『日々の映像』

2007年11月18日(日) サブプライム住宅ローン損失額1500億ドル (約17兆円)

 社会の出来事に対して、必要以上に悲観論を展開する必要はないと思う。サブプライム住宅ローン損失額の影響を楽観視しているわけでない。米連邦準備制度理事会のFRB9のバーナンキ議長は8日、米議会経済合同委員会での 証言で、サブプライム住宅ローン関連の金融機関などの損失額が1500億ドル (約17兆円)に達すつと証言している。米国の軍事費が50兆円を超えている。この負担を米国民がしているのである。マクロの数字からすれば、克服できない数字でないと思う。

 ただ、どうしてこれだけの回収不能が発生するか、というアメリカの社会体制である。詳しく知っているがいましたら書き込みした欲しい。アメリカはローンが払えないといって自己破産しても、その住宅から追い出されることはないのである。自己破産してもすむ家と、当座の生活資金は保護さえるのである。このような体制がよいかどうかの議論があるが、この背景があるからアメリカの1年の破産者は100万人を越えるのである。100万人の貸付金の回収が不能になるのだ。仮に平均で1500万円とすると
15兆円(100万人×1500万円=15兆円)なる。

  この影響がどのようになるかは注視しなければならない。
・投信「米離れ」進む・ドル下落を懸念     11月11日日経
・日経社説1 金融市場動揺とドル安が示す警戒信号 11月11日
・サブプライム危機の再燃    11月13日  田中 宇


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投信「米離れ」進む・ドル下落を懸念
                       2007年11月11日日経
 
国内で販売している投資信託のうち、海外の債券や株式で運用する商品で投資家の「米国離れ」が進んでいる。米国の債券を中心に運用している投信の純資産残高は9月末、1年前に比べて13%減の3兆1000億円となった。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題で、米ドルに対する先行き懸念が広がっていることが背景にある。急速なドル安・円高により、この傾向に拍車がかかる可能性もありそうだ。
 投信評価の大和ファンド・コンサルティングが格付けが高い米国債券(国債や社債)を7割以上組み入れている投信を対象に調べた。(07:00)



日経社説1 金融市場動揺とドル安が示す警戒信号
(11/11日経)
  米国の住宅バブル崩壊に端を発した世界の金融・株式市場の動揺が収まらない。投資資金の米国離れを警戒してドル安も進み、資金の受け皿として原油、金など商品相場が急騰した。世界経済が景気後退とインフレという二つのリスクに直面していると、市場は警鐘を鳴らしている。

 米株式市場でダウ工業株30種平均は1万3000ドルの大台割れ寸前まで下げ、日本や欧州、アジアの株価も軒並み安だ。米住宅市場の冷え込みが予想以上の深さと広がりを持ち始めたのを映した動きである。

 バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は先週、「米景気は来年春まで停滞する」との見通しを示し、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連の損失が1500億ドル(17兆円弱)規模に達する可能性も認めた。米欧金融機関の大幅減益や赤字決算も相次ぎ、メリルリンチとシティグループはトップが引責辞任に追い込まれた。

 損失の所在と規模が読めない不安心理が金融市場を覆う。証券化が広がった結果ともいえるが、加工度の高い債務担保証券(CDO)は取引がほとんど成立せず、処分しようにもできない状態だ。米証券会社のなかには一定期間後に買い戻す条件で証券化商品をヘッジファンドに一時的に売却し、残高を少なく見せかけたところもあるという。日本でバブル崩壊後に損失を抱えた証券を決算対象外の別会社に移す「飛ばし」が横行したのを思い起こさせる。

 損失で自己資本が傷ついた米銀はリスク許容力が低下し、融資姿勢を慎重にしている。金融の目詰まりは実体経済の足を引っ張り始めている。米企業の自己資本は厚いものの、バブル後の日本のようなカネ詰まりには十分警戒する必要がある。

 FRBのカジ取りは微妙だ。9、10月と連続利下げしたが、肝心の証券化市場の機能は回復せず、住宅市場の冷え込みは続く。金融市場は、いずれFRBが追加利下げを余儀なくされると読んでいる。そんな中でこれまで潤沢な外貨準備の多くをドル資産で運用してきた中国や産油国がドル離れを起こせば、ドル不安と呼ぶべき状態にも陥りかねない。

 ドル離れしつつある投資資金は商品などに流れ、原油相場は1バレル100ドルに近づいている。エネルギーや食料などの高騰がインフレ懸念に火をつけるようだと、FRBの政策運営はいよいよ難しくなる。日本は政策面で打つ手が乏しいうえに、影響だけは確実に及んでくる。主要国のなかでも低迷が目立つ日本の株価は一連のリスクの警戒信号である。


