都市対抗野球と地域密着性 - 2003年09月02日(火) 都市対抗野球の決勝戦・シダックス対三菱ふそう川崎を観に行った。 今回の都市対抗野球の話題を独占したシダックス。2月から野村監督が本格的に指揮をとり、投打の軸を確立させ東京第一代表として都市対抗出場を決め、破竹の勢いで決勝戦まで勝ち進んだ。投の軸であるエース野間口は20歳の本格派右腕。関西創価高では2001年センバツ4強入り。140キロ台後半の速球と曲がりの大きいカーブ、鋭いスライダーが武器。顔も結構イケメン。スター性を感じさせる投手だ。一方、打の軸はバルセロナ、アトランタ両オリンピックで金メダルを獲得したキューバの主軸、キンデランとパチェコ。長嶋茂雄氏が巨人監督時代に喉から手が出るほど欲しがっていたキンデランがシダックスの4番に座る。 迎え撃つ三菱ふそう川崎は打線が充実したチーム。木製バットを苦にしない西郷、梶山、桑元ら、勝ち方を熟知しているベテラン勢に加え、俊足巧打で走塁センスも光る新保と、新人・渡辺の1,2番コンビが、つながりとリズムを作り、層の厚みを感じさせる打線となっている。 東京ドーム周辺には、今大会に出場した32チームのチーム名の入った旗とチーム紹介パネル、都市対抗に出場した歴代の名選手を紹介したパネルがズラ〜と並んでいた。日本生命時代の福留孝介を紹介したものがあったのだが、名前が「福留浩介」となっており、ちょっとかわいそうだった。 バルコニー席券を買い、一塁側に座った。試合前のセレモニーが行われており、都市対抗野球・決勝戦の独特の緊張感がドーム内には広がっていた。周りを見渡していると、バックネット裏のバルコニー席に長嶋茂雄氏がいた。クリーム色のスーツが鮮やかだった。 試合が始まった。シダックスの先発はエース野間口。三菱ふそう川崎の先頭バッター伊藤を空振り三振に打ち取り、上々のスタートを切った。最後の球の146キロストレートはキレも抜群でなかなかとらえられそうもない。一方、三菱ふそう川崎の先発は7年目の右腕エース佐藤。MAX136キロ程だが、制球力で勝負する技巧派ピッチャー。1回のキンデランとの対決ではデッドボールを与えてしまったが、なかなか強気のピッチングを見せる。野間口、佐藤共に落ち着いた立ち上がりを見せた。 試合が動いたのは3回のシダックスの攻撃。一番・庄田はショートゴロに倒れたが、続く二番・藤澤がしぶとくセンター前に運ぶヒット。三番・入江の時に一塁ランナー藤澤がすかさずスチールを決める。入江が三振に倒れ、続く四番・キンデラン。三球目の、おそらく外しに行った高めのストレートを豪快に振り抜く。打った瞬間それと分かる弾丸ライナーの2ラン本塁打。今大会の勢いを象徴するかのように、シダックスが2点を先制した。 2点をもらった野間口は、5回まで相手打線を2安打に抑え危なげないピッチングを披露していた。しかし、僕が気になっていたのは野間口の球数。1回・25球、2回・36球、3回・18球、4回・18球、5回・18球と5回までにすでに115球を投げていた。試合巧者の三菱ふそう川崎打線は前半、野間口に多く球数を投げさせ、野間口が疲れを見せる後半に一気に攻めようという意図が感じられた。 5回裏のシダックスの攻撃。二番・藤澤が内野安打で出塁。三番・入江が送りバント。そして、前打席に本塁打を放った四番・キンデラン。左中間を破る2ベースヒットで二塁ランナー藤澤が生還。一点を追加し、シダックスのリードは3点となった。しかし、僕には今にも捕まりそうな雰囲気を出していた野間口を見て、このまま試合が終わるようには思えなかった。 その予感が的中したのは、7回表の三菱ふそう川崎の攻撃。九番・佐々木がレフトオーバーの2塁打を放つ。疲れの見える野間口は続く一番・伊藤にデッドボールを与えてしまう。そして、二番・根岸、三番・渡部に連続フォアボール。押し出しで三菱ふそう川崎は1点を返す。野間口の疲れは誰の目から見ても明らかだった。続く四番・西郷がセンター前にヒットを放つ。二人が生還し、遂に3−3の同点とした。 野村監督はここで遂に野間口をあきらめた。昨日の準決勝で野間口を温存したとはいえ、やはりこれまでの疲れを無視することができなかったエース野間口。しかし、彼はまだ伸び盛りの20歳。この経験は野間口にとって大きな財産となるに違いない。 その後も三菱ふそう川崎は2点を追加し、3−5とした。三菱ふそう川崎の「ここぞ」という集中打は見事だった。3塁側観客席にぎっしり埋まった三菱ふそう川崎の応援は最高潮に達していた。 3−5のまま、九回裏のシダックスの攻撃を迎える。バッターは七番・キャプテン松岡。PL学園ー青山学院大ープリンスホテルと野球エリート街道を歩んできた松岡。このままで終わるわけにはいかないという想いがバッターボックスから僕の座っているバルコニー席までひしひしと伝わってきた。 佐藤からリリーフした谷村が投げた6球目。松岡はそのボールを思いっきり叩いた。レフトスタンドに飛び込むソロホームラン。僕は久々に鳥肌が立つ思いをした。野球にはこれがあるのだ。本当に最後の最後まで勝負は分からない。 しかし、最後のバッター庄田が倒れ、4−5で三菱ふそう川崎が勝ち、3年ぶり2度目の優勝を飾った。三菱ふそう川崎が6安打に対し、シダックスは12安打。安打数ではシダックスが上回ったが、要所要所で安打を効果的に放った三菱ふそう川崎に軍配が上がった。それと、この試合は両チームノーエラー。決勝戦にふさわしい、高レベルの、好試合を展開してくれた。 都市対抗野球を生で初めて観たわけだが、一言で、「地域密着性」を非常に強く感じた。試合中、両チームの応援でシダックス側では「がんばれ!がんばれ!調布!!」という掛け声を何度も聞いたし、三菱ふそう川崎側では「フレー!フレー!川崎!!」という掛け声を何度も耳にした。こういった、一企業に対する応援にとどまらず、「都市対抗」という名の通り、その都市に対する応援もやはりこの大会の魅力なんだなと感じた。地域をあげて応援し、結果、そのチームは勝ち進み、その地域に活気を与え、そのスポーツ、企業が地域に密着する。僕はこの大会でスポーツと地域の関係性のあり方の原点を垣間見たような気がした。 社会人野球を取り巻く環境は今も厳しく、楽観はできないが、この都市対抗野球は日本のスポーツ界において、非常に重要な位置を占めていることは間違いない。 -
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