『日々の映像』

2008年02月28日(木)  疲弊する医療現場

 産経新聞で「溶けゆく日本人」と題するリポートが続いている。蔓延するミーイズムで医療現場も疲弊しているという。以前、術後の経過が悪いということで看護師が患者に殴りつけられる報道もあった。溶けゆく日本人とは、簡単に言えば、昔の常識では考えられない行動をとる日本人のことである。

 200年2月27日のキャリアブレインのレポートで、「勤務医の疲弊、患者にも原因」であった。厚生労働省の審議会で、産科・小児科・救急の医師が共通して挙げたのは勤務医の疲弊で、その原因の1つに「クレーマー患者」や「暴力患者」などの存在を挙げている。患者の暴言で仕事への誇りがズタズタにされる場合があるのである。月に150時間を超える残業をこなす中、「よくならないのはおまえのせいだ」「税金払ってるんだから、もっとちゃんとみろ」など、患者からの理不尽なクレームが容赦なく寄せられるのだ。

 ともかく日本人の全体的な質が落ちているといわざるを得ない。どうしてこんなことになってしまったのか、皆さんで意見交換をしませんか。時間のある方は以下の長い引用に眼を通してください。

勤務医の疲弊、患者にも原因
2008/02/27 キャリアブレイン
【溶けゆく日本人】蔓延するミーイズム(7)
疲弊する医療現場
2008.2.13 産経新聞
≪メモ≫   産経新聞 疲弊する医療現場から引用
厚生労働省の医療施設調査によると、産婦人科・産科を標榜する一般病院は、平成8年には2148施設あったが、18年には1576施設で、10年間で572施設減った。分娩を取り扱うのをやめる施設は増え続けており、とくに自治体病院や、地域に1つしかない産科施設が閉鎖するなど問題になっている。一方、日本外科学会は、将来の外科医師数について、平成27年に新しく外科医になる人はゼロと予測している。このまま外科医不足が進行すれば、盲腸などごく簡単な手術ができる医師もいなくなる。そうなれば、今はほとんどが助かるけがや病気で命を落とす人が増えるかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

勤務医の疲弊、患者にも原因
2008/02/27 キャリアブレイン

 「雨が降ったからという理由で救急車を呼ばないでほしい」「患者の暴言で仕事への誇りがズタズタにされる」――。厚生労働省の審議会で、産科・小児科・救急の医師が共通して挙げたのは勤務医の疲弊で、その原因の1つに「クレーマー患者」や「暴力患者」などの存在を挙げた。西川京子厚生労働副大臣は「医療の分野では国民の意識が育っていない。すべて受け入れる側が悪いというのではなく、一緒に医療を構築するという方向性を持たないと不毛の議論になっていく」と感想を述べた。(新井裕充)

 厚労省は2月25日、「安心と希望の医療確保ビジョン」会議を開き、産科・小児科・救急の現場で先進的な取り組みをしている医師から意見を聴いた。

 この会議は、長期的な視点に立って日本の医療の問題点を考えようと、舛添要一厚生労働大臣が中心となって1月7日に設置された。

 4回目を迎えたこの日のテーマは、医師不足が深刻な産科・小児科・救急医療などの現状把握。各分野の医師が現在の問題点や今後の課題などについて意見を述べた。

 東京都立府中病院・産婦人科部長の桑江千鶴子氏(東京医科歯科大産婦人科臨床教授)は「産婦人科臨床現場の3つの問題」として、(1)劣悪な労働環境と待遇、(2)医療事故と訴訟への恐怖、(3)医療者への暴言・暴力(モンスターペイシャント)の存在――を挙げた。

 桑江氏は「大野病院事件で産婦人科の医師が逮捕されて以来、ビクビクする状況で萎縮医療になっている」と述べ、過酷な労働環境に追い討ちをかける訴訟リスクや患者の暴力などが医師のモチベーションを下げていると指摘した。
 「優しい気持ちでなんとかしてあげたいと思っても仕事に対する誇りをズタズタにされ、若い医師は疲弊している」
 桑江氏はこのように述べ、早急に解決することが難しい大きな問題であるとした。

 続いて、愛知県岡崎市の花田こどもクリニック院長の花田直樹氏は「現在の小児医療の問題点」として、(1)不当な報酬の低さとフリーアクセスによる患者数の多さ、(2)小児科勤務医の減少、(3)乳幼児医療無料化に伴う救急外来のコンビニ化、(4)訴訟リスクとクレーマーの存在――を挙げた。

