KALEIDOSCOPE

Written by Sumiha
 
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  長ッ!


2004年04月06日(火)
 



◆僕から気持ちは重すぎて・1

 不自然に見えた。
 嫌いならまだわかる。いや、嫌悪でなくとも彼女と同じ気持ちを持てないのだとしたら。素っ気無い言葉も態度も、核心に触れさせない注意深さも慎重さも、理解できる。
 GSGにはたくさんの規則がある。例えば期限以内に魂を案内し戻ってくること。例えば生前に繋がりのあった者に自分の正体を明かさないこと。例えば――必要以上に生者と関わらないこと。
 真実、彼女の気持ちを受け入れられないなら、きっぱり拒絶するはずだ。そういう男だ、知っている。規則だからと彼女を遠ざけるのは逃げにしか見えない。
「何故だ」
 不本意ながらも相棒として組み早3年。この男の本心など一度として見えたときは無い。曖昧なセリフや意味深な行動に何度キレそうになったか。怒りを覚えても冷静に真正面から訊こうとは思わなかった。正攻法で訊いても答えそうにないという理由で。
 だが今日は違う。下手な手など使うだけ無駄だ。真正面から訊かねば、こちらの手数を全て見せなければ無意味だ。
 悔しいが俺ではこの男を相手取って腹の探り合いなどできない。
「何がです」
 澄ました顔はいつもと何も変わらない。この顔で真実をぼかし問いを煙に巻き、彼女の真摯な想いをさらりと躱す。
 これが照れ隠しだと言うなら大した捻くれ者だ。実際、性格も根性も捻じ曲がっている。
 だが彼女に対する態度は捻くれ者だからの一言で済ませられない。
 中途半端に傷つけ中途半端に救っている。
「好きなんだろう、あんただって」
 誰を、とは言わない。言わなくても通じる。
 何が何でも聞き出してやる。自分のためではない。こちらが死人だとわかっていても想いを貫く彼女に対する敬意だ。ふざけた理由で彼女と向き合わないと言うなら許さない。
「何の話です」
 こちらとて最初から素直に話すとは思っていない。すっとぼけた対応は予想済みだ。だからさして腹は立たなかった。
 場所は閑散とした公園、空き時間の休憩時間だ。午後9時という時間では人通りもない。誰かに話を聞かれる心配も無ければ邪魔が入る心配もいらない。
 いま訊かねばいつ訊けというのか。
「同じ気持ちを持てないなら、何故はっきり拒絶しない。バイトを辞められたら困るだなんて理由で逃げるなよ。リナがあんたに拒絶されたくらいで辞めると本気で思ってる訳じゃないだろう」
 コンタクトを取れば飛びつかんばかりの勢いで来た。共に過ごせる時間を自分からふいにしたくないと。何があっても笑顔で。せっかく会えるのに楽しい気分を台無しにしたくないと、そう言って。
『だってあたしが役に立てるのよ』
 利用しているだけなのがわからんあんたでもないだろう。冷たい言葉を突きつけても。
『利用してるだけ? 上等よ、いくらでも利用してって頼み込みたいくらいだわ。それでレゾのしごとがスムーズに進むならあたしも嬉しいもの。このしごとが楽しいばかりじゃないって、……無関係の、あたしにさえわかるのよ。負担を少しでも軽くできるなら、それで充分だわ』
 意思の強さを窺わせる瞳を片方閉じて、でも秘密ねと。
『助けられる、なんてあたしの思い上がりだから』
 ほんのすこし寂しそうに。
 苦しくない筈がない。辛くない訳がない。
 相手は死人だ。実らない恋、報われない想い、明るい未来は望めない。
 レゾも、イエスともノーとも言わない。はぐらかすばかりで決着をつけさせない。ぐらつくと絶妙なタイミングで手を差し伸べる。そのくせ、肝心の回答を一向に寄越さないまま。これでは諦めるに諦められない。
「はっきり言わない方が残酷だ」
 ともすれば消えそうな淡い希望を持たせて、いつか、もしかしたら、という期待を抱かせて。応えるつもりが無いなら突き放した方がまだ幸せだ。
 突き放さないのは突き放せないからではないのか。拒まないのは拒めないから。何故なら同じ感情をこの男も持っているから。
 ならば何故、隠すのか。
 言えばいい。告げればいい。応えてやればいい。規則だからなどと卑怯な逃げ道を用意せず。
 並外れた行動力と群を抜いた頭の回転の早さを持つふたりなら。活路を見出せるかもしれない。死者と生者という枠を越えて、制限を越えて。ふたりで生きられる術を見つけられるかもしれない。
 よっぽど建設的だ。何も考えず努力もせずリナをのらくら躱すより。
 何故だ。
「――――ゼルガディス」
 思わず姿勢を正していた。
 穏やかな声は変わらなかった。表情も、まったく。なのに何かが変わった。
「あなたは確か、入社してから今年で4年目ですね」
 答える気になってくれたのか。体が緊張で強張った。
