『日々の映像』

2008年02月23日(土)  イージス艦衝突事件

連日の報道が続いているので、ここであえて記述する必要もないようだ。
しかし、2008年2月の事件としては記憶に留める必要がある。ここでは主要な社説の目次を引用(本文はエンピツに保管)する。

イージス艦衝突 情報小出しが目に余る
2008年2月22日 東京新聞社説
イージス艦事故 漁船との衝突も回避できぬとは
2008年2月20日 読売新聞社説
イージス艦衝突 どこを見張っていたのか
                   2008年2月20日 毎日新聞社説

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イージス艦衝突 情報小出しが目に余る
2008年2月22日東京新聞
 イージス艦の漁船の視認は「衝突の十二分前」だったという。ならば、衝突は回避できた可能性がある。監視員が知っていたなら、一日遅れの公表はなぜか。情報を小出しにする体質が目に余る。
 いつイージス艦「あたご」の監視員が、漁船「清徳丸」の灯火を確認したのかが、今回の事故の大きなポイントの一つである。
 当初、防衛省は「衝突の約二分前に灯火を確認した」と説明した。約一分前に漁船と認識して、車の急ブレーキにあたる「全速後進」をかけたものの衝突は避けることができなかった、という内容だった。
 新たに「灯火の確認が十二分前だった」と発表されたのは重要な意味を持つ。これだけ時間の余裕があれば、危険察知とともに回避行動をとれた。衝突しなかった可能性が強く出てくるからである。仮に漫然と航行を続けたのなら、さらなる重い責任が追及されてしかるべきだ。
 そのような重要な情報が公表されたのが、翌日の午後というのは、あまりに遅すぎる。当事者は事実をひた隠しにしたのではないかとも、推察されるからだ。指弾されてもやむを得まい。
 「清徳丸」の僚船は「レーダーで気づいたのは約三十分前。イージス艦もそのころ、こちらに気づいたはずだ」とも証言している。同省が確認したという「清徳丸の灯火」についても、船団の一隻の船長は「僚船の光だ」と反論する。この食い違いをどう説明するのか。
 同省では清徳丸を一度視認し、見失ったかどうかも「分からない」と言う。水上レーダーに映っていたかも「不明」と言う。これではミサイルを撃ち落とす最新鋭艦は、“足元”さえおぼつかないのと同然だ。
 小回りの利く漁船の側が回避するだろうというようなおごりが、果たしてイージス艦側になかったか。監視員の手抜かりや、視認後の操船のずさんさも疑われる。過去の潜水艦「なだしお」の事故では、航泊日誌の改ざんがあった。今回も他に隠し事がありはしないか。
 海上自衛隊の幹部が、行方不明の親子の親族に「報道陣に何も話さないで」と求めた。この発想はどこから来るのか。首相や防衛相への一報も遅れた。何かを国民に秘匿しようとする体質があるのなら、文民統制の上からも極めて重大問題だ。
 衆院安全保障委員会の質疑が二十二日に予定される。事故当時の実情が、いまだにベールに包まれ過ぎる。防衛相への辞任要求も出よう。政府は真面目(まじめ)な態度で臨め。

イージス艦―責任逃れをするな
 何が起こったのかを正確につかみ、ただちに報告させて公表する。これは間違いを犯した組織が信頼を取り戻すための基本である。漁船との衝突事故をめぐる自衛隊の対応をみると、その最も大切なことがまったく守られていない。
 それどころか、時間がたつにつれて自衛隊の説明が変わり、都合の悪いことが出てくる。これでは自分たちに不利な情報を隠し、責任を逃れようとしていると思われても仕方があるまい。
 小さな漁船「清徳丸」とぶつかり、その船体を切り裂いた海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」の見張り員が、衝突の12分も前に漁船の灯火を確認していたことがわかった。
 「2分前に発見し、回避行動をとったのは1分前」としていた事故当日の説明を一転させたことになる。
 漁船をいつ見つけたかは、衝突の原因を追及するうえで、きわめて重要な情報だ。それがなぜ、すぐに出てこなかったのか。なんとも理解しがたい。
 さらに信じられないのは、漁船に気づいてからのイージス艦の動きだ。
 灯火に気づいたという衝突の12分前であれば、二つの船は数キロ離れていた。衝突を避けることは十分できたはずだ。だが、イージス艦はその後も11分間にわたって、かじを切ることも、速度を落とすこともしなかった。衝突直前まで自動操舵(そうだ)だったというのだから、常識では考えられない進み方だ。
 しかも、前方にいたのは、沈没した清徳丸だけではない。仲間の漁船が船団を組んで進んでいた。イージス艦はその船団に突っ込んでいったかたちだ。
 最新鋭の自衛艦の上で、乗組員はいったい何をしていたのか。漁船を見つけた見張り員は、当直士官やレーダー員にすぐ伝えたのか。漁船がどう動くか、きちんと目配りを続けていたのか。
 そのころ当直の乗組員が交代の時刻だったようだ。引き継ぎで海上への注意がおろそかになっていなかったのか。
 そうした初歩的な疑問に自衛隊はいまだにきちんと答えていない。衝突の前後に艦内がどんな状況だったかも明らかにしていない。
 艦内で何が起きたのかをつかめないというのなら、まったく統制がとれていないことになる。こうした組織に日本の安全保障を委ねることができるのか。
 そもそも海上自衛隊が目の前の漁船すらよけられないのなら、どうやって日本を守るのか。自衛隊の士気や規律が崩れているのではないかと心配だ。
 自衛隊は事故にかかわる情報を包み隠さず、洗いざらい公表すべきだ。国防の重要性を盾に組織防衛をすることは許されない。
 石破防衛相の責任は重大である。部隊の実情をつかめなければ、シビリアンコントロール(文民統制)は絵に描いた餅だ。今回の事件では日本の民主主義も試されている。

