。
 「代行」の立場で、金融システム危機などの緊急時に、迅速で大胆な政策対応ができるのか。代行が長引けば、市場は金融政策の先行きが不透明だと受け止め、日銀への信認を低下させる。
 先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)など、国際舞台における日本の発言力も損ねてしまいかねない。
 何よりも、日銀総裁という重要な人事が決められないという事実が、「必要な政策決定ができない日本」というイメージを増幅させてしまう。
 福田首相は、難航を続ける日銀総裁の人事問題の早期決着を図らなくてはならない。総裁人事案を、改めて練りあげ、野党の理解を得る必要がある。
 首相が提示した日銀総裁の同意人事案は、2度にわたって葬られた。「不同意」とした野党は、「総裁不在」がもたらすこうした“負の事態”に、責任を分担しなければなるまい。
 特に、これを主導した参院第1党の民主党の責任は重い。
 民主党は、現在の国際金融危機をどこまで認識し、これに対処するには、日銀総裁としてどんな人材が適任と考えているのか。
 首相の提示した人事案に対し、その候補者の資質や能力、志向する金融政策などについて十分吟味したのだろうか。
 「財務省出身者だから」などという、説得力に欠ける反対理由を挙げるだけでは、政治の責任は果たせまい。
 日銀総裁人事は、与野党が責任を持って、決定しなければならない人事だ。これ以上、政争の具とすることなく、「同意」へ知恵を働かせるべきだ。

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社説:日銀総裁空席 政治の罪はきわめて重い
                      毎日新聞 2008年3月20日
日銀総裁人事は再び白紙に戻り、空席が現実になってしまった。日銀は日本の経済運営の根幹に位置し、海外からも動向が注視されている。そのトップが不在となる。こうした状況をつくってしまった政治の罪は重大だ。
 元財務事務次官の武藤敏郎副総裁の総裁昇格に続き、田波耕治国際協力銀行総裁の起用も、参院で不同意となった。
 政府は、副総裁への起用で新たに同意を得た西村清彦日銀審議委員と、すでに同意を得ている白川方明(まさあき)京都大大学院教授を副総裁に任命し、総裁職は白川氏が代行する。
 米国の住宅バブル崩壊による金融市場の混乱は、深刻の度をますます深め、大手証券会社の破綻(はたん)回避のため米連邦準備制度理事会(FRB)が乗り出すという事態にまでなっている。
 金融システムが危機に陥る事態を回避するため、主要国の中央銀行は密接に連絡を取り合って、事態に臨んでいる。そうした緊迫した状況の中で、日銀総裁が空席になってしまった。
 日銀総裁が当面不在でも支障はないという声がある。しかし、中央銀行は、信用秩序の根幹であり、その存在をおとしめてはならないというのは、根本的な原理のはずだ。
 そうした冷笑主義的なあきらめが堆積(たいせき)していけば、日本の危機は深まるばかりだろう。
 争点となった財政と金融の分離は、中央銀行が政治に巻き込まれ、国益を大きく損ねてしまったという手痛い過去の経験からきている。その結果、政治の圧力が日銀に及ばないようにするため、財金分離の原則が重視されるようになった。
 しかし、日銀の運営にとって重要なトップ人事が今回、政争の具となり、泥だらけにされてしまった。日本の中央銀行の権威は、例のないほど手ひどく損なわれてしまった。
 同時に、中央銀行の独立性について、政治がまったくわかっていないことも明白になった。
 与野党とも互いに責任をなすり付けているが、日本の政治システムに向けられた不信について、もっと深刻に受け止めるべきだ。
 福井俊彦総裁は任期満了となった。金融市場の混乱という要因もあるが、金利機能の正常化には、もっと早くから取り組むべきだったのかもしれない。白川氏には、その点も総括して、総裁代行の職責を果たしてもらいたい。
 与野党の攻防は、今月末に暫定税率が期限を迎える道路特定財源の取り扱いに移るが、4月には先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれる。
 世界経済の見通しは厳しくなっており、次回のG7は特に重要だ。その席に出る日銀総裁が「代行」でいいはずがない。
 空席という事態を早急に解消すべきだ。
毎日新聞 2008年3月20日 0時04分
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社説1 総裁空席が示す政治の深刻な機能不全
2008年3月20日経済新聞
 日銀総裁も決められない政治の機能不全は深刻な事態である。国際金融情勢が緊迫する中、総裁は異例の空席となり、副総裁の白川方明氏が当面、総裁職を代行する。今月末で期限が切れるガソリン税の暫定税率についても成立のメドが立たず、4月以降、ガソリン価格や予算執行面で大混乱が予想される。福田康夫首相は窮地に立たされている。

 参院は先に政府が提示した武藤敏郎副総裁の総裁昇格案を否決したのに続き、19日の本会議で田波耕治国際協力銀行総裁を日銀総裁とする人事案を否決した。人事案が2度も否決され、福田政権は大きなダメージを受けた。日本の国際的な信認の低下も懸念される。

 武藤氏と同じ財務省次官経験者を再び提示した福田首相の判断力や政治センスに与党内からも疑問の声が出ている。ねじれ国会の現実が厳しいのは確かだが、福田首相に強い指導力や果敢な決断力が感じられないのは残念である。

 参院の主導権を握る民主党は「財政と金融の分離」「財務省と日銀のたすき掛け人事に反対」などの理由で人事案を否決した。民主党の反対理由にも一理あるが、今は国際的な金融有事である。日銀総裁空席の事態をつくってまで反対するのは行き過ぎである。民主党の対応は無責任であり、福田政権を窮地に追い込むためだけに日銀人事を混乱させているとみられても仕方あるまい。