 ここで答えを間違えたら有耶無耶にされ終わる。この先もずっと答えてくれないだろう。それは避けなければ。
「……ああ」
 レゾは肯定に満足そうにゆっくり1回頷いた。
「研修期間中に何を叩き込まれたか、覚えてますか」
 話がずれている。指摘は簡単だ。俺の問いに答えろと言えば済む。
 これまでと同じくレゾの思惑など見当もつかない。答えてくれないのではという焦りと、また真面目に取り合わないつもりかという怒りをなんとか堪える。
 詰問は話の先を聞いてからでも遅くない。
「当然だ。GSGの奥義と規則だろう。忘れたら仕事にならない」
 正直、奥義はともかく、覚えて何の意味があるのかという規則もある。しかし覚えなければクビだ。仕方無しに覚えた。規則の一部に疑問を残したまま。未だに理解不能の規則がごろごろある。
「そうですね。雲隠れは無用のトラブル回避のため、地獄耳は死人の状況を探るため。奥義は頻繁に使うのであなたにも必要性を理解できるでしょう」
 そこはかとなく馬鹿にされた気がする。
 ――我慢だ、我慢。本心を聞くまでの我慢。
 レゾが何を言いたいのか、まだ見えない。何を考え奥義だの規則だのという話を始めたのかも。
 全て聞いてから言いたい放題言ってくれたなと反撃に転じればいい。
「では規則は? 必要性を理解できない規則も多いのではありませんか」
 微笑を向けられ眉を顰める。良からぬ企みをくわだてているときの笑みだ。決まってろくな提案をしない。
 我知らず身構える。
「……そうだな」
 答えねば話が進みそうにないから答えた。首肯は癪だったが事実は事実だ。
「では何故、規則が作られたのか。それを考えたことはありますか」
 規則が作られた理由?
 考えたってわかるはずもない。作った当人ではないのだから。
 仕事は道案内に限らない。デスクワークだってある。無駄な思考に時間を割ける余裕など無い。
「無いでしょうね」
 わかっているなら訊くな。
 つくづく性格の悪い男だ。こいつのどこに惚れる要素があるというのか。リナには悪いが見る目が無い。それとも本性を知らないだけか。ならばリナを責めるよりレゾが巧妙に本性を隠す手口を褒めねばなるまい。
 褒めるなんぞ死んでもごめんだが。いやもう死んでいる。……違う。そうではなく。
「規則は必要だから作られたんですよ」
 視線が外された。
 初めて、かもしれない。レゾから視線を外し、更にレゾが人の目を見て話さない場面を見るのは。
「生前の関係者に必要以上の接近が許されていない理由ならわかるでしょう。言うまでもありませんが、私達の死に対する彼らの心の整理を妨げるからです。わからないのは――そうですね、やむなく接触してしまった生者から理由の如何を問わず何も受け取ってはならない、辺りでしょう」
 理解できない規則は2つ3つに留まらない。レゾが言った規則もその内の1つだ。
 おとなしく頷いて続きを促す。
「形に残る品は思い出を作ります。受け取る側の私達にも、渡した側の生者にも。もし生者が私達と必要以上の関わりを持ちたいと思ったらどうするか。通常は私達との連絡手段はありません。諦めるしかない。ですが偶然、再会してしまう可能性もあります。私達は生者の世界に干渉できる手段を持っていますが、万能ではありません。偶然やひとの心までは操作できません」
 リナとの出会いを言っているのだろうか。そう言えば詳しい話は一度として訊かなかった。レゾとリナは俺がレゾとパートナーを組んだとき以前からの知り合いだった。
 出会いの時に何かあった――と考えるのが自然か。この話の流れからすると。
「贈り物をし、受け取る。この流れがあると無いとでは、再会したときの互いの心情もずいぶん変わってきます。贈り物が贈り主と我々に新たな関係を築くきっかけになり、生者が生きていく上で邪魔になる感情を芽生えさせる原因にもなりかねません。生者に必要以上の関わりを持ってはならないという規則にも通じます。この規則はそういう理由で作られました」
 前半は理解できた。引っ掛かったのは後半だ。
 生者に必要以上の関わりを持ってはならない。何故?
 対象の生者がこちら側の生前の関係者と関わりを持っていなければ何の問題も無い。こちらの正体も目的も知られているなら利用しない手はない。むしろ仕事の能率アップに繋がる。そう、リナのように。これが決め手となり上司も結局リナのバイトを許可したのだろうから。
「死者は生者の世界に介入してはならない。仕事内容と矛盾しているといつか文句を言ってましたね」
 研修期間を終えたばかりの新人だった頃の話だ。
 昔の話を持ち出してくるなと無言で睨んだ。言葉に出せば話の腰を折ってしまう。
 こちらを見ていないレゾには眼差しで抗議しても伝わらなかった。
「この規則は矛盾しているようで正しいのですよ。死者が生者に恋をしたら、あるいは生者が死者に恋をしたら。どうなると思いますか」
