『日々の映像』

2008年03月04日(火)  ギョーザ事件 この程度で幕引きか

 中国製冷凍ギョーザの中毒事件をめぐり、日中の警察当局の言い分が真っ向から対立している。製造過程での混入を疑う日本側に対し、中国公安省は「中国での混入の可能性は極めて低い」と言明している。日本での混入の可能性はゼロとはいい切れないが、国民が納得できるような立証に努めるべきは言うまでもない。

 ともかく中国側は、「製造元の従業員に容疑者と思われる人物はおらず、原料野菜や生産工程、輸出の過程にも『異常はない』」としている。これでは捜査打ち切りと言わんばかりの説明である。このことで、結果的に冷凍ギョーザなどの食料輸入が減少することはむしろ好ましいことである。

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ギョーザ事件 これで幕引きなら納得できぬ
毎日新聞 2008年3月1日 

 中国製冷凍ギョーザの中毒事件をめぐり、日中の警察当局の言い分が真っ向から対立している。製造過程での混入を疑う日本側に対し、中国公安省は「中国での混入の可能性は極めて低い」と言明した。
 訪中して公安省次官と会談した警察庁次長が帰国し、「警察のトップ同士が早期解決に合意した」と成果を語った翌日、態度をひょう変させたのだから驚く。警察庁は、面目をつぶされた形だ。捜査資料も提供しているというから、中国側の記者会見での説明はうがちすぎていると映る。
 暴力団対策や覚せい剤密輸の捜査を通じて、日中の警察の関係は極めて良好で、実務者同士が電話で情報を交換するほどだったという。警察庁側はさらに協力関係を深めようとしたのだろうが、胡錦濤国家主席の来日や北京五輪を控える時期だけに、中国側には政治的な思惑が入り乱れ、覚せい剤の捜査のようには両国の利害が一致しなくなったらしい。
 中国製冷凍ギョーザの中毒事件をめぐり、日中の警察当局の言い分が真っ向から対立している。製造過程での混入を疑う日本側に対し、中国公安省は「中国での混入の可能性は極めて低い」と言明した。
 日本ではメタミドホスなどを入手できないし、密封状態で輸入された冷凍ギョーザに何カ所かで混入されたとは考えにくい。中国側が正常な製造ラインでの混入はあり得ないと強調することは理解できる。だが、自国での事件、事故の可能性を一方的に否定するのは説得力に乏しい。包装袋に水溶液が浸透するかどうかはデータを提供し合い、科学的に実証すべきだ。
 日本側としては被害が発覚した兵庫、千葉両県の警察を中心に粛々と捜査を進めるべきだ。国外犯による殺人未遂などの容疑が固まった場合に、外交ルートを通じて当該国に代理処罰を要請するのが手順でもある。国外犯の対象となる犯行であるかどうかを精査した上で、日本での混入の可能性が皆無ではないことにも留意しつつ、国内外の世論が納得するように、精緻(せいち)な立証に努めるべきは言うまでもない。
 この間、人為とみられる農薬の混入と中国産野菜の残留農薬問題が混然となって問題化したことにも留意したい。捜査当局としては、残留農薬対策などは所管官庁の手に委ねて、犯罪性の有無をしゅん別した上で絞り込んだ対象を内外に明確にする必要がある。
 幼児らを一時は重篤な症状に陥らせた中毒事件の責任をあいまいにすれば、中国製品離れが加速することは必至だ。日中両国の市民のため、公正で科学的な捜査によって解明が進むことを期待したい。国際犯罪対策上も、日中の警察の不協和音は許されない。
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ギョーザ会見 一件落着は、まだ早い
2008年2月29日東京新聞
 ギョーザ中毒事件に関し中国公安当局は二十八日初めて開いた記者会見で農薬が中国で混入された可能性は「極めて低い」と述べた。しかし、これで事件の捜査を一段落させるわけにはいかない。
 公安省刑事偵査局の余新民副局長は記者会見で、残留農薬が引き起こした食品安全問題ではなく「人為的な混入」による事件と断定した。
 製造元の天洋食品(河北省石家荘市)の生産管理は厳格で工場内での混入は困難とし、従業員についても「毒物を入れた疑いのある人物は発見されていない」と明言した。
 日本の警察当局は農薬が包装内部から検出されたため生産工程で混入された疑いを強めている。これに対し余副局長は一定の条件では農薬が包装の外から内側に浸透することがあるという実験結果を公表した。
 日本側が農薬の不純物から中国製とみていることにも、農薬の生産場所を特定はできないと反論した。
 さらに、日本の警察当局が中国側の求める日本の現場視察や物証確認に応じていないとして「深い遺憾」を表明し不信をあらわにした。
 ギョーザ事件の捜査は日本側が中国での農薬混入の疑いを強め、中国側は、それをほぼ否定し日本での犯行をほのめかす混迷に陥った。
 背景には双方とも相手国での犯行を疑わせる報道が広がり、互いに不信を募らせる国民感情がある。
 余副局長が、警察庁の安藤隆春次長が訪中し協力を加速することで合意した直後に記者会見し、日本側への不満を、あえて口にしたのも中国の国民感情への配慮だろう。
 しかし、ちょっと待ってほしい。ことは外交交渉ではなく、事件捜査なのだ。五歳の女児が一時重体になるなど深刻な被害は日本で起きた。
 余副局長も認めたように事件の真相は、まだ明らかになっていない。問題のギョーザを輸出した中国が、自国に問題のないことを言い立て、日本の捜査に反論することに、どのようなメリットがあるのか。最初の記者会見で結論めいた発言をして「幕引き」を図っていると疑われるのは決して本意ではないはずだ。
 日本の警察当局は中国側の不満表明に困惑している。中国側が資料を提供しない段階で手の内を明かせない駆け引きがあるのかもしれない。しかし、中国の事情も理解し、さらに踏み込んで捜査協力する度量を示すべきだ。
 両国当局が互いに不信を募らせ捜査が混迷すれば、四月に来日を予定している胡錦濤国家主席の歓迎ムードに水を差す。その陰で真の犯人はほくそ笑んでいるのかもしれない。

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石田ふたみ