『日々の映像』

2007年11月05日(月) 小沢騒動の顛末

自民・公明両党と民主党との連立政権樹立に向けた協議を始めることを打診したというから驚きだ。民主党幹部が協議を拒否したのは当然だと思う。筋の通らない提案をした福田首相はもちろん、協議に前向きだったとされる小沢氏にも批判が高まることは必至だろう。

以下の指摘が正論〔毎日社説〕でないか。
「首相は2日夜、「政策を実現するための新体制を作ることもいいのではないか」と語った。それが国民のためだという論法だ。しかし、合意の実現にどれだけ成算があったのかはともかく、それは政権維持のため持ち出した自民党の勝手な都合であり、国民世論を無視する提案というべきだ。
 理由を挙げるまでもない。第1党と第2党の連立は、ようやくここまで進んできた政権交代可能な2大政党化という流れをご破算にしてしまう。仮に大連立が実現すれば、野党勢力は極めて小さくなり、政権のチェック機能も失われることになる」



社説:大連立提案 民主党が拒否したのは当然だ
毎日新聞 2007年11月3日 東京朝刊
 「まさかの提案」に驚いた人は多いだろう。福田康夫首相が2日、民主党の小沢一郎代表との党首会談で、自民・公明両党と民主党との連立政権樹立に向けた協議を始めることを打診した。民主党が協議を拒否したのは当然だ。筋の通らない提案をした福田首相はもちろん、協議に前向きだったとされる小沢氏にも批判が高まる可能性がある。
 首相の狙いは何だったのか。衆参のねじれで、インド洋での海上自衛隊の給油・給水活動を再開させるための新テロ対策特別措置法案など政府・与党提出の法案は成立のめどがまったくつかない状態だ。これを打破するため、持ち出したのが究極のねじれ解消策といえる「大連立」だったのだろう。
 首相は2日夜、「政策を実現するための新体制を作ることもいいのではないか」と語った。それが国民のためだという論法だ。しかし、合意の実現にどれだけ成算があったのかはともかく、それは政権維持のため持ち出した自民党の勝手な都合であり、国民世論を無視する提案というべきだ。
 理由を挙げるまでもない。第1党と第2党の連立は、ようやくここまで進んできた政権交代可能な2大政党化という流れをご破算にしてしまう。仮に大連立が実現すれば、野党勢力は極めて小さくなり、政権のチェック機能も失われることになる。
 そもそも先の参院選で自民、民主両党は有権者に対して連立の可能性など何ら説明していない。大半の有権者も大連立を望んで参院選で民主党を圧勝させたわけではなかろう。実際、この日の党首会談の最中も、両党は激しく対立していたのである。
 首相が求めているインド洋での海上自衛隊の活動も依然、国民世論は二分している。給油の転用疑惑なども決して晴れたわけではない。防衛省の守屋武昌・前事務次官のゴルフ交際問題の真相究明もこれからだ。大連立構想はそうした問題をすべて棚上げにしてしまうことにもなる。なぜ、それが「国民のため」なのか。
 長く続いた自民党支配の弊害への反省から、「政権交代が日常的に行われる政治システムの構築が必要」と言われ始めて20年近い。衆院で小選挙区比例代表並立制が導入され、各党がマニフェストを提示し、どの政権がふさわしいか、有権者が選択する政策中心の選挙も定着してきた。この積み重ねも台無しになる。大連立になれば衆院選は遠ざかることになるだろう。要するに連立構想は自民党の延命策でしかない。
 それを承知で提案した首相の責任は大きいが、小沢氏の対応も理解に苦しむ。首相との会談を続けてきたのは連立に前向きだったからと思われるからだ。
 次の衆院選で民主党が過半数を取れば民主党政権が誕生する。小沢氏は常々、選挙を通じて政権交代を目指すと言ってきた。次の衆院選に政治生命をかけるとも明言していたのである。今回の党首会談の経緯について、民主党も詳細に検証すべきである。

「大連立」構想 それなら解散・総選挙だ
[新潟日報社説11月4日(日)]
 福田康夫首相と民主党の小沢一郎代表が、二人きりで何を話し合っているのかと思ったら大連立政権樹立がテーマだったという。
 二人とも一体何を考えているのか。参院選で示された国民の意思や民主主義の本旨を忘れた行動と言わねばならない。とりわけ小沢氏は二回目会談の前日まで、「大連立」の可能性をきっぱりと否定していただけに不透明さが募る。
 なぜ、小沢氏は首相の提案をその場で拒否しなかったのか。民主党役員会が連立協議に応じないとする方針を即決したのは当然である。小沢氏の手法と見識を厳しく問わねばならない。
 だが、これで大連立の火が消えたと見なすのは早計だ。むしろ、国民の目が届かないところで熱源が広がる可能性さえある。政府首脳や自民党幹部らの落胆ぶりがそれを証明している。
 大連立では現在の与党の枠組みに民主党も加わる。そうなれば衆院の93%、参院でも89%の議席を持つ超巨大与党が出現することになる。国民の選択肢を奪い、国政へのチェック機能も働かない。翼賛政治そのものだ。
 福田首相は、新テロ対策特別法案をめぐって行き詰まっている国会の現状を打破するために連立協議を呼び掛けという。その前に、どうして法案に理解が得られないかを考えるべきだ。
 政府与党の主張はインド洋での海上自衛隊の給油活動再開ありき、である。憲法上疑義があり、対米支援の側面が強い給油活動だけが国際貢献だという理屈は納得できない。
 小沢氏は会談で、自衛隊の海外派遣を随時可能にする「恒久法」の制定を呼び掛けた。国連決議に基づいて、との前提付きではあるが、国民的論議を置き去りにして進められる話なのか。
 大連立といい恒久法といい、これほど重要なテーマが党の機関決定抜きに密室で話し合われること自体、政党政治の常識に反する。
 私たちは参院選後、次のように主張した。衆参のねじれには効用もある。与野党が国政の重要課題について精緻(せいち)な案を出し合って論議する。そうすれば国民に分かりやすい政治になる。
 これは参院選に託した国民の声でもある。大連立構想は国民に対する裏切りといっても過言ではない。本気でねじれを解消したいなら、衆院解散・総選挙で国民の審判を仰ぐべきだ。その覚悟もなく連立話をもてあそぶなど、政治に対する冒涜(ぼうとく)と断じていい。
 両氏は今後もこうした話し合いを継続する方針だ。表に出てきた会談内容はごく一部でしかない。政界に疑心暗鬼と憶測をまき散らすのはこれきりにしてほしい。国会を迷走させ、大事な法案の審議を遅らせるだけだ。福田首相と小沢氏の猛省を求める。
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大連立論 まず国益ありきが前提 民主党は成熟政党に脱皮を 
                       2007.11.4 産経新聞社説
 福田康夫首相(自民党総裁)と小沢一郎民主党代表との党首会談で浮上した両党の大連立論は、ひとまず立ち消えとなる情勢だが、いくつかの疑問点がある。

 重要政策について、二大政党があらゆるレベルで協議を模索する努力は引き続き欠かせない。しかし、二大政党同士の大連立は、政権交代可能な政治状況の構築を目指して衆院に導入した小選挙区制の趣旨と矛盾しよう。

 本来、政権は国民が選挙を通じて選択すべきものという観点からも、具体的な目的、内容が示されないままでの大連立論を支持することは難しい。

 ≪不可解な小沢氏の行動≫

 さらに、問題なのは、今回の大連立論が法案処理の国会対策を主眼に、ねじれ現象の解消だけをもくろんだ「国対連立」の様相を呈していることである。真に必要な政策の実現に、党派を超えて取り組む「国益連立」にはなっていない。

 それにしても不可解なのは、参院選を大勝に導いたことで求心力を強め、衆院選を経て政権交代を目指す方針を明確にしてきた小沢氏が、なぜ今になって自民党との大連立論に乗ろうとしたかである。会談の席上、拒否しなかった点について、党内でも不満や疑念が生じている。

 小沢氏は、小選挙区制導入を中心とした政治改革をめぐり、自民党を飛び出して非自民政権樹立などに動いた張本人である。

 長年、政権交代の必要性を訴えていたことを考えれば、党首会談に応じることがあるとしても、連立論を検討すること自体に違和感がある。7月の参院選で、民主党に第一党の地位を与えた民意と矛盾する行為だと受け止められることは、小沢氏自身がもっともわかっているはずだ。

 詳細は発表されていないが、党首会談では自衛隊の海外派遣のあり方を普遍的に定める恒久法に関し、首相と小沢氏との間で大きな歩み寄りが生じた可能性がある。

 それ自体はきわめて有意義だが、十分な説明がなされないまま、ストレートに大連立論につなげようとすることにも無理があろう。

 自民党幹事長当時、湾岸危機への日本の対応の不十分さを認識し、人的活動を含む国際貢献の必要性を主張したのが小沢氏だ。国際社会から高い評価と期待を集めるインド洋での補給活動を、政府・与党の攻撃材料とした問題設定にそもそも無理がある。そういう意見は民主党にもあったはずだ。

 国際的な信用や国益にもかかわる外交・安全保障のテーマについては、政権側と同じ土俵で議論できる。政権政党を目指す民主党がさらに成熟することが、あらためて求められている。

 ≪問題は中選挙区の復活≫

 今回の大連立論で見逃せないのが、実現した場合には小選挙区制を中選挙区制に戻すというテーマが付随していることだ。首相も小沢氏も明確にしていないが、与党幹部からはそれを前提とした論評が相次いでいる。

 中選挙区制復活という考え方は、政権交代可能な二大政党制を確立する道筋を放棄することにつながる。大連立に参加した議員らを、その後の選挙でどう振り分け、生き残りを図っていくかという側面が露骨に見える。

 有権者を無視したものであり、大連立の目的が政権の延命にあると受け止められかねない。

 夏の参院選で自民党が大敗した時点から、「政策実現のための新体制」として首相が大連立論を温めていたようだ。展開しだいでは、自ら政権の危機を招くリスクを冒して大連立論に踏み込み、国政の停滞を何とか打開しようとした決断は評価したい。単に政権維持を図る目的とはいえまい。

 いずれにせよ、党首会談の目的や内容について、有権者には分からない点が多すぎる。

 会期末を控えた国会の見通しは不透明だが、両党首による初の党首討論が予定されている。

 両氏はこの場を使い、密室での党首会談を再現するような気持ちで、国政への思いを開陳すべきだ。

 それなくしては、引き続き求められる政策協議の道は閉ざされかねず、対立ありきの不毛な現状からの脱却が困難となる。

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石田ふたみ