 花田氏は「コンビニ感覚で救急車が利用されるが、コンビニ診療さえ難しい状況だ。しかし、司法判断は救急外来にも最高級の医療レベルを要求している。無理して対応しても刑事事件の対象になり得ることを医師は学習している」と述べ、産婦人科の医師が逮捕された福島県立大野病院事件の影響で入局する医師が減少し、現場では「無理に救急を受け入れない」という萎縮医療が生じているとした。

 花田氏はまた、医師らに言いがかりを付ける「クレーマー患者」の存在が萎縮医療に拍車を掛けているとした。
 「過熱する医療事故の報道で、不信に満ちた攻撃的な言動が目立ち、現場のやる気をさらに萎えさせている。今までは医師の使命感でカバーしてきたが、現状では医療安全上も自分の健康上も無理がある」

■ 救急患者の増加と国民の意識
 疲弊した勤務医をさらに追い詰める「クレーマー患者」と訴訟リスク。その背景には救急患者の増加がある。
 日本医科大学付属病院・高度救命救急センター部長の山本保博氏は、救急患者が増えている一方で救急医療機関が減少していることを指摘。「救急医療の現状、課題」として、(1)救急医療施設の負担の増大(救急患者の増加など)、(2)資源の圧倒的な不足(救急医不足など)、(3)救急医の士気の低下――を挙げた。

 山本氏は救急車の出動件数(2005年)のうち搬送されていない約9%について、「救急車が到着しても現場に患者がいない」と指摘。その主な理由として、▽119番した後の辞退、▽いたずら、▽酔っぱらい――を挙げた。
 その上で、119番通報した患者を重症度や緊急度などによって分類する「トリアージ」の必要性に触れた。
 「アンダートリアージ(過小評価)をどう考えるかという問題がある。『ちょっと胸がつかえる感じがする』という患者のうち1万人に1人ぐらいは心筋梗塞の場合がある。このような患者を自宅に戻してしまった場合の問題がある。しかし、これからはトリアージをしていかなければ、“たらい回し”はどんどん増える」

 この日、舛添厚労相が欠席したため、西川京子副大臣が次のように感想を述べた。
 「安全で安心な食物にコストがかかるという意識は国民の間に育ってきたが、医療の分野では国民の意識が育っていない。今日はマスコミの方もいるようだが、すべて受け入れる側が悪いという指摘の仕方ではなく、一緒に医療を構築するという方向性を持たないと不毛の議論になっていく。今、これを厚生労働省が一番先にやっていかなければならない」

【溶けゆく日本人】蔓延するミーイズム(7)
疲弊する医療現場
2008.2.13 産経新聞

 ■権利を名乗る身勝手
 昨年末、東京都内の病院に勤める産婦人科医(38)は、繋留(けいりゅう)流産で手術日を決めたばかりの患者(35)からの電話に一瞬、返す言葉を失った。
 「昨日決めた手術日ですけど、仕事の都合がつかないので変えてください」
 繋留流産とは、胎児に異常があって育たず、お腹の中で死んでしまうこと。そのままにしておくと、出血したり細菌感染しやすいので、死んだ胎児を子宮から取り除く手術をしなければならない。緊急手術が必要なほど切迫した状態ではないが、患者の体のためにはなるべく早く手術をした方がいい。
 年末ということで、手術の予定がかなり立て込んでいた。それでも幸い翌日に空きがあったので翌日の手術を提案したが断られ、1週間後に決めた。もちろん患者もそのとき「この日なら大丈夫」と承諾、スタッフの手配もすませたところだった。
 患者は大手企業に勤める会社員。確かに年末は仕事が忙しいとはいえ、それを承知で手術日を決めたはずだった。
 「絶対に(手術日は)変えられないんですか」と食い下がる患者に、産科医が「すべての患者さんの手術日程を変えないと無理です」とこたえたところ、「じゃあ、そうしてください」との言葉が返ってきた。
 もちろん、すべての患者の手術日程を変えられるわけがない。また、年明け後なら新たに手術日が組めるが、それでは患者の体が心配だ。産科医が改めて「つまり、手術日を変えるのは不可能ということです」とはっきり告げると、「それなら別の病院で手術するからいいです」と、電話をたたききられた。
 この患者は他の病院を数カ所あたったものの、手術を引き受けてくれる病院がなかったことから、結局、この産科医のいる病院で当初決めた日程で手術を行った。
 産科医はいう。
「結果としては無事手術できてよかったのですが、診察や治療以外の対応にこちらはへとへとです。産科医不足がいわれ、実際にみなぎりぎりの状態で仕事をしているのに、わがままな患者に振り回されると、もうやってられないという感じです」
                 
