やんの読書日記
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ローズマリ・サトクリフ作 猪熊葉子訳 岩波書店
幼いときにかかった病気が元で 歩行が不自由になったサトクリフは 海軍将校の父、想像力豊かな 厳しい母に育てられ 細密画家として出発、失恋を乗り越えて 作家になるまでのことが書かれている。
ローマンブリテンのアクイラや 自らの生き映しであるような 「太陽の戦士」「はるかスコットランドの丘を越えて」 「イルカの家」の主人公たちが この自伝の中に現われている様だった。 サトクリフの作品のテーマは 生きがいを見失った少年がいかにして 自分の居場所を見つけ、生きる道を見つけるかということだが 自伝の中からは、必死に生きようとする彼女自身の向こうに その母の献身的でまっすぐな姿がはっきりと見える。 父の仕事の関係で、何度も転居し、入院生活が長くて 同じ世代の友人がいなかったというのが 自分の居場所という観念を生んだのだと思う。
父の故郷であるデヴォン州のビディフォードに 移り住んだときの家のこと、あたりの景色のこと その表現が心に焼きつくほど美しくてやさしい。 サトクリフは、この家に居場所を見つけ 作家になることを決意したのだ。 父の故郷の風景と厳しすぎる母、 想像力豊かな母の聞かせてくれた ケルトや北欧の物語がサトクリフの物語の原点なのだ ということが理解できた。
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