川底を流れる小石のように。  〜番外編〜  海老蔵への道!
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2004年02月15日(日) 二月大歌舞伎 昼の部 「毛谷村」「茨木」幕見

 先日、三味線のお稽古をはじめたばかりのにごちゃんと幕見デート。
 彼女は歌舞伎を10年くらい前に一度観たことがあるけれど、あまり記憶にないとのこと。
 なので、だったら今回は楽しんでくれるといいなーと思う。

 歌舞伎座前にいつも出てる、甘栗売りの屋台の前で待ち合わせ。
 春がもう来たかのような良い天気で、地下鉄の階段を見下ろしながら待つ。
 すると、階段を登る大勢の人の中で、一人だけクルリとこちらを振り向いた女性がいた。
 あーにごちゃん!
 まるで私がそこでワクワクしながら待ってるのを知っていたかのような彼女の笑顔に会えてビックリする。
 「なんだかそっちから呼ばれてる気がしたよ」とのこと。
 気持ちの良い待ち合わせだった。

 今日は「だんまり」「毛谷村」「茨木」と、幕見とはいえ盛りだくさんなので、
 ちゃんとお弁当を手に入れましょう。
 「まるうめ歌舞伎おむすび」と、伊まさとの「ぼたん海老寿司」を買って半分こすることに。
 どちらも自ら試して、おすすめの味。
 並んで待つ間も、三味線「しま吉」の話などあれこれ聞いたり、
 可愛いお土産をもらってしまったり、楽しいひととき。
 
 「だんまり」
 
 だんまりというだけあって、台詞は殆どない。
 けれど幕見でもイヤホンガイドが借りられるようになったので、助かる。
 ウォーミングアップに調度よかったようで、
 左団次の鬘すごいーとか、
 玉太郎の足の親指がきっちり反ってる!とか私がこしょこしょ言ってるうちに、
 にごちゃんも、4階からの眺めやイヤホンから聞こえる声や、
 あっちの方から聞こえる大向こうの声や、
 歌舞伎座の匂いに慣れたみたいだった。
 

 「彦山権現誓助剱」(ひこさんごんげんちかいのすけだち) 毛谷村
 
 なにしろ時代劇好き、マゲ好きのにごちゃんは、
 夜の部と散々迷っていたが、吉右衛門見たさに昼の部に決定。
 私も吉右衛門は久々で、楽しみだ。

 吉右衛門演じる六助は、気は優しくて力持ち、親孝行でしかも武芸の達人。
 出てくるなりの大らかな笑顔が、どーんと力強くて優しくて、
 感動してしまう。
 にごちゃんと「きっちーいいねー!」と目と目で会話。
 
 そこらの男には負けない女武芸のお園を時蔵が演じる
 六助お園のラブコメディー(?)。
 小さな子役もかわいらしく、
 楽しい演目であった。


 幕間にお弁当。
 美味しいねーとパクつく。
 売店も絵のコーナーも、食堂も喫茶店も、何にもない4階席。
 でも、そこがまた楽しくもあり、
 ここも楽しんで、一等席も味わうと、きっとまた格別。

 「茨木」

 玉三郎の鬼婆、茨木童子の初役が話題なので、
 幕見の人が急に増えた。
 長唄三味線、九丁九枚。(字はこれでいいのでしょうかしらん。九挺?)
 にごちゃんが習ってるのも、長唄三味線だと聞いてる。
 長唄って心地よい。
 渡辺綱を、こちらも初役で団十郎。
 稲妻の柄の黒の衣装。
 団十郎のやる役は、いつか新もやるかもしれぬ・・・と思うと、見ていても力が入る。

 前シテ、老いた綱の伯母真柴の玉三郎、
 ヨロヨロゆっくり花道を進んでくるのか、4階からはしばらく姿が見えない。
 この、階下では何かが起きているらしいのに、ぽかーんと待つしかない気持ちも
 4階ならではの楽しみと、二人で苦笑い。

 美しい女形の時もそうだけれど、
 慣れない盗賊お嬢吉三の時も、こんな白髪のおばあさんの時も、
 玉三郎はいつだって、透明なマイナスイオンの球形に被われてるように見える。
 その中には、玉三郎独自の緊張感や美意識や、張りつめた澄んだものがあるような。
 今日は、そんな事を感じた。

 とはいえ長唄と松葉目物の踊りと、お弁当でお腹いっぱいとで、
 二人とも仲良く少しだけ気を失う。てへへ。

 真柴が鬼の本性をあらわし、歯をむき出し目をむき、悪鬼の形相。
 どよーっとしたざわめきがおきる。
 こんな顔の玉三郎は、めったに見られないからだろうか。
 私がもし、玉命!なファンだったら、
 ひー!玉さんがーとか言って、騒ぐかも。
 
 中学生の時、玉三郎の舞踊公演のチケットをいただいて見にいったのが、
 今思えば、生まれて初めての歌舞伎体験であったと思い出す。
 ほえーっとなるほど美しかった。

 茨木童子の踊り。
 いよいよ誰だかわからぬ鬼の隈取り。
 カーっ!と開いた大きな口は、赤く禍々しく、
 ひたすら綱が追い戦うが、時すでに遅し。
 幕切れの綱の、茨木を追う、大きく口を開きぐっと足を開いた見得に、
 こんなの見たことないー!と驚く間もなく、
 幕外、花道の鬼の引っ込み。
 おわーここからはあまり見えなかったが、
 鬼のすごい引っ込みだったのだろうねーと話す。


 外は気持ちよく、歩きたいねということに。
 我が儘を言って、歌舞伎専門古本屋「奥村書店」に付き合ってもらう。
 おかげで欲しかった本を見つけることができた。
 ついでに鳩居堂ものぞき、こまごまと買い物。
 新橋から地下鉄に乗り、にごちゃんちへ。

 そこには三味線「しま吉」が待っていた。
 にごちゃんの三味線は、思った以上に上手で大喜び。
 後は色気だねえ、などと笑う。
 お師匠さんのお手本のMDが、艶っぽくていい音で、いい声で、
 いいねーいいねー!と何度も聞かせてもらってしまった。
 すっかり益々長唄のファンになる。

 このあたりから、ちょっとビールがまわってきて、いい気持ちに。
 最近の私の成田屋熱を、そんなに夢中になれて楽しそう!と言ってもらって、
 でもさあ、これも結構つらいのようーなどと甘えた愚痴も言ってみたり。
 わはは。

 朝から目一杯、楽しかった日曜日。


 
 ○○追記○○
 次の観劇は、28日の「眠り王」です。
 新之助としては本当に最後の舞台。
 抽選でご招待とのことで、葉書たくさん書きました。
 無事に当たって、嬉しかったっす。

 こういうチケット確保に一喜一憂したり、時間やお金の工面、
 オノレの心の暴走との戦い。
 (今日も、にごちゃんには沢山呆れられたかもしれません。)
 好きな俳優さんの襲名の年に立ち会えるヨロコビは、ちょっと苦しみ混じりでもあったりして、
 最近友達みんなに「楽しそうー!」と言ってもらえて嬉しいのですけど、
 愚痴もちょびっとこぼれます。
 励ましてもらったりして、贅沢な悩みですね。


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