『日々の映像』

2002年12月31日(火) 余   録

 12月3日「イスラエルはもはや戦時下の国家運営の段階」と書いた。パレスチナとイスラエルの武力衝突で死者が2600人以上となっている。この内訳はパレスチナ側の死者1934人、イスラエル側678人。(AP通信から)しかも、イスラエルの死者の約半数は自爆テロの犠牲者だ。

 そして今回、アルカイダがイスラエルの民間航空機にミサイルの攻撃を加えたのである。この波紋は計り知れない。アメリカの航空業界もミサイル回避システムの導入という経済的な負担を求められることになる。

 このアルカイダのミサイル攻撃の犯行声明がインターネットに掲載されたが、その思考にしばし考え込んだ。声明はこうだ。「アルカイダ戦士のネットワークが、4年前、ユダヤ・キリスト教十字軍連合が攻撃を加えた同じ場所に再び戻り、強烈な一撃を与えた」その上で「今回はユダヤ人に対するものだ」としている。

 4年前のアメリカ大使館爆発攻撃を「キリスト教十字連合」と呼んでいる点である。ここでも記述したことがあるが、ヨーロッパのキリスト教文明圏がイスラム文明圏を攻撃したいわゆる十字軍の戦いは、10〜12世紀にかけてのことだ。アルカイダにとっては、今から800年以上前の十字軍の攻撃を未だに根に持っているのだろうか。一部のイスラム教過激派の関係者にとっては、800年の時空も関係ないようだ。少なくとも、50年、100年前の出来事に怨念を持つようでは世界の平和などはあり得ない。どうしたら、この怨念の矢を抜くことが出来るのだろう。アメリカ大統領の「テロとの戦いに勝つ」というだけでは、際限のない殺し合いが続くだけだ。しばらくはこの殺し合いが続くことは避けられない。いったい、いつになったら人類は、「もう殺し合いは止めよう」という結論を導き出すことが出来るのだろう。

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 12月5日に記述した日立の元社員が訴訟したようなケースは、今後も増えていくようだ。企業を訴えた代表的な例は、世界的な発明といわれる青色発光ダイオードである。特許法は従業員の職務発明について、特許権は従業員にありその特許権を会社に譲る場合は相当の対価を受け取ると定めている。しかし、研究者1人と巨大企業という力の関係で発明の対価が冷遇されてきたことは確かである。ノーベル賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんの発明への報奨金は1万円であったことは、すっかり有名になった。

 優秀な技術者、研究者をいかに生かし、特許権などの知的財産を企業の利益につなげていくか・・・これは企業の最重要課題だ。研究者に最も働きやすい環境を整えているのは、ホンダでないかとの印象を持っている。

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 13日不眠と酒と題して少々記述した。酒は多少プラスの面もあるが、マイナスの面も数多くある。酒は小さな生命の誕生である妊娠時には、強いマイナスを与える。厚生省は、うつ伏せ寝と喫煙、人工乳が乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子としている。

 ところが、これ以外に酒も危険因子の1つであるとの発表があった。米国立小児保健発育研究所が「92年〜96年にSIDSで死亡した33人と健康児66人について、妊娠中や出産後の母子の生活を分析した」(5日 朝日)という。
 
 その結果は、妊娠前後の飲酒はSIDSのリスクを6〜8倍に高めるのだ。ここまではおおよそ理解が届くが次の記述に驚いた。「妊娠前3ヵ月に酒を飲んでいて、妊娠後に禁酒した人でもリスクは6.2倍になった」(同)という。素人なりに補足すれば、生命の誕生にとっては酒は1つの毒として作用するのである。

 妊娠がわかって禁酒した人でも子どもの突然死のリスクは酒を飲まなかった人に比べると6.2倍になるというから困ったものだ。妊娠したら子供を産もうとの意志を持っている女性は、酒を飲んだらダメなのである。

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 三条で9歳だった女児を誘拐し、9年余り監禁した事件があった。この加害者である佐藤宣行被告(40)に東京高裁は、懲役14年とした新潟地裁の判決を破棄して、懲役11年を言い渡した。

 減刑の理由は「一審は法定刑を超える量刑を科しており違法」とした。その上で「国民の健全な法感情からして、逮捕監禁罪の法定刑の上限が懲役10年では軽すぎるなら法改定する他ない」としている。

 この逮捕監禁罪の法定刑(10年)を定める時、まさか9年2ヵ月もの監禁があるとは全く想定されていなかったのだ。9年もの間監禁されていた少女(女性)の精神的苦痛は想像を絶する。この量刑が11年の刑であることはいかにも軽いとの印象を持った。

 しかし、佐藤被告が出獄するのは満50歳になってからだ。出獄してもまともに職業に就くことは考えられない。どうして生きていくのだろうか。ただ生きていくだけであれば、社会に出るより監獄の中の方が住み心地は良いように思う。佐藤被告が出獄すると、法律の制裁より厳しい社会的な制裁が待っているように思う。

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 僅かな紙幅であるが、不良債権処理に関することを12月17日と20日に記述した。来年8月までに新設する「産業再生機構」は、大企業の倒産の影響を最小限にしようとの側面があるが、膨大な融資をした主力行に対しては、かなり厳しくその責任を追及する構えとなっている。見方によっては、行政という権力者側が大手行に懲罰的な責任追及を行なおうとしているように映る。

 その第1が20日に記述したように、3年後最終段階で年間のキャシュフローの10倍以上の借金のある債権は買い取らない。お前達の責任で処理せよ!というものだ。

 次に買い取る対象は、銀行が金利減免などをしている要管理債券があるが、「この内機構が買い取るのは非メイン銀行が抱える債権だけ」(16日 日経)であるという。

 1兆円余りの負債を抱えている企業のメイン行の貸付は、3行余りで5000億円前後のことが多い。非メイン行が融資している5000億円は買い取るが、メイン行の融資は買い取りの対象外なのだ。

 大企業の倒産の影響を軽くするため、1兆円を超える債務企業の借入をメイン行と産業再生機構にますは集約しようとしている。谷垣禎一産業再生担当相は、機構が銀行から不振企業の債権を買い取る資金枠について「10兆円を確保した」(同)という。

 行政がこれだけ具体的に関与することがよいことなのかどうかは少々の疑問が残る。少なくとも、機構が買い取る債務の企業は、不良企業としての烙印が押されるので、このハンデーを抱えて生き残ることは難しいと思う。

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 今年も今日で終わりだ。この1年間で最も大きな出来事は、拉致被害者5人の帰国だ。ここでは1年を概観する意味で、ヤフーが取り上げた国内10大ニュースをメモしよう。

 1、 初の日朝首脳会談、拉致被害者5人が帰国
 2、 日韓共催ワールド・カップ、日本決勝トーナメント進出
 3、 初のノーベル賞ダブル受賞の快挙
 4、 牛肉偽装事件、食品不正表示も横行
 5、 疑惑絡みで4議員が辞職
 6、 鈴木宗男衆院議員を逮捕
 7、 原発トラブル隠しで運転停止広がる
 8、 総合デフレ対策決定、株安バブル後最安値
 9、 倒産相次ぐ、失業率5.5%で最悪水準
10、 住民基本台帳ネットワーク稼動

 この10大ニュースの中で、来年も引き続き大きなニュースとなるのは、北朝鮮の問題であろう。脅しに屈する米国ではない。米の空母が日本海に集結する事態になるかも知れない。

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石田ふたみ