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イージス艦事故 漁船との衝突も回避できぬとは(2月20日付・読売社説)
 
最新鋭のイージス艦でも防げない事故だったのか。徹底した原因の究明が必要だ。
 海上自衛隊のイージス艦「あたご」が千葉県房総半島沖で漁船と衝突し、漁船の船員2人が行方不明になった。横須賀海上保安部は業務上過失往来危険容疑で「あたご」艦内を捜索した。
 「あたご」は、米ハワイ沖でのミサイル発射試験を終え、事故の5時間後に横須賀港に入港する予定だった。日本近海に来れば、漁船などの存在を警戒するのは、航海上の常識である。
 イージス艦は、同時に100個以上のミサイルや航空機を追尾する世界最高水準のレーダーを搭載している。「あたご」は昨年3月に就役したばかりで、海自のイージス艦5隻の中で最も新しい。建造費は約1400億円にもなる。
 事故当時、艦橋上には、見張りを含め、10人前後の隊員がいた。現場海域の波は平穏で、視界も良好だった。それでも、漁船の発見が遅れたのはなぜか。
 どんな高性能の艦船でも、乗員が適切に操作し、安全に十分留意しなければ、事故は防げない。30人が死亡した海自潜水艦と遊漁船の事故から20年が経過している。隊員に気の緩みはなかったか。
 漁船との衝突さえ回避できないようでは、日本の安全保障は心もとない。「万が一、自爆テロの船だったらどうするんだ」との渡辺金融相の指摘ももっともだ。海自の海上警備行動や船舶検査などは大丈夫か、と思う人もいるだろう。
 「あたご」の艦首右側には、衝突によるものと見られる傷跡が確認されている。海上衝突予防法は、船がすれ違う場合、相手を右側方向に見る船が航路を変更するよう定めており、「あたご」側に回避義務があった可能性が高い。
 実効性ある再発防止策のためにも、防衛省は、海保に協力して事故の経緯を検証し、責任を明確にすべきだ。
 防衛省内の危機管理体制の不備も問題だ。石破防衛相への報告は事故発生の1時間半も後だった。福田首相は、「すぐに大臣には連絡が行かないといけない」と防衛相に改善を指示した。
 事態の重大性に応じて、より迅速に情報を防衛相らに伝達する体制を構築することが急務である。
 海自では近年、不祥事が続いている。イージス艦情報流出事件は、日米の安全保障関係にも影響を与えた。インド洋での給油量取り違えや航海日誌の誤廃棄のほか、昨年12月には横須賀基地に停泊中の護衛艦「しらね」で火災が起きた。
 不祥事の防止に地道に取り組み、国民の信頼回復を図る必要がある。
(2008年2月20日02時36分 読売新聞)
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社説:イージス艦衝突 どこを見張っていたのか
                   毎日新聞 2008年2月20日
最新鋭のハイテク艦船が、長さも幅も10分の1程度でしかない小さな漁船に衝突し、船体を真っ二つにしてしまう。あってはならない事故が起きた。
 海上自衛隊のイージス艦「あたご」は、1月下旬にハワイで対空ミサイルの装備認定試験を受けた後、寄港先の海自横須賀基地に向かっていた。一方、千葉県勝浦市の漁協に所属するマグロはえ縄漁船「清徳丸」は、僚船とともに三宅島方面へ出漁する途中だった。
 事故は19日午前4時すぎに千葉県野島崎沖40キロの海上で起きた。漁船に乗り込んでいた父子は、冬の海に投げ出されて行方不明になっている。無事救出されることを願うばかりだ。
 衝突当時の詳細な状況は判明していない。ただ、2隻の予定航路から推定すると、太平洋を北上して東京湾に入ろうとしていた「あたご」が、南西方向に進路を取っていた清徳丸の左舷にぶつかった可能性が高いようだ。
 この場合、「あたご」から見て清徳丸は、右舷方向から接近してきたことになる。海上衝突予防法は、2隻の船が交差する場合、相手の船を右舷側に確認した船に衝突回避の義務があると定めているため、衝突直前の位置関係が過失責任を認定するうえで重要なポイントになる。
 それにしても、数百キロも離れた複数の空中標的を同時に探知、追跡できる高性能レーダーと情報処理能力を備えたイージス艦が、なぜ目の前の漁船と衝突するような初歩的な事故を起こしてしまったのか、疑問はつきない。
 海自によると、イージス艦の高性能レーダーは対空専用のため、周辺海域に対しては他の艦船と同様の水上レーダーを使用していて、小さな漁船だと捕捉できないこともあるという。
 むしろ見逃せないのは、「あたご」の乗組員による見張りが十分だったかどうかだ。事故当時、艦内は通常の当直体制にあり、ブリッジには10人程度が任務に就いていたという。
 現場は漁船や東京湾を出入りする船舶が数多く往来する海域だ。その自覚を持って当直の見張りが機能していれば、衝突を回避できたのではないか。
 海上自衛隊では昨年来、不祥事が後を絶たない。
 刑事事件に発展したイージス艦のデータ流出に始まって、油の転用疑惑にかかわる給油量の隠ぺい、航海日誌の無断破棄。さらに昨年12月に起きたヘリ搭載護衛艦「しらね」の火災は、無許可で持ち込まれた隊員の私物が原因と見られている。
 これらの規律の緩みが今回の事故とどこかでつながっていないかどうか、海自は厳重に点検すべきだ。また文民統制の観点から、重大事故が起きた際の防衛相や首相への速報体制についても改めてチェックする必要がある。
 東京朝刊

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石田ふたみ