『日々の映像』

2002年12月05日(木) 日立は元社員に発明の対価を

 元社員(研究者)が、自身の発明に対して正当な対価を払えと退社してから会社を訴える・・・訴訟された会社にとっては社内の士気の面で少なからず影響が出ると思う。

 CDなどの光ディスクにレーザーを当ててデーターを読み取る特許をめぐって、日立製作所の元主管研究員の米澤成二氏(63)が、自身の発明による特許権を譲渡した代金として、9億7000万円を支払えと訴訟した。

 詳しくは省略するしかないが、東京地裁は特許権で得た利益の約14%に当たる「3490万円」(11月29日毎日から)の支払いを命じた。この金額は裁判所が認定した発明の対価としては過去最高額であるという。

 この判決に対して、日立は控訴の方針のようだ。日立の知的財産権本部長は「当社の発明者への報奨制度は手厚く、(判決の)金額は高すぎる」(同)と強く反発している。

 同本部長の説明によると、日立が他社から受け取る特許料収入は年間200億円余りで、「うち6億円を社員や元社員に還元している」(同)そして、「報奨制度を見直す考えはない」と明言している。

 会社側に立ってこれらの記事を読むのであれば違和感はないのかも知れない。しかし、研究者の立場から見れば「特許料収入200億円の2%(6億円)しか還元していない」と受け止めるのではないだろうか。

 今回、日立を訴えた元社員は1973年〜77年にかけ3つの発明を完成させ、社内規定に従って特許の権利を会社側に譲渡したが、報奨金として受け取ったのは僅か238万円でしかなかった。

 原告の元日立製作所主管研究員の米澤成二氏は、判決後の記者会見で「メーカーが特許をタダと考えている限り、若い研究者に希望がない」(時事通信)と訴えている。米澤氏は更に「事業を立ち上げる鍵になる特許がこれだけの額(238万円)では、若い研究者は苦労しようとは思わない」(同)と日立を批判していた。前段の会社側の言い分が正しいのか、原告の訴えが正当なのかの判断は読者に任せるとしよう。

 日本のメーカー総てが、米澤氏のいうように特許をただと考えているわけではないと思う。報奨金の云々もあるだろうが、要は企業が研究者に働きがいのある環境をいかに作っていくかだと思う。

 ここ2年余りIT不況で半導体、通信に軸足を置いて来た日本の電機メーカーは、巨額の赤字を計上した。しかし、このような環境の中で「着実に利益を出している所がある。ソニー、三洋電機、シャープの3社だ」(エコノミスト12月3日号)とあるように、この3社は独自技術の商品を研究者群が生み出しているのだ。10年単位の企業の差は、研究者の成長と質によって決まるように思う。

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石田ふたみ