サブプライム危機の再燃
2007年11月13日  田中 宇

今年7−8月に発生した「サブプライム住宅ローン債券」をめぐるアメリカ発の国際金融危機は、その後、米金融当局による利下げや、金融市場への資金投入などによって、危機の拡大にある程度の歯止めがかけられた。だが、最近になって、再び危機が拡大する流れになっている。サブプライム債券をめぐる状況を悪化させているのは「格付け」である。
 サブプライム債券(CDO、ABCP)は、無数の住宅ローン債権を一つに束ね、それをリスクの高さごとに輪切りにして、別々の債券として売っている。利回りが高い債券ほど、ローンを払えない人が増えた場合に被る損失が大きくなるように設定されている。全体としてサブプライム債券の種類は膨大なものになり、最初に金融機関から投資家に販売された後、転売(流通)されていかないものが多い。転売されないと、債券の市場価格が定まらない。毎日売買されている債券には、その日の時価がつくが、売買されない債券には時価がつかない。
 債券に価格がつきくくても、金融機関は節目ごとに資産の何らかの時価を算出し、自社の損益を計算せねばならない。サブプライム債券の多くは、時価はつかないものの、信用格付け機関による格付けの対象になっている。そこで各金融機関は、自社が持っているサブプライム債券について、格付けを係数として利用した計算式を作り、時価に代わる「推定価格」(理論値)を算出している。格付けが下がれば、債券価格も下がったとみなされる。(関連記事)
 今夏の金融危機に際し、信用格付け機関は、サブプライム債券の中で明確に状況が変化したもの以外は、格付けの見直し(格下げ)を行わなかった。金融危機が短期間に終わるかもしれなかったからである。格付けが大して見直されなかったため、多くの金融機関の債券の推定価格も下がらなかった。
 しかしその後、サブプライム債券の裏づけとなっているサブプライム(信用度の比較的低い借り手)の住宅ローンに関し、金利が上がって月々のローン返済ができなくなる人が増加し続けている。アメリカの政界やマスコミでは「サブプライム債券の危機の元凶は、信用格付け機関が甘い格付けをやったことだ」という批判が頻発し、格付け機関に圧力がかかった。信用格付け機関は、今夏の危機から3カ月(四半期)が過ぎた10月の時点で、相次いで大規模なサブプライム債券の格付け見直しを開始した。
 10月19日には、大手格付け機関のスタンダード&プアーズ(S&P)が1413種類、220億ドル分のサブプライム債券を格下げした。11月に入ると、ムーディーズなど他の格付け機関も、10月からサブプライム債券の格下げを開始していると、相次いで発表した。格付けが下がると、各金融機関が計算している債券の推定価格も下がり、不良債権として損失を計上することが必要となる。(関連記事)
▼価格メカニズムの崩壊
 加えて、今夏の危機以来、投資家やマスコミの間に「サブプライム債券に対する金融機関の推定価格の計算式は、妥当なものなのか」という疑心暗鬼が広がっている。各金融機関は、それぞれが適切だと考える計算式を使って、サブプライム債券や、その他の取引頻度の低い高リスク債券の推定価格を出している。
 計算式は、ローンの破綻など、ありそうなリスクをモデル化して数式化したものだ。各金融機関が、自社に都合の良い、過度に楽観的なモデルや係数を考え、それをもとに推定価格を算出してきた可能性は十分にある。この問題は、ローン破綻が少なかった以前は表面化しなかったが、破綻が増えて債券の価値が下がっていると皆が思い始めた今夏から、疑心暗鬼が噴出した。
 ありそうなリスクをモデル化して計算する手法は、信用格付け機関の格付けでも採られている。今夏以降、投資家の多くは「サブプライム債券の価格計算式は楽観的すぎた」「債券の実際の価格は、もっと低いはずだ」と懸念するようになった。
 もともと確定した価格がほとんど存在しない中で、計算式が楽観的すぎるかどうか問答しても、確たる結論は出ない。金融機関の方で計算式を見直しても、それが正しいものだということを投資家に納得させられるとは限らない。その一方で、現実の世界でのローン破綻者は増え、サブプライム債券の価値が下がっていることは、誰にも感じられるようになってきた。価格形成メカニズムそのものが崩壊し、サブプライム債券は下落の方向に拍車がかかっている。
▼「レベル3」の問題
 そんな中で、大手金融機関のいくつかは最近、投資家の信用を取り戻すため、サブプライム債券の推定価格算定方法を、従来よりは比較的確実なやり方に切り替えた。その一つは、サブプライム債券の先物指標であるABX指数(資産担保債券先物指数。信用デリバティブ指数)を使うものである(ABX指数の種類は、主要な資産担保債券の数だけある)。(関連記事)
 この指数は、市場における各種のサブプライム債券に対する需給状態を数値にしたものだが、今夏の債券危機以来、市場ではサブプライム債券を欲しい人がほとんどおらず、指数は非常に低い市場最安値の水準となっている。最優良のAAAの格付けの債券でも、価格は発行時の10分の1にまで下がっている。(関連記事)
