川底を流れる小石のように。  〜番外編〜  海老蔵への道!
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2004年05月11日(火) 脱皮の瞬間。

 11日夜の部。
 団十郎休演2日目。

 2日で人はこんなにも変わるものなのか?と驚いた。
 奇しくも団十郎休演前の9日夜の部に続き、11日の夜の部だったので、
 クッキリとその違いを見ることができた。

 口上。
 これまでの海老蔵は、ただただ自分が輝いていればよかった。
 すぐ傍らには、大きくて深く広い父・団十郎がいたのだから。
 
 幕が開き、一度顔をあげた海老蔵の、その表情。
 頬がややこけ、目の下には白塗りでもわかるクマ。
 それでも、その表情は確として、力強い。
 むしろ、陰や凄みが加わって、きりりと冴えている。

 ただ傍らには、団十郎さんがいるはずの場所に、空間が。。。
 海老蔵は口上の際、
 「この度の襲名を私よりも楽しみにしていた、父団十郎ですが、
  休演いたすことをお詫び申し上げます」とのべていた。
 その表情は、父の分までしっかり努めねば!という決心のような
 これまでとはまた違う、何か強いものを感じて、
 ぐっときてしまった。

 勧進帳。
 坂東三津五郎が弁慶を代役とのこと。
 
 はじめに登場した海老蔵富樫の表情も、何か違って見える。
 ぐっと凄みや落ち着きが増して、驚くばかり。

 弁慶といえば団十郎のでっかく大きく、どどーーん!男だ!みたいな印象が強かったのだが、、
 三津五郎の弁慶は、きっちり固く義経に従い、賢く聡くピリリと辛い、そんな印象。
 それにしても勧進帳を読む下りも含め、急遽決まった代役とは思えない、
 よどみない台詞、堂々とした力強い弁慶ぶりで、本当にびっくりした。
 歌舞伎の底力とでもいうのか。

 それを受けて立つ富樫の、この成長ぶりはなんだろう。
 
 父の弁慶と向き合っているときはなぜだか、
 「父の手のひらの中」というような面が無いとは言えなかった。
 9日の勧進帳では、弁慶と富樫のイキがあいすぎて、
 肉迫した雰囲気は大きくなっていたが、やや予定調和な印象もあったのかも。
 問答のあたり、富樫の語尾がはねあがり、それと一緒に顎もあがり、
 なんだか若すぎるような気がしたが、
 今日はそれが、ぐーっと落ち着き、富樫の冷静で誠実で賢い人となりが、
 より鮮やかになっている。

 「今は疑い晴れ申した」のあたり、
 初日の富樫を「瞬発力」と書いたけれど、ドラマチックな印象だったのだが、
 今日はぐっと渋く、鋭く深く、男らしく感じられた。
 (どっちもよかったな。どちらも好き)
 瞬発力に頼らなくとも、魅力ある富樫だ。
 弁慶の人となりに感じる富樫だけれど、
 それと重ねて、海老蔵も
 三津五郎さんの役者としての素晴らしさに感じているのでは?と思ったり。

 富樫が引っ込み、弁慶の見せ場。
 なんだろう、ますます三津五郎さんが大きくなっていくようだ。
 団十郎さんにはない、違った魅力のある弁慶だ。
 踊りで大きさや性格を表せるからなのだろうか。
 後見は大和屋さんの人が代わりにつくのだろうか?と思ったが、
 お馴染みの升寿さんだ。
 こうしてみんな気持ちを1つにして、休演の穴を埋めていると思うと、
 また切なくなる。
 飛び六方の引っ込みは、
 勢いよく、まさに鳥屋に突っ込む勢い!
 そうだ、これが弁慶だ。
 9日の団十郎さん引っ込みの時、あれ?と感じた違和感はこれなのかも。
 パパよほどお辛かったのだろうな、とまた涙。
 割れんばかりの拍手とかけ声。
 立派な弁慶ぶりと、富樫の成長ぶりを、客席が実感した一瞬だったと思う。

 本当にいい勧進帳だった。
 三津五郎さんは口上で、
 「海に住む海老も、数十回と脱皮を繰り返して殻を破り成長するといわれています、
  新海老蔵さんにおかれましても、幾度となく殻を破り、
  大きな役者さんに成長していかれることでしょう。
  それを歌舞伎界の宝として、見守る所存にございます」と言っていた。
 まさにその殻を破る瞬間を、見た思いがした。
 きっかけは団十郎さんの休演という、残念なものではあったけれども。

 団十郎さんには一日の早く善くなって欲しい。
 海老蔵のこの驚く成長ぶりも、見てもらいたい。


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