 福田政権には日銀人事に続いて、道路財源問題が大きな試練としてのしかかっている。ガソリン税の暫定税率を含む租税特別措置法案は参院でいまだに審議が行われず、月内の成立は時間的にも厳しくなってきた。暫定税率が3月末で期限切れとなり、新年度入りする4月以降、ガソリン価格引き下げをめぐる混乱や、国と地方の財政に穴が開くなどの支障が現実味を増しつつある。

 事態打開には道路特定財源の修正協議で与野党が月内に合意することが不可欠である。道路財源の無駄遣いに対する世論の怒りは頂点に達しつつある。自民党は今こそ道路族議員の抵抗を排し全額一般財源化に踏み出すべきであり、首相は不退転の決意で党内をまとめる必要がある。

 民主党は暫定税率廃止を掲げて期限切れに追い込む構えだが、自民党が真剣な修正案を提示してくれば、話し合いに応じて修正に動くべきである。年度内に結論を出すという衆参両院議長のあっせんをほごにしてはならない。安易な強硬路線や政局優先主義は参院第一党としての責任放棄である。

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【主張】日銀総裁空席 日本がつぶれてしまう 政治混乱の拡大食い止めよ
2008.3.20 産経新聞
 日本は、政治の無策と鈍さゆえに国難ともいえる事態を招いてしまった。日本銀行総裁が空席という戦後初めての異常な状況を現出させた責任は、福田康夫首相と小沢一郎民主党代表にある。
 「空席」という結果責任から首相は免れない。一連の人事の迷走は統治力に疑問符が付けられた。他方、小沢代表はこの問題を政争の具として利用し続けた。「日本売り」への危機感もみられず、無責任というそしりは免れない。
 両氏は総裁の空席を1日でも短くするよう協議して事態を収拾するのが責務である。
 しかも、この政治の混乱と混迷は日銀人事にとどまらず、道路特定財源問題や揮発油(ガソリン)税の暫定税率の取り扱いなどにも波及する様相だ。そのつけを負うのは国民である。国民の利益を守るための打開策を自民、民主両党に強く求めたい。このままでは国がつぶれてしまう。
 ≪侵された日銀の独立性≫
 総裁不在は経済に悪影響を与えるだけでなく、国際的な信用も失う。なぜなら、日銀は「通貨の番人」として、日本の物価の安定と金融システムの維持に責任を負っているからだ。
 その最高責任者の不在は戦後、例がない異常事態である。しかも、政争の結果、空席となったわけで、海外から政治の介入で日銀の独立性が侵されたと受け止められるのは必至だろう。
 日本経済を取り巻く状況は不安定さを増している。低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題で、米国景気には後退懸念が出ている。ドル安も止まらない。
 これに伴う円高は、日本の輸出企業の収益を直撃する。企業業績の悪化は、個人の所得を減らし、消費を冷やそう。
 日銀は当面、白川方明新副総裁が総裁代行として政策委員会の議長を務めることになる。日銀きっての理論派として金融政策に精通しているとはいえ、対外折衝の面での力量は未知数だ。
 4月中旬には先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が予定されている。経済大国としての責務を果たす上からも総裁不在を長期化させてはならない。
 混乱はこれにとどまらない。
 民主党は歳入関連法案の成立を阻む方針で、年度内に成立しなければ揮発油税の暫定税率が4月以降、廃止され、国と地方合わせて2・6兆円の歳入欠陥が生じる。混乱を回避するため、道路特定財源の一般財源化問題も含めた与野党の修正協議も待ったなしだ。
 日銀人事をめぐり、民主党の小沢代表は「福田内閣は機能不全を起こしている」と指摘したというが、混乱をもたらした責任の多くは民主党にある。その認識がないまま機能不全の言葉を使うところに問題の根深さがある。
 ≪有能な人材の登用を≫
 昨年の参院選で与党を過半数割れに追い込んだことをもって、民主党は「新しい民意」を得たと主張する。大連立構想で一時、党内の混乱はあったが、ねじれ現象を最大限利用し、福田内閣を窮地に追い込む戦略をほぼ一貫してとってきた。
 福田内閣支持率の下落傾向が続いている。一方、民主党の政党支持率が急伸したのだろうか。
 党幹部の間には、空白回避に向けて日銀問題を収束させるべきだとの意見もあったものの一部にとどまったという。政局至上主義の空気が党内に蔓延(まんえん)し、異論のある幹部も沈黙しているなら憂慮すべき状況だ。
 ねじれ現象に加え、そのような姿勢の民主党を相手に、福田内閣が政策運営や国会対応で苦慮せざるを得ない面はあるが、政府・与党が一体となって修正協議などに対応できる態勢になっているとはいえまい。日銀人事をめぐる迷走をまた繰り返すのだろうか。
 多数の道路族議員を抱える自民党で、道路財源の法案修正は党内調整にもエネルギーを要する作業となる。課題を実現するため、首相が必要だと判断すれば、有能な人材を官邸や閣内、党執行部に再配置することも決断すべきだ。
 ねじれ現象に向き合って政治の機能不全を脱却し、いかにして国民生活を守るか。そのことこそ、首相と小沢代表が競い合うべきテーマである。
 自ら行動し、指導力を発揮する場面があまりにも少ない。国民の目にはそう映る。

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石田ふたみ