 まさにリナとレゾの現状だ。突然核心に迫った。
 どうなるか、と訊かれても。
「所詮は生きる世界が違います。言葉通り。たとえ想いが通じ合っても、結婚もできない。子供もつくれない。共に歩める未来なんて存在しないのです」
 ……それが、理由か。リナを好きでも好きだと言わない――言えない理由か。
 好きだから突き放せない。決定的な言葉を言えない。言って傷つけたくない。細い糸で繋がっている関係を修復不可能なまでに追いこみたくない。
 好きでも受け入れられない。死者だから。肉体は仮の器だ。言うなればマリオネットと同じ。人形は人形であって自分達の本来の体ではない。体を持たない死者と、肉体をよすがに生きる生者と。同じ道は歩めない。2つの道は重なっているように見えても単なる錯覚に過ぎない。
「それでももしも強引に未来を作ろうとしたらどうなるか」
 思考に沈んだ意識をはっとレゾに戻した。
「どうなると、思いますか」
 レゾがこちらに顔を向けた。
 死者が生者と、または生者が死者と強引に未来を作ろうとしたら。
 強引に。
「――――こんな昔話があります」
 目が再びついと逸らされた。
「いつものようにお迎えに行った同僚が制限時間をすぎても戻らない。時間はきっちり守る性格で、これまで1件も失敗が無く、いずれ1課に昇進するという噂のあるかただったそうです。その内に1課が騒がしくなりました。慌しく出て行く1課のひとりに話を聞くと、どうもガス爆発か何かで大量の死者が出たらしく、深夜のために救出作業が難航し、死者はなおも増える見込みだと。そろそろ2課にもお呼びがかかるから準備しておけと言われたそうです」
 聞きたくはなかった。
 思考は霧の状態でまとまっていない。ただなんとなく先を予想できた。だから聞きたくなかった。
「その通りにいくばかもしない内に召集がかかりました。デスクワークに励んでいた者、既に地上で仕事中の者、果ては非番の者にまで。出動場所は帰ってこない2課の者が向かった先でした」
 もういい。聞きたくない。
 自分から聞き出した話でなければ止めていた。
 問い詰めたのは自分だ。最後まで聞かなければならない義務がある。
 最後まで。
「真面目と評判のそのかたは、どうも最近悩みがあったようでした。気づけば溜息をつき仕事の話も上の空。悩みがあるなら打ち明けてみろと言われても頑なに首を横に振る。深刻さが無ければ恋煩いそのものでした」
 死者が生者と、生者が死者と強引に未来を作るにはどうしたらいいか。答は至って簡単で単純だ。本来は重なっていない道を重ねればいい。同じ道を歩めばいい。つまり。
「あとでわかった話ですが、そのかた自身が引き起こした事件ではなかったようです。要因のひとつではあったそうですが。言い訳にはなりませんね。仕事に行った先で偶然、生者の想い人に会い、喫煙を注意された。仕事の関係上、そのときは実体だったようです。彼女は愛煙家で携帯灰皿も持っていたそうですが、煙草を取られてしまったら無意味ですね。煙草は火がついたまま投げ捨てられ枯葉に引火しました。建物の裏という場所柄のせいか雑草は生え放題。更に運が悪くも傍にはガスタンクがあり――」
 レゾは話しながら拳を胸の前まで持ち上げ、「ドカン」言うと同時に手を開いた。
 死者が生者と。生者が死者と。同じ道を歩むための方法はひとつしか存在しない。奇しくも問題の彼女はその方法を手に入れた訳だ。意図していなくても。
 最悪の結末ではない。まだ。意図していなかった、というところに救いがある。
 もしも意図があったら。死者か生者のどちらか、もしくは双方ともが同じ道を歩む為に行動を起こしていたら。
 死者が生者を殺す。生者が自殺する。どちらにしろろくな選択ではない。
 ――――そう、か。だからか。
 上司が生者のバイト、つまりリナの存在に渋い顔をしていたのも。レゾが積極的にバイトをこき使わない――リナに連絡を取りたがらないのも。生者のバイトがいると話した時のまわりの反応も。
 合点がいった。
 規則の意味がようやくわかった。何よりも厳しく覚えろと言われた理由が。ようやく。
 レゾがリナに何も言わなかった理由も、わかった。
 ふ、とレゾが息を吐いた。
「必要の無い規則などありません。必要だから作られたんです」
 もしかしたらレゾが新人だった頃の先輩だったのかもしれない。彼女、と言った。もしかしたらレゾは……。
 邪推だ。本題には関係ない。
「死者は生者の領域を侵すべからず。関わりを持ってはいけないんですよ」
 たかが色恋沙汰と言えない問題だ。
 レゾがリナへの態度を一歩間違えたら。今度こそ最悪の結末を迎えてしまうかもしれない。
 奥歯を噛み締める。もう何も言えない。口出しする資格は無い。権利も。
 この先、どうなるのか。どうするのか。
 ただ見守る以外に何もできないと、知った。