 多くの金融機関は、この指数があまりに低水準なので、自社のサブプライム債券の推定価格の計算式に入れていない。しかし、シティグループやメリルリンチなど大手金融機関のいくつかは、この非常に低い水準の数字を使って自社のサブプライム債券を評価し直す必要があり、巨額の損失を計上した。
 アメリカの金融機関が、巨額の損失を出してまで、サブプライム債券の価格計算式を見直さねばならないのは理由がある。11月15日から、アメリカでは金融機関の会計基準が一部改められ、独自の計算式を使って推定価格を算出している資産の残高を「レベル3資産」として、定期的に発表しなければならなくなる(「レベル1資産」は、価格が市場で確定できる資産。「レベル2資産」は、独自計算式の推定価格と、確定した価格が混在している資産)。レベル3の資産が多いほど、その金融機関の資産評価は当てにならないとみなされる。サブプライム債券は、ABX指数を使って推定価格を計算すれば、レベル2に組み入れることができる。(関連記事)
 この「レベル3資産」の問題と、信用格付け機関によるサブプライム債券の格下げが重なって、10月以降、アメリカのいくつもの金融機関が、サブプライム債券の損失計上を発表することになった。(関連記事)
▼損失総額は1兆ドル?
 サブプライムの住宅ローンに関しては、今後さらにローン返済不能の人が増えることが確実視されている。信用格付け機関による各種のサブプライム債券の格下げが続くことは、ほぼ間違いない。米金融界では、値が下がる前の今のうちにサブプライム債券を投げ売りする投資家や、自社の関係会社が発行したサブプライム債券を関係会社ごと清算して損切りする金融機関が多くなっている。投げ売りは、さらなる価格の下落を誘発している。(関連記事その1、その2)
 アメリカでのサブプライム債券の発行残高は1兆3000億ドルで、そのうち16%(約2000億ドル)が、10月の段階で90日以上のローン返済滞納になっている。今後は、この比率がさらに増えそうだ。(関連記事)
 今秋、アメリカでの住宅ローン債券事業から撤退することを決めた野村証券は、同事業の資産の28%にあたる額を損失として計上したが、これと同じ比率の損失計上がアメリカの金融機関で行われた場合、たとえば大手投資銀行のゴールドマンサックスは資本金の半分が吹き飛んでしまう大損失になる、と指摘する分析者もいる。(ゴールドマンは、まだシティやメリルのような損失計上をしていない)(関連記事)
 アメリカの金融危機は、サブプライム以外の高リスク債券の分野にも感染しており、優良(プライム)な住宅ローン債券、クレジットカード債権を証券化した債券(アメリカにおける残高約9000億ドル)、企業買収資金の債券、その他のデリバティブ商品など、金融危機が感染して含み損を拡大している分野はいくつもある。これらを合計すると、金融界全体での最終的な損失は、2500億ドルとも5000億ドルとも1兆ドルとも予測されている。(関連記事その1、その2)
 アメリカでは1990年代から金融技術の革命が進行し、各種の新しい金融手法が、金融機関と投資家に巨額の利益をもたらし、それが米経済の活況の原動力となってきた。しかし、サブプライムやデリバティブ、CDO、SIV、ABCPなどといった金融技術を回して構築され、積み上げられたアメリカの金融資産は、いまや、債券の価格形成メカニズムの崩壊という根底からの逆回しによって、短期間に崩壊しかけている。
▼ローン破綻、再利下げ、インフレ、石油高騰の悪循環
 サブプライム債券の崩壊を発端とする債券危機は、米経済の全体的な資金調達能力を引き下げ、住宅ローン破綻による消費の減退と相まって、アメリカの景気に悪影響をもたらしている。石油価格の高騰などでインフレがひどくなる中で、連銀は12月の会議で再び利下げをするのではないかという観測が、関係者の間で強くなっている。(関連記事)
 9月と10月の連続利下げは、世界的なドル安を引き起こし、原油や金の価格高騰に拍車をかけ、中東産油国や香港などの通貨の対ドルペッグが外れそうになった。原油の先物市場では、すでに1バレル250ドルの先物が売れ始めている。その水準まで高騰すると考えている関係者がいるということだ。(関連記事)
 そんな現状下で、再度の利下げは、11月に入ってのサブプライム債券危機の再燃と合わさって、ドルの信用不安を再燃させることは間違いない。アメリカの財政赤字が9兆ドルを超えて増え続けていることも、ドルの信用不安を加速する。世界経済は、どんどん危険な方向に追い込まれている。(関連記事)
 イギリスのコラムニスト、ウィル・ハットンは最近、英オブザーバー紙のコラムで、今回の金融危機は30年に一度の大規模なもので、これによって、市場原理を重視する自由主義経済政策の時代は終わるだろうと書いている。ハットンは、今回の金融危機は、3500億ドルのサブプライムの不良債権を抱えるアメリカだけでなく、アメリカのやり方をそっくりコピーして運営してきたイギリスの金融界をも崩壊させると予測している。金融危機は、米英中心の覇権体制を崩壊させるまでの展開になるということである。(関連記事)

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石田ふたみ