◆             ◇              ◆
 都内の別の病院に勤務する産科医(35)も、患者の理不尽な要求にとまどっている。
 1月半ばのことだ。切迫早産で入院していた40代後半の妊婦から、「外出を許可してほしい」と呼び出された。輸入品を扱う店を経営しており、店のことが気になって外出したいのだという。
 この患者は、長年の不妊治療の末にようやく初めての子供を妊娠したのだ。このときは38週で、絶対安静が必要な状態だった。産科医が「子供の命のために、もう少しだけがまんしてください」と説明しても、「私の体のことは私が一番よく分かっている」と、がんとして聞かない。患者の夫に説得してもらおうと「今が一番大事な時期ですから」と説明したが、夫も「妻の言うとおりにしてあげてください」と言うだけ。
 外出されると治療に対する責任がもてなくなることから、「外出したいなら自己退院してもらうしかありません。その代わり、もううちでは診察できません」と告げると、「退院するつもりはない」と言い張り、日中に勝手に外出し、夕方戻ってくるという生活を続けた。
 「子供が本当にほしいから不妊治療をしていたのではないのでしょうか。生まれてくる子供のために、数週間仕事を休むことが、そんなに難しいのでしょうか」と産科医は頭を抱える。命と仕事の重さの違いすら、分からなくなっているのだ。
                 
◆          ◇             ◆
 「看護師に添い寝を強要する」「大部屋で同室の人の迷惑になる行為を平気でする」「治療のために絶飲食にするよう説明しても『おれは食べたいものを食べる。おれは客でおまえらはサービス業だから、客のいうことを聞け』と従わない」−医療現場で患者が身勝手な要求を通そうとする光景は、もはや日常茶飯事と化している。

医療関係者によると、こうした困った患者は平成12年ごろから増え始めたという。医療事故が大きくニュースで扱われ、医療不信が高まるとともに、患者の権利が強くいわれるようになり、病院が患者を「患者さま」と呼ぶようになった時期と重なる。
 もちろん医師や病院側に問題があるケースもあるだろう。しかし、最低限のルール、常識的なマナーを守れない患者の増加により、医師が疲弊し、病院から立ち去る原因のひとつとなっている。実際、全国の病院で医師不足が深刻になっているのだ。
◆          ◇              ◆
 とくに疲弊が顕著なのは、自治体病院だ。大学医局が医師のひきあげを行ったことも影響し、残された医師はぎりぎりの状態での仕事を余儀なくされている。
 月に150時間を超える残業をこなす中、「よくならないのはおまえのせいだ」「税金払ってるんだから、もっとちゃんとみろ」など、患者からの理不尽なクレームが容赦なく寄せられる。
 病院が患者の問題行動に毅然と対応できないことも多く、また一部の議員がこうした患者の言い分を鵜呑みにして医師や病院に圧力をかけてくることもあるといい、医師の退職に拍車をかけている。
 自治体病院の実情に詳しい城西大学経営学部の伊関友伸(ともとし)准教授は、「医師の立場や気持ちをほとんど考慮しない患者の増加が、医療崩壊の一因となっている。患者の権利を振りかざして自分勝手なことをいうことがエスカレートすれば、日本の医療が大崩壊するのは間違いない」と指摘する。
 「医師だけでなく看護師ら医療に関わる人材は地域の財産だということを住民が理解する必要があります。この財産を守るために、一人一人が良識的な行動をとることを意識してほしい」
 結局、そのことが自分の命を守ることにつながるはずだ。(平沢裕子)
                   

 ≪メモ≫
 厚生労働省の医療施設調査によると、産婦人科・産科を標榜する一般病院は、平成8年には2148施設あったが、18年には1576施設で、10年間で572施設減った。分娩を取り扱うのをやめる施設は増え続けており、とくに自治体病院や、地域に1つしかない産科施設が閉鎖するなど問題になっている。一方、日本外科学会は、将来の外科医師数について、平成27年に新しく外科医になる人はゼロと予測している。このまま外科医不足が進行すれば、盲腸などごく簡単な手術ができる医師もいなくなる。そうなれば、今はほとんどが助かるけがや病気で命を落とす人が増えるかもしれない。

 < 過去  INDEX  未来 >


石田ふたみ