――つづく。(……)


長い。これの三分の一ほどで終わる予定が。あまり書けないなーなんて思っていたのに。私の予想はどうしてこうも当たらないのか。予想っつーか。計画性の無さっつーか。後半説明台詞多すぎたのが敗因か。うぎゃー。つかこれちゃんと書いてたらほぼオリジナルになってしまう。まあパラレルって時点でなんつーか。……うわーん!(泣くな)

タイトルは「ハナミズキ」から。HEY×3を見なければ書こうと思わなかった話です。歌自体は聴けませんでした。悔! え、CD買え? うーうううう。迷い中。それでなくても五月には多大な出費予定が……誕生日と母の日があるっちゅーのに。つーか今月もピンチ。先月の某のたんぜうびぷれじぇんとを買っとらんのです。まずひ。

本文を読めばわかる通り「お迎えです。」とすれやずの二重パロです。キャラの性格(及び性別)は横に置いといて、一部の人間関係のみに注目してパロってみました。ナベ→赤法師、ゆずちゃん→魔剣士、さっちゃん(笑)→リナ(検索除けのため一部名前表記を変えてます)という配役で赤法師×リナバージョンを書いてみました。この漫画、いろんなカップリングで書けそうです。とゆことで書きたくなったら別のキャラを当てはめたりして遊ぼうと思います(笑)。とりあえづ予定としては剣士×姫。ネタバレしない方がいいのかな。んでは書く日をお楽しみにと言って逃げます(オイ)。

書いてる内に長くなり前後のつじつま合わせに苦労しました。なんか変だ矛盾があるぞと思ったら教えて下さい。(^^;)

つづくになってますが、この話はこれで終わりです。一話完結みたいなもの。同じ設定を使った別のエピソードがあるよっつー意味で続くと書きました。

あ、元ネタ(「お迎えです。」を)知らなくても読めるように書くつもりです。つーかこれ一話目に持ってきていいのか。めっちゃネタバレやんけ。ご存知無い方は是非ご一読を。全五巻です。おもしろいっす。ドラマCD欲しいんだけど微妙。そいや天パピも出てるんですよねえ。しかも今年の一月に。……微妙……。



◇雑談

小説が長すぎるのでここは短めに(文字数制限に引っかかってしまう)。

おもしろい夢を見た、はずなんですが、うすぼんやりした断片(とも言えないもやもやしたもの)しか残ってません。んー悔しい。小説のネタにできそうなのに。(悔しいってのはそういう意味かい)

寝ないで書いた為(三時間くらいで書き終わると思ったら甘かった)眠いです。んーもーうBLACKBLACKもコーヒーも全然効果ないんだから。実証済みだけど縋りたくもなるさ。この眠気どうしてくれようホトトギス。リナなら鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス。ルークも。彼は時と場合により殺してしまえホトトギス。姫は鳴かせてみせようホトトギス。魔剣士はそんなのほっとけホトトギス(笑)。おあとが宜しいようで。てけてん。



BGM無し。パソの電源つける前までは「翡翠」「もらい泣き」の二曲をエンドレスリピート。
 



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 廻れ廻れ独楽のように  
 止まった時が命尽きる時  
 廻れ舞えよ自動人形 
 踊り疲れて止まるその日まで