『日々の映像』

2007年10月27日(土) 相撲協会の危機

 時津風部屋の力士急死問題は、人権感覚はゼロの集団が引き起こした恐るべき事件である。大相撲の時津風部屋の力士急死問題で、死亡直前の「ぶつかりげいこ」を目撃した男性が24日、朝日新聞の取材に「けいこではなくリンチのようだった」〔10月25日朝日から〕と証言している。

 男性は26日午前、同部屋の総げいこを見学した。見学時間が終わって宿舎の駐車場にいた午前11時ごろ、「ギャー」と大きな悲鳴が聞こえたため土俵に戻ると、斉藤さんが土俵上で暴行されていた。3人の兄弟子が斉藤さんを取り囲んで投げ倒し、繰り返し殴るけるの暴行を加えていた。斉藤さんは「アー、アー」とうめき声をあげていたというのだ。

 最大の問題点は前親方が土俵脇のいすに腰掛け、暴行の様子をじっと見ていたという点である。リンチ死の顛末はどうなるのか。相撲協会の門をくぐる若者が限りなくゼロになるので無いか。今回の事件は相撲協会崩壊の危機をはらんでいると思う。

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「けいこではなくリンチ」 目撃者が証言 力士急死
2007年10月25日07時59分 朝日
 大相撲の時津風部屋の力士急死問題で、死亡直前の「ぶつかりげいこ」を目撃した男性が24日、朝日新聞の取材に「けいこではなくリンチのようだった」と証言した。前・時津風親方=元小結双津竜、本名・山本順一氏=も居合わせたが、兄弟子の暴行を黙認していたという。愛知県警も男性から同様の証言を得ており、6月26日にけいこの名目で暴行があったことを示す手がかりとみて注目している。
 男性は26日午前、同部屋の総げいこを見学した。見学時間が終わって宿舎の駐車場にいた午前11時ごろ、「ギャー」と大きな悲鳴が聞こえたため土俵に戻ると、斉藤さんが土俵上で暴行されていた。3人の兄弟子が斉藤さんを取り囲んで投げ倒し、繰り返し殴るけるの暴行を加えていた。斉藤さんは「アー、アー」とうめき声をあげていたという。
 前親方は土俵脇のいすに腰掛け、暴行の様子をじっと見ていた。男性は同部屋のけいこを見て約30年になるが「明らかに相撲ではなく、いたぶっていた。こんなひどいことをなぜ親方は止めないのかと思った」と話す。
 男性によると、26日は午前10時半ごろまで時津風部屋の各力士による総げいこがあったが、斉藤さんは参加せず、土俵外でしこを踏んでいた。額が割れて顔は腫れ、腕や足など体中に切り傷や赤いあざがあったという。
 県警の調べでは、斉藤さんは同11時40分ごろ土俵上に倒れ、午後2時10分に搬送先の病院で死亡が確認された。前親方は県警や日本相撲協会に対し、25日夜の暴行は認めたが、26日は「通常のけいこ」と説明している。

[掲載]週刊朝日2007年10月26日号
[評者]永江朗
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■リンチ死と検死
[掲載]週刊朝日2007年10月26日号
 時津風部屋リンチ死事件は、遺族が時太山の死因に疑問を持ち、解剖を希望したことから明るみに出た。当初は急性心不全とされていたのだ。それが組織検査の結果、多発外傷によるショック死だと判明した。しかもこの事件では、部屋側が時太山の火葬を遺族に申し出たと伝えられる(元親方は否定しているようだが)。もしも遺族が火葬を了解していたら、事件が発覚することはなかった。
 岩瀬博太郎・柳原三佳『焼かれる前に語れ』は、日本の検死システムのずさんさについて、司法解剖医が語った本である。岩瀬への取材等をもとに、ノンフィクション作家の柳原が文章にしている。
 述べられていることはきわめてシンプルである。日本では変死体を解剖することがとても少ない。変死体とは、病院以外の場所で亡くなった遺体のうち、末期がんなど明らかに病死とわかるものを除いたものをいう。変死体が発見されると検察官(実際には警察官)が検視する。そのうち、事件性が疑われる遺体だけが解剖される。
 最初の検視の段階で見落としがある。警察官の多くは法医学の専門教育を受けていないし、そもそも専門家だって外見だけで事件性の有無を判断するのは難しい。日本の検死システムが根本的に間違っているのだ。しかも、解剖のための設備も予算も極端に少ない。警察の依頼を受ける大学は、解剖をすればするほど赤字になる。
 解剖して本当の死因が解明されたところで、死者が生き返るわけではない。しかし、第2、第3の事件や事故を防ぐことにつながる。本書ではパロマ事件についても触れられている。パロマの欠陥湯沸かし器のために一酸化炭素中毒死が多発した事件である。最初の犠牲者について警察が下した判断は心不全。遺族が司法解剖を希望したのに、警察は受けいれなかった。2人目以降の犠牲者については、パロマだけでなく検死システムも犯人ではないのか。
 リンチ死だって時津風部屋だけなのか。他の部屋、あるいは他のスポーツではどうなのか。

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力士急死:愛知県警の初動捜査を批判 警察庁長官
 大相撲時津風部屋の序ノ口力士、斉藤俊(たかし)さん(当時17歳)が急死した問題で、司法解剖を行わないなど愛知県警の初動捜査のあり方が批判されていることについて、警察庁の吉村博人長官は18日の記者会見で「多少なりとも犯罪性が疑われる場合は司法解剖を行うように警察庁として指導している。愛知県警は死因についてより慎重に判断をすべきであった」と述べた。
 この問題では同県警犬山署が、事件性の判断を専門とする県警捜査1課の検視官(刑事調査官)に出動を要請せず、検視官室に遺体の写真電送だけをしていたことが分かっている。
 吉村長官は現在、全国警察に147人いる刑事調査官について、今後増員を図る方針を明らかにするとともに「間違っても警察の扱う死体で犯罪を見逃すことのないようにしたい」と強調した。【遠山和彦】
毎日新聞 2007年10月18日 18時26分 

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